【小説】レモンサワー


「あの人にとっての一番は、きっと私ではなく、ユキくんなのよ」
乾杯をする間もなく、主役である私の友人はレモンサワーを一気に飲んだ。あんたの結婚祝いなんだから、せめて乾杯くらいはさせなさいよ、と婚活ガチ勢の二人はエアでグラスを掲げる。こんなだから結婚できないんじゃないかと思いながらも、私も独り身なのでお通しの白和えに箸をつける。

友人は、高校から付き合っていた彼氏と10年の交際を経てついに結婚した。「ユキくん」とはその彼氏の友人であるらしい。のろけ話を聞かされるたびに、いつもでてくる人物だ。写真まで見せられた。友人と彼氏のツーショットよりもなぜか「ユキくん」がいるスリーショットが多いのではないかというほど、夫婦揃って「ユキくん」と仲が良いように見える。しかし、実際は違う。仲がいいのは彼氏と「ユキくん」で、2人は異常なほど仲良しだと言う。
 
3杯目のレモンサワーが半分になった頃、友人は爆弾を投下した。
「今日も2人で実家に帰ったの」
シティポップと学生たちのコールが響いている。店員さんは、忙しそうにドリンクを運んでいる。
「え、2人で帰ったの?」
友人は残ったレモンサワーを一気飲みした。
「うん。」
私は、店員さんに水を頼んだ。一緒に帰れば良かったじゃない女子会は主役のあんたに合わせるからいつでも良かったのに、と婚活ガチ勢の2人は友人を気遣う。店員さんが水を持ってきて、皿と枝豆の残骸をさげた。

「あの2人の間には、誰も入れない二人だけの空気が流れているみたいで。まぁ、そんなこと結婚する前からわかりきっていたことよ」
失礼します、と空気を読んだのか話が途切れたところに店員さんが来た。
「次でラストオーダーになりますが」
「はい。じゃあティラミスを4つ?でいいかな?」
ここの居酒屋はティラミスも有名なのだ。婚活ガチ勢の1人が良いデート場所探しでここを見つけてから、いつもの女子会の場となっている。
「私はいいよ、別ので」
友人は、メニューを眺めている。しかも揚げ物ページだ。
「じゃあ、ティラミスを3つお願いします」
「レモンサワーと鶏なんこつをお願いします」
友人はまだ、飲み足りていないようだ。

「私も友人思いのナツオに惹かれて好きになったんだから、仕方のないことよ」
器が広い。「ナツオさん」もそんなところに惹かれたのだと思った。

「レモンサワーと鶏なんこつです。」
ティラミス、すぐに持ってきますねと言って店員さんは早足で戻って行った。
 友人は豪快に鶏なんこつを口に放り込み、ぼりぼりと音を立てて食した。
「まぁ、あそこまで仲良くされるとユキくんと結婚すればいいのにと思うわ。」
ティラミスは最高だが、2次会は決行だ。

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