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ありがとうがまだ言えない

なぜだかこどもの頃の記憶はほとんどない。

唯一覚えているのはあの暑い夏の日の出来事だ。

当時小学3年生だった僕は、妹の茜、僕の同級生の竜太、その妹の麻美、
そして僕のおばーちゃんと竜太のおばーちゃんと6人で東京ドームへ向かっていた。巨人対日ハムの試合に行くためだった。

僕が生まれたのは東京の西部。区ではなく市や町が存在する東京西部の自然豊かな町だ。

そんな町から東京ドームへは電車で約2時間。軽い小旅行だ。

その道中で事件は起こる。

三鷹駅で中央線快速から総武線に乗り換える時。

僕は東京ドームに行く喜びを抑えきれず、中央線のホームの階段を駆け上り、総武線のホームへ続く階段を駆け下りる。。

そしてみんなより先に電車に飛び乗った、、、

その瞬間、無情にもドアが閉まってしまった。

ばぁちゃんがドアを叩く。ドンドンドン。

でも電車は止まらない。

この時、大袈裟でも何でもなく、僕は死を覚悟した。

一人でなんて生きていけない。これからどうすれば。。。

咄嗟に進行方向の1号車の運転席のドアを叩くが誰もいない。

あぁこのままどこへ行くのだろう。僕はもう死んでしまうのかもしれない。

平日の昼間。がらんとした車内で一人泣いていた。

そんな時「どうしたの?」と声をかけてくれたお姉さんがいた。

「東京ドームにおばあちゃん達と行こうと思ってたの。。。」と言うと

「じゃあお姉さんが一緒に行ってあげるね」と一緒に東京ドームまでつれてってくれた。

水道橋の駅に着くと改札前でみんなが駅員さんと話をしている最中だった。

夢中でばあちゃんに抱きつく。

お姉さんは名前も言わずに颯爽と元来た階段を駆け上って行ってしまった。

あのお姉さんは今も元気だろうか。

今は何歳なんだろう。

会えるなら会ってお礼がしたい。

お姉さん、あの時は本当にありがとうございました。






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