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【C-035】アナログ足りていますか??

今やデジタル全盛の時代です。
‘マーケティング’と言えば、‘WEBマーケティング’や‘デジタルマーケティング’などと同義として浸透しています。デジタルの施策は全て数字で追えるので、従来の宣伝媒体(TV,ラジオ、雑誌、新聞等)では検証しきれなかった部分が明確になります。従来の宣伝媒体にお世話になることが多かった身としては、これは革命的な出来事でした。

私は、メーカーで20年以上マーケターをしていました。担当した企画が製品化され、世の中で計画通り売れてもらうために、あれこれと頭を使う日々を過ごしてきました。一人でパソコンの画面に向かっていても何も解決しませんので、メンバーとの打ち合わせはもちろん、社外の異業種の方々と情報交換することも多くありました。様々な店舗、売場を見て回ることや、時には話題のイベント等も観に行きました。

刑事ドラマで「捜査は自分の足でかせぐ」的なセリフがありますが、まさにそんな感じです。具体的に調べたいことは、インターネットで簡単に調べることが出来ますが、自分のイメージにないことは、そもそも思いつきませんので調べることは出来ません。「自分のイメージにないこと」にこそ、多くのヒントがありました。思い込みや食わず嫌いな感覚は捨てて、色々な情報を吸収するべきだと思います。

新聞や雑誌の記事もスマホで読むことが出来ますが、やはり紙面(誌面)を広げて視界に飛び込んでくる「自分には興味関心がない」情報に気が付くことが貴重だと思います。これは店舗に足を運ぶことでも同じです。書店は特にわかりやすいと思います。購入する本が決まっているのであればネットでの購入は便利ですが、書店内をぐるぐる見て回ると、知らない本にたくさん出会えます。この体験は非常に大事だと思います。

 さて、最近セールスの電話がよくかかってきます。社名こそ違えども、ほぼ同じアプローチなので、素朴な疑問として聞いたこともあります(笑)
ざっとこんな感じです。

ホームページ拝見してご連絡しました!
集客策はどうされていますか?
今のサイトを活用するだけの集客策のご提案です!
御社向けの資料を作成したので一度ご説明させてください!
御社のエリアをまわっているので、少しお時間ください!

みたいな流れです。見事にマニュアル化されています。そもそもIT系な会社のはずなのに、昭和的な営業手法が何とも違和感があります。資料があるならメールで送ってもらえれば確認する旨を伝えると、決まって「直接でないとお見せできないんですよ~」となり、その胡散臭さと実際面倒なので断ることになります。この営業スタイルって正解なのでしょうかね。

そんなに優れたサービスなのであれば、何気なくネットを見ている間に巧妙な広告によってサイトに誘導してくれれば見るのになぁ、と思ってしまいます。全くデジタルな感じがせず、このような「アナログ」はノーサンキューなのです。

デジタル系の会社の皆様、アナログ足りていますか?

デジタルの仕組みやシステムは、本当に凄いと思います。(こんな表現しか出来ないので、私の程度が知れますが…)

デジタル系の会社の皆様には、自社サービス売込のための情報や想定問答だけではなく、その手前の「この会社の〇〇は、うちのデジタル施策に向いているかな」というアナログな感覚を持って欲しいと思います。

マーケティングは、4Pをミックスして売れる仕組みを作ることですが、そもそも「プロダクト」が成立していないと、いくら「プロモーション」しても売れません。ざっくり言うとこの辺の感覚です。
自社のサービスを売り込めたとしても、結果が伴わなければ、信用信頼もなくなり1回だけの付き合いになってしまいます。まぁ、売り逃げ状態ですね。これでは一気に評判が落ち、会社へのダメージも大きくなるのではないでしょうか。

こういったアナログな感覚を身に着けるには、様々な事例に学ぶのが早道だと考えます。

私は玩具メーカーで長くマーケターをしていました。製品企画はもちろんプロモーションとしてのコラボ事例を数多く経験しました。この内容は、アナログ感覚を養うのにお役に立つと思います。是非読んでいただきたいと思います。

玩具はコラボ事例の宝庫

玩具メーカーでは、ロングセラー製品を担当したこともありましたが、玩具市場以外を意識した製品を開発する部門にも在籍しました。マーケターの仕事にはプロモーションの立案もあります。ロングセラーは、その時々での工夫はもちろん必要ですが、基本的に従来の手法を踏襲すれば良かったので、実は楽でした。対して、前例が無い新しい製品は、全てが手探り、試行錯誤の連続でした。この時の経験は、ここで語れるほどに自身の糧になっています。

クッキングトイブーム

前例の無い製品の中には「クッキングトイ」という調理系玩具がありました。2007年頃から各社から次々と発売され、玩具業界でちょっとしたブームになりました。

「クッキングトイ」は今風の呼び方ですが、調理系の玩具は昔からありました。昭和の子供文化を語る際に「ママレンジ」という商品がテレビ番組などではよく取り上げられます。小さいレンジ台にむき出しの電熱線があり、そこに鉄製の小さいフライパンを置いて、ホットケーキを「本当に焼く」という玩具です。当時の大ヒット商品です。本当に作れてしまうままごと玩具に当時の女の子は熱狂したのです。ただし、‘電熱線むき出し’は現在の玩具の基準にはもちろん適合しません。現在の開発、生産、品質の担当者にとってはただただ恐ろしい製品です(笑)

さて、「クッキングトイ」は、電子レンジを使うことで時短しながら調理するものや、そもそも手間がかかる作業を簡略化するもの、世間で流行っているスイーツを再現するもの等々、各社アイデア出しまくりで市場を盛り上げていました。

団塊の世代大量定年!?

2007年に手打ちそばを簡単にやってしまおう、というコンセプトの製品を発売しました。この数年前から世の中では「団塊の世代の大量定年」が話題になっていました。業界問わず、あるとあらゆる会社が彼らの退職金や「第2の人生」市場を当て込んだ商品やサービスを準備していました。玩具メーカーももちろん参戦しました。実は手打ちそば製品は、シニア層向けに企画開発した第2弾になります。前年2006年にはすでに第1弾を発売し好評を得ていました。自宅で陶芸を楽しめるコンパクトな電動ろくろのセットです。企画するにあたり、シニア層に定年後にやってみたいことのアンケートを取りました。結果、「陶芸」と「手打ちそば」が圧倒的なツートップで、悩むことなく順番に製品化することになりました。
さて、この「団塊の世代の大量定年で新たな市場が出来る」フィーバーは、定年後もそのまま働くというオチにつながります。さらに2008年のリーマンショックにより、盛り上がりかけた市場も一気にシュリンク、跡形もなくなりました…。

予算が無いなら知恵を出せ!

話しを「手打ちそば」に戻します。この製品は「いえそば」といいます。その後廉価版の「そば打ち名人」へリニューアルします。ハードの話しはネット等で検索いただくとして、ここではプロモーションについてお話しします。2007年当時、まだSNSはありません。ネット通販はありましたが、まだまだリアル店舗が優位な時代です。プロモーションもテレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった今では旧メディアとされる媒体が主流でした。「いえそば」の宣伝販促予算は、テレビCMを展開できる額はなく、店頭販促のツールを準備すると終わってしまう感じでした。社内プレゼンでも宣伝販促計画は地味な印象に取られてしまいました。経営陣からも「つまらない」と一言。こちらもつい本音で「予算も限られており…」と言ってしまったのが地雷でした。ある役員から「おまえはいつも予算が無いって言うが、無いって言ってもゼロじゃないだろ!知恵を出せよ!」と。これをきっかけに「タダで話題が作れないものか…」と考えるようになりました…(苦笑)

食品売場で運命の出会い

「いえそば」は自宅で楽しむものなので、そば以外に関連品が色々と必要になります。その中に「つゆ」があります。凝り性な方は、そばつゆもこだわって作ったりするのでしょうが、つゆは市販のものを使うという方も多いはずです。そんなイメージを持ちながら、時間を作ってはスーパーマーケットを見て歩きました。市販のつゆは、どんなものが売られているのだろう、という調査です。
ある時、‘これは!’というつゆを見つけました。大手メーカーから発売されているもので、老舗蕎麦店の名がついた商品です。老舗蕎麦店の名前に惹かれて購入しました。

老舗蕎麦店で権威付け

購入の翌日にこのメーカーのお客様相談室に電話をし、コラボしたいと告げました。すぐに営業の方から連絡があり、再度説明し、試作を見に来てもらえることになりました。その後双方のプロモーションで露出し合うことから始めましょう、と話しが進みました。何度か打合せを重ね、先方とも打ち解けたかな、というタイミングで、この老舗蕎麦店を紹介して欲しいとお願いしました。「いえそば」に箔をつけるために、何とか老舗蕎麦店にもプロモーションに加わって欲しかったのです。手打ちそばを趣味としている方から見れば、おもちゃメーカーがこんな製品を出すことを良く思っていないのではないか?という不安が常にあったので、何とかして‘権威付け’をしたかったのです。

老舗蕎麦店で発表会

提案したのは、お店でマスコミ向けの発表会をする、というものでした。「いえそば」は、自宅で簡単にそばが打てることが最大のウリなので、それを記者に体験してもらうことが良いと考えました。もちろん老舗蕎麦店では初めてのことですが、協力いただけることになりました。当時は水曜日が定休日でしたので、その日を特別に貸し切りにしてもらいました。記者は完全アポイント制にし、宣伝と広報のメンバーにアテンドを依頼しました。イベントは好評のうちに終了し、後日、続々と記事になりました。記事には、老舗蕎麦店の名前が入り、記者は初めてそばを打ったが上手く出来た、それも美味しい、という文脈でPRには最高の内容になっていました。老舗蕎麦店名が入ることで、権威付けにも成功しました。これらの記事のおかげで、発売当初から好調に推移しました。記事の効果は絶大で、ある地方自治体から電話がありコラボが実現。翌年の年間プロモーションはこの自治体と行いました。予算を掛けずとも話題化する、情報を創る、ということを様々に実現出来ました。

コラボありきでの製品企画!?

「いえそば」含め、その後もクッキングトイの発売ラッシュは続きます。クッキングトイは市販の食材を使いますが、それは近所で容易に入手出来るものでなければなりません。近所のスーパーに行けば必ず買えるものでなければ、何度も使ってもらえないからです。小麦粉、牛乳、ホットケーキミックス粉、アイスクリーム、つぶガム(ボトル入りガム)、ポテトチップス、缶ビール等々、色んな食品を使う様々な製品が発売されました。全て、コラボありきでメーカーを意識して企画をしていました。業界最大手のこのメーカーにアタックしよう、みたいな計画を立てながら、コラボ提案をしまくりました。(全て紹介すると長くなるのでまた別の機会に)

違う売場での露出

玩具と食品というコラボの場合、わかりやすいメリットとしては、お互いの売場で露出出来ることです。お互いの販促物に写真を載せ合うといつもと違った売場で宣伝が出来ます。クッキングトイでは食品の写真と商品名をパッケージに印刷することが多かったです。「これを使う!」とパッケージの正面に載せてしまうのです。クッキングトイを買ったら、自然とその食品を買うわけです。これは子どもに刷り込めるので、食品メーカーには喜ばれました。実際には玩具と食品では市場の大きさが違うので、玩具メーカーのメリットの方が断然大きかったと思います。

とは言え、コラボ提案の際に一番気をつけていたのは、やはり相手のメリットです。こちらの要望ばかりでは成立しませんから、相手も面白いと思えるような内容を準備することを心がけました。また、お互い無理のない範囲が大前提になります。追加でこんなに費用がかかる、みたいな「がっちりタイアップ」にならない方が良いと思います。

中には、こちらの心配が吹き飛ぶようなこともありました。相手が大きい会社の場合は、そもそも‘生活レベル’が違うので、こちらが恐縮するようなことも相手は何とも思っていない、みたいなことが何度もありました。これも含めて良い経験でした。

自分たちだけで動くと1ですが、コラボすればそれが2にも3にもなります。情報の質も量も確実に増えます。それによる問い合わせも増えます。他業界のことも色々と知ることが出来て、勉強になります。
私は、食品や日用品のメーカーや卸の方と知り合うことが出来、それぞれの業界の流通や商慣習なども勉強出来ました。この知識は今でも役に立っていますし、財産だと思っています。

上記は20数年のサラリーマン時代の1コマです。
若い世代の方には興味深く聞いていただいています。デジタル系の会社の経営者、幹部も皆様、社内研修の一環としてお時間いただければ
喜んで話しますので、是非お声がけください!!

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