#12.リワークな人々

 リワークの参加者は大体、月に1~2人ほどが卒業していきました。そして、入れ替わるようにして新たな参加者が加わります。

 復職を目指し、復職後に再びダウンしないという共通目標の中、沢山の人たちと日々を過ごしました。そんな中で仲良くなった人もいます。

 藤本さんとは歳も近く、リワークに参加した時期も僕と1週間違い。更には同じIT系の職種で、何かと話すことが多くなったのだけれど、彼を最初に見たときの第一印象は失礼ながら『クッソ真面目だなぁ~』って感じ。

 あれはリワークの一環で『絵葉書』を描いたときのこと。

 みんなスラスラと筆を進めていた中、藤本さんは画用紙を前にして、大きな目を見開き、何事かを真剣に考えている様子で硬直。何分も経ってからようやく絵を描き始めただけれど、これがまた慎重の極みと言うか、下書きを書いては消し、書いては消し……内心、大丈夫かなと思って見ていたの。

 そうして完成した作品は、目を見張るほど上手な作品で。あっイラストとか描いてたのかしら? 僕の目の前にある、画用紙に何かを塗りたくったよく分からない物体と比較するのも恥ずかしい程の完成度。素直に『すげぇ』と感じ入りました。

 のだけれども、そんなに真剣に描かなくても……と思っちゃったのも事実。なので彼の第一印象は『クソ真面目』。
 ある日のリワーク終了後、先生の診察を受けた際に、

「リワークはどう? 何か感じる所はある?」

 と聞かれ、そんな話をしてみました。藤本さんに関わらず、他の方も大なり小なり一生懸命というか、真面目な印象が強いですと。

「そりゃあ手を抜いたりペース配分が上手い人は、ダウンするまで自分を追い詰めないからね」
「なるほど」
「だから君も同じやで」

 ……なるほど?

 この『真面目』という言葉がどうもピンとこないカバネ。自分には当てはまらないというか、そんな自覚がないというか。

「仕事で手を抜くとか、これくらいでいいやとか、そういうの苦手だったでしょ? 今日はシンドイから適当にするか~他の誰かがやってくれるやろ~、そんな時あった?」
「……ないですね」
「仕事でダウンする人はみんな真面目。真面目で正直。それが悪いわけじゃないけど、頭に『クソ』とか『バカ』とかがついたらアカンね。クソ真面目、バカ正直は自分を追い詰めるから」
「追い詰める、ですか」
「まぁ、他の人たちの姿勢は自分に通じるものもあると思うから。そういう気付きを積み重ねていけばいいんじゃないかな」

 ぐうの音も出ない診察とはこのこと。自分はもう少し『自覚』というものを疑った方が良いのかも知れない。そう思わされたエピソードでした。

 ◇

 他にも仲良くなった人は沢山いました。
 同じくIT系の木村さん。
 旅行業界に勤めていた中森さん。
 アパレル系で店長をしていた竹中さん。

 皆さん性格は色々と違えど、一様に真面目で責任感が強く、一生懸命で手を抜かないというのが共通点に思えます。僕もその1人らしいけれど。

 時には一緒にご飯に行ったりとか、プライベートな時間も過ごすようになりました。療法士さんたちのいる前ではちょっと話せないことも、食事の席では話せますし。工藤さん美人だねとか。超美人だねとか。

 ただ、何と言うか……変に気を遣う部分もあったりして。

 例えば、リワーク終了後に藤本さんとご飯に行ったときのこと。有体に言えばお酒を飲みに行ったのだけれど、お互いに先生から出された薬を飲んでいる身柄。先生や療法士さんにそのまま伝えるのは少し憚れるな、という思いが少し。

 翌日のリワークは活動報告から始まるわけで、二人とも『昨日は友人とご飯行きました~』とか言ったらバレるんじゃね? そしたら先生に怒られるんじゃね?

 なので口裏を合わせてアリバイ作り。僕は書店に行ったと報告し、藤本さんは家で料理を作った……そんな学生みたいな言い訳を考えるのはちょっと……いや、結構楽しかった気がします。

 あとリワーク仲間の共通点と言う意味で、もう一つ興味深いものがありました。
 自覚の無さ、というのが同じだったのです。
 真面目で責任感が強く、一生懸命に手を抜かず仕事に取り組んでいる。そんな自覚が面白いほどなかったのです。普通にやって、普通に仕事して、普通に頑張る。その積み重ねがやがて破綻を招いたのだと、ダウンしてから気付いた僕ら。

 リワークでのカリキュラム、或いは療法士さんとの面談、先生との診察を重ねていく内に『そっか、自分ってそうなんだ』と気付いていったリワークな人々。

 お互いへの理解を深めると同時に、僕たちは自分への理解を深めていったのだと思います。

 家で休んでいるだけでは決して気付けなかっただろう『自覚』というもの。リワークの意味……何人も集まって参加する意味を、この頃になってようやく理解し始めた気がします。


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