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りっちな株のポイント

 こんにちは😊 

 「りっちな株」シリーズ、読んでいただいてありがとうございます。
 「りっち=立地」というのは、「その事業で誰に何をどのように提供するのか」という企業が行う事業の立ち位置のことです。
 株投資は銘柄選びが勝負😉ですよね。おじさんは初心者向けに銘柄選びの記事を書いたことがありますが、多くの人が集まる大型株だけではなく、成長が期待される中小型銘柄を探そうとすると、情報量が限られてきますので、情報量と分析力で勝率に差がついてきます。下の図のように、立地分析を詳細に行うことで銘柄分析の精度が上がれば株投資の勝率が上がります。

立地分析

 でも、「立地分析と言われても何を分析するのかよく分からない」というご指摘もごもっともです😅。
 実は何を分析すれば百点満点の立地分析になるかというと、答えはありません。なぜなら、これが完璧にできるのであれば、企業経営は必ず成功して世の中の企業は常に好成績になってしまいます。株価が下落するなんてことは起きないことになりますが、そんなはずはないですね。

 とはいえ、ポイントを押さえておくと特に中・小型株の銘柄選びでは力を発揮すると思いますので、今回は番外編として、経営戦略から見た立地分析のポイントをお伝えしていきたいと思います😊。

【注意いただきたいこと】
ここでは中長期で大きく成長する銘柄の選び方について書いていますので、テクニカル分析や時事ニュースを基にした、短期トレードやデイトレードのような株取引には役立ちません。ご了承ください。

企業経営と立地

 以前紹介した通り、おじさんはある大企業で企業経営に携わっています。今も経営学をはじめとしたいろいろな分野の勉強をしながら仕事をしています。正直、経営学のお勉強は数式とデータだらけで皆さんにうまく紹介できることは少ないのですが(説明するのが下手なのです・・・😢)、例えばM&Aの検討は銘柄選びと似ていますので、株投資に役立つ視点はたくさんあります(おじさんはM&Aに携わっていないのでインサイダーではありませんよ😉)。
 その中でも、特に経営戦略に関する分野は立地分析に役立つことばかりですので、抜粋してお伝えしようと思います。気になる銘柄の立地分析を行うポイントを参考にしてもらえればいいなと思っています😉。

立地戦略ってどんなこと?

経営戦略の極意

 企業の経営戦略の極意は言葉にすると極めて簡単です。

極意:「競合相手との正面衝突を避ける」

 これが極意です。当たり前と言えば当たり前ですよね・・・😅。
 では、どうやって競合相手との正面衝突を回避するのか。方法やプロセスはたくさんあります。これが経営戦略になるわけです。
 例えば、安売りでシェアを拡大して競合相手を市場から駆逐してしまうのも一つの戦略ですし、まだ誰も進出していないアフリカの国へ行って市場を作り出すのも一つの戦略です。戦略は過去事例のマネをしても、競合相手も同じことをしてきて衝突するだけですので意味がありません。個別事例ごとの独自性が重要です。
 ですので、この経営戦略の意思決定というものは練習できるものではありません。歴史、背景、環境、プロセスといったことを広く考察して、その場その場で合理的な決断を下していく力が必要になります。

5C分析

事業戦略において最も重要なのは立地(その事業で誰に何をどのように提供するのか)です。立地の選定プロセスでは、いわゆる5C分析を通じて詳細に検討した戦略立案が求めらます。
 企業サイトの社長コメントや決算短信の経営状況説明を読むと、5C分析の深さを読み取ることができます。特に最近は株主重視の風潮もあってか、企業サイトの発信でかなり詳しく説明している会社もあります。
 ファンドマネージャや企業のM&A担当は、対象企業に直接インタビューを行って調査をするのですが、近年ではインターネットで得られる情報が非常に多くなっていますので、個人でも多くの情報が得られると思います🥰。

5C分析(出典:キャククル)

高収益事業の成長戦略

 高収益な事業を成長させたいのはどの企業でも同じです。高収益事業の成長戦略は次の3つの条件を満たせているかが重要です😉。

 ①前人未到:そこに競合相手がいるか
 ②ミッションクリティカル:顧客にとって無くてはならないものか
 ③防壁:競合相手に対する参入障壁があるか

この3点が、上の5C分析の結果に基づいて成長戦略に練りこまれているかが問われます。また、時間が経つと必ず現れる競合相手に対する競争戦略も大切です。

 少し余談になりますが、企業のWebサイトを見るとき、気を付けて見ると面白いことがあります😎。
 顧客にとって一番大事なことは「その企業が顧客に対してどんな価値を、何のために提供してくれるのか」Value Propositionといいます)ということですよね。残念ながら、いまだに製品ラインアップや技術紹介を並べるだけのサイトは多いです。もちろん、これがダメとは言いません。でも「その製品を使うとお客さんにとってどんな良いことがあるか」を中心に発信している会社は、立地戦略をしっかり検討している会社です。これはおじさんの経験上、間違いないと思います😉。
 例えばですが、自動車用タイヤの宣伝広告をするときに「新素材を採用」「耐久性抜群」のように技術を前面に出しても差別化はできません(一昔前の企業広告はこの類が多かったのです)。お客さんにとっては新素材かどうかはどうでもいいことですよね。「少し高いけど10年は交換不要」「走行音が従来の半分になって静か」といったように、その技術でお客さんにとってどんな良いことがあるのか、Value Propositionを明確にPRできている会社は、その商品をしっかりとした戦略に基づいて開発していることが分かりますね。

銘柄選びで確認したいこと

 銘柄選びの話に戻りましょう。
 銘柄選びでは、気になる銘柄の事業戦略が上に書かれたような成長戦略になっているかどうかをチェックするとよいのです😊。
 経営指標は良いけれど成長戦略が無い企業の株価は短期でしか伸びませんし、技術は斬新だけれどもすぐに真似されてしまう技術をウリにしていると近い将来に株価は下がります。

 株投資における銘柄選びでは、最初の図にあるように次のような分析がベースになります。(M&A対象の分析でも同じことをやります。)


 業績・企業価値 :ファンダメンタルズ分析
 株の需給    :テクニカル分析
 成長性     :立地分析


 この記事でお伝えしたい、経営学から見た立地分析については、すでに触れたとおり次の3点がポイントです。一過性のブームではなく大きく成長している事業ではこの3つがしっかり考えられています


🌟立地分析のポイント🌟
 前人未踏  :競合がいない、もしくは業界首位、ニッチ
 ミッションクリティカル  :顧客にとってその製品が無くてはならない
 防壁    :技術(知財)、ブランド、囲込み、ネットワーク効果、
        規制 などによって他社が容易に参入できない


 3つ目の「防壁」がどんなものか、もう少し詳しく説明します。競合社が市場に簡単に参入できないようにする方法はいろいろあります🥸。

技術(知財):
 他社には真似できないノウハウ、特許のような差別化する技術や製品です。知財でなくても「製品が超大型で、大きなスペースと特殊な加工機械を設備で持っている」のようなケースもあります。

ブランド:
 高級時計が「Swiss Made」であるように企業のイメージは重要です。品質への信頼性、デザインで差別化できているかチェックしてください。「少々高くても買う」というケースはブランド力によることがほとんどですので、収益性に大きく影響する要素です。

囲込み:
 一度使うとそう簡単には乗り換えられない製品があります。例えば、企業の基幹システムのようなものは他社製品に乗り換えるにはかなりのコスト(スイッチングコストと呼びます)が必要です。また、工作機械のように他社製に乗り換えると従業員の再教育が必要で品質への影響も懸念されるような製品もこれに当たります。

ネットワーク効果:
 ユーザが増えることによる派生効果のことです。SwitchやPlaystationのようなゲーム機が有名ですが、「皆が使っていてそれに合わせるしかない」というような業界標準を押さえてしまうことです。これ以外にも例えば、スマートフォンをiPhoneかAndroid以外のOSにするのは勇気が要りますよね。電気自動車の充電コネクタの形状はテスラ形式が優勢です。

規制:
 航空業界では安全性を確保するために業界団体の認証を受けたメーカの部品だけが使用されています。認証を受けるためには品質管理体制の整備などに非常にコストがかかって、仮に認証を取れたとしても部品を作る資格を得ただけで仕事が来るかは分かりません。そうすると新規参入意欲はそがれてしまいます。他にも、医療業界は医師団体や厚生省の壁が厚く、新規参入が非常に難しいと言われています。こういった規制は様々な業界にたくさん存在しています🤔。

 防壁というのは技術力だけではありません。銘柄選びではこれらの点にも注目してみてください。

事例(長谷川香料の例)

 かしこまった話が続いたので、最後にあまり知られていない立地戦略の事例を紹介します(企業経営の研究では多くの立地戦略事例を学ぶのです)。上で述べた立地分析を振り返りながら読んでみてください。

 いまや誰もが知っている森永乳業のアロエヨーグルト。登場したのは1995年でしたが、おじさんにとってのアロエは「火傷をするとばあちゃんが渡してくるサボテンの一種」のようなものでしたので、アロエをヨーグルトに入れて食べるというのは「ゲテモノ」の印象で、こんなものは売れるわけがないと思っていました🥹。

アロエ

 ところが!です。この30年の販売数は64億個!フルーツヨーグルト市場では不動のナンバーワン商品なのです。甘さ控えめで健康的なイメージが健康志向の強い女性を中心に口コミを中心に人気が拡がり、いまや定番中の定番に育った商品です🤩。

森永乳業のアロエヨーグルト

 このアロエヨーグルトにアロエ(アロエベラ)と香料を供給している会社が香料界の大手企業、長谷川香料(4958)です。長谷川香料は国内香料業界第2位につけていて、特徴ある食品向け製品が主力です(また別の記事で会社紹介しますね)。
 アロエヨーグルトは細かくカットしたアロエベラの葉肉をヨーグルトに混ぜて、ライチ風味の香料で味を調えてあります。このアロエベラと香料こそ長谷川香料がほぼ独占している商品なのです。
 実は、アロエそのものはほとんど香りがしません。でもアロエヨーグルトの香りってありますよね。あの爽やかなライチ風味の香りは長谷川香料が作り出した香りなのです😉!
 カットしたアロエが手に入っても、あの香りが無ければ森永乳業のアロエヨーグルトは売れません。長谷川香料はカットアロエと香料をセットにして森永乳業へ売ることで、森永乳業が開拓した市場で独占的な地位を手に入れました。森永乳業は長谷川香料のおかげで、もともと明治乳業が強かった果肉入りヨーグルト市場でナンバーワンになりました。これぞウィン・ウィンの関係ですね🥰。もちろん弱みもあって、アロエヨーグルトの人気がなくなれば両社とも転落してしまいますが、一旦市場を確立してしまえばそう簡単に縮小する分野ではありません。
 (※)アロエ生産をしているタイから、商社を含めた3社が感謝状を受け取ったこともあるそうです

 立地分析の3ポイントを見てみましょう。

前人未踏:
長谷川香料は誰からも関心のなかった「アロエの香り」を作り出して、アロエの香りを消費者に植え付けました。さらに、アロエベラという葉肉をカットして香料とセットにして販売するというビジネスモデルを開拓しました。

ミッションクリティカル:
ここでは森永乳業が顧客です。森永乳業のアロエヨーグルトビジネスにとって、長谷川香料の「アロエの香り」と「カットアロエベラ」は無くてはならない製品です。どちらかが無くてもアロエヨーグルトは成り立ちません。

防壁:
他社が参入しようとしても、長谷川香料が開発したあの香りが無ければ消費者はアロエと認めてくれません。香りを手に入れるにはカットしたアロエベラもセットです。どちらか一方では参入できませんね。しかもアロエヨーグルトは森永乳業と長谷川香料ががっちりタッグを組んで人気商品として君臨していて、市場を押さえています。アロエヨーグルトファンはあの香りでないとダメなのです。技術と囲い込みによる防壁です。

 どのポイントも完璧です。素晴らしいです🤩。これが経営戦略で「立地」に成功して成長事業となった例です。

まとめ

 立地分析が銘柄の魅力を明らかにしてくれることがお分かりいただけましたか?
 多くの企業にとって経営戦略は大切な企業秘密ですので、Web検索をしても情報は出てきません。でも、決算説明会、企業の協業の報道、業界紙の記事、特許といった情報は誰でも入手することができる情報です。こういった情報から企業の成長戦略を推定することは可能です。特に最近は株主重視の傾向があるので、株主への発信にはこういった貴重な情報が数多く含まれています😉。
 それから、新商品が発売されたときにその商品を支えている製品を作っている企業に注目してみるのも役に立つ分析です。アロエヨーグルトの香りを誰が作っているかなんて、普通は気にしませんよね。
 ぜひ立地分析をやってみてください!

 ではまた!😊


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