神奈川県民には存在しない「上京」という概念とコンプレックス
どうも。
Kabaddiです。
バーや飲み屋で頻繁に過ごしていた頃や、ライブハウスでいろんな人と話していた頃、よく聞いた言葉がありました。
「〇〇がしたいと思って東京に出てきて〜」
というもの。
何らかの表現をする者であれば、やはり東京への憧れを持つことは一瞬であれあるはずで、そのエネルギーで上京してくるというのもよく聞く話。
ただ、この時、聞き手としての自分自身の心の中にどす黒く広がる苦い思いがありました。
それは、自分自身は「上京」していないというコンプレックスです。
神奈川県で育ち、高校生ともなれば都内に繰り出して遊んでいたり、予備校に通っていた自分としては、東京という存在は中途半端に身近で、中途半端によくわからないところで、住民票を東京都に移すことは単なる移動でしかなく。
これはおそらく神奈川県民の多くの方に当てはまるのでは?といわばお節介のようなことを思ったので筆を執りました。
ほとんど独白のような文章になろうかと思いますが、お読みください。
行こうと思えば行ける東京
神奈川県の南側で育ち、小学校までは地元に通いましたが、中学校からは電車通学を選択しました。
それでもまだ行く先は神奈川県内、横浜市だったのですが。
それまでは徒歩・自転車で成り立っていた行動半径が、電車というもので一気に拡大したのを感じました。
行きたいところに行けるわけでもないし、定期券の範囲からはみ出した電車賃を払えるほどに手持ちのお小遣いは潤沢ではなかったですが、
「自分の意思で行けるとこが増えたなあ」
と感慨深かったのを覚えています。
そのうち、友人宅に遊びに行ったり、友人と共に遊びに出るようになり、高校生になれば、東京でも遊ぶようになりました。
アウトローなことをしていたわけではなく、単純に買い物や映画を見る場所が東京に変わっていったというだけです。
あしからず。
ここにあまり「東京への憧れ」は含まれておらず、
便利だから、とかそれくらいの理由で電車に乗って東京に向かっていました。
行こうと思えば行ける距離にある便利な施設のある街。
それが東京でした。
逆に言うと、東京に行くという行為に憧れはほぼ含まれていませんでした。
初めての憧れの街、「下北沢」
高校生になり、音楽、特にバンドミュージックに首ったけになって、ひとつの変化が生まれました。
「どうやら下北沢という場所がキーらしい」
ということに気がついたのです。
今でもフェイバリット・バンドのひとつであるTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの解散時のメンバーが初めて揃ったライブはどうやら下北沢の屋根裏というライブハウスだったらしい、とか、憧れのバンドマンたちがバイトに勤しみ、古着を集め、ライブを繰り返した街、下北沢。
初めて「場所」というものに憧れを持ちました。
そして同じように、下北沢に魅せられた友人と共に下北沢に向かいました。
ただそこは神奈川県民。
小田急線に乗れば、当時できたばっかりの快速急行で40分そこらで下北沢に到着します。
当時の下北沢の駅舎は古く、駅前には人がごった返していたし、道もよくわからないしどこに何があるのかもわからず、ただただ歩き回って、雑貨屋でジッポを買って帰ったのを覚えています。
歩き回るルールは「人が多い方に曲がる」というもの。
そうしていれば、ライブハウスや古着屋に辿り着き、憧れの人たちが過ごした街を楽しむことができました。
初めて行った日の興奮は今でも覚えています。
が。
小田急線で40分かそこらで行ける場所である下北沢は、初回以降、自分の日常的な行動半径の内部に吸収されました。
もはや「いつでも行ける場所」です。
憧れていた街だし、初めて行ってから15年以上が経過した今でも大好きな街だけれど、訪れる覚悟や、街を見る視線の熱という意味では、上京してきた人たちには敵わないんじゃないか、というコンプレックスの萌芽が、初めて下北沢に行った日の帰りの電車を待つ瞬間、生まれたんだと思います。
あまりに身近すぎるが故に、その場所に対しての覚悟を持てなかったり、全身全霊で飛び込むことができない。
だってすぐそこにある電車に飛び乗れば1時間もしないうちに家のベッドで横になることができて、思い立てばまた行くことができるのだから。
初めて歩いた下北沢には、輝いているように見える人たちがたくさんいました。その何割かは同じような憧れをもって、自分とは違う場所から訪れた人なんだろうと想像していました。
自分にこの場所に飛び込む覚悟はあるのか、という、暗くどろどろとしたコンプレックスみたいなものが心の下の方に沈んでいきました。
今となってみればそれは「上京してくる人のもつエネルギー」を自分自身が持たないのではないかという単純な恐怖だったと考えていますが、青年になり始めた自分の中で生まれたコンプレックスがその後数年間、自分を苦しめることになります。
上京していないから「戻る場所」がない
音楽を始めて、バンドを始めて、ライブをして、CDを作って、またライブをして、という生活をしているなかで、時たま遭遇するのは、仲間のバンドの解散や脱退です。
いろんな事情で、いろんな動機で、いろんな立場の人が離れていくのを何度も見ました。
どうやっても慣れるものではないですし、今だってその情報を聞くのは苦手です。
20代前半から後半になるくらいのときに、同い年くらいのバンドがパタパタと解散し始めた時期がありました。
聞けば、「実家に戻る」や「地元で仕事する」とのこと。
このとき、高校生のときに感じた「上京してくる人のもつエネルギー」を自分自身が持たないのではないかというコンプレックスがまた形を変えて自分を襲いました。
「この人たちには、打ちひしがれて、打ちのめされて、それでも帰る場所がある」
ということです。
言い方は難しいし、誤解を含むことを恐れずに文字にしますが、「もうひとつの世界」を持っているんだろう、と感じました。
やりたいことがあって東京に出て、その形がどんどんと変わっていったとき、地元に置いてきた「もうひとつの世界」に戻っていくことができる。
もちろん、変わらず戻ることもできないし、それそのものが簡単なことでもないし、心が壊れる直前まで考えられた選択肢であるのは十分理解しているつもりです。
その選択の正解不正解を議論するつもりもありません。それぞれの人生のなかで選択というものが、いずれ振り返った時に正しかったと思えることを祈っています。
ただ、こちらには「帰る場所」はありません。
妙な距離感で東京と接しつづけてきたことで、東京はもはや自分の一部のどこかをすこしだけ構成していて、切り離すことのできない存在になってしまっています。
「戻る場所」である実家は、それでも東京にすぐ出ることができて、何かから離れて、物理的な断絶をするということができません。
東京に行っていないのだから、東京から戻ってくることもできない。
そう思ってしまった自分がいました。
だけれど。
今になってみれば違うということに気がついたのです。
だからこそ、できることがある
東京は若いうちから行動範囲のひとつで、過大な憧れを持つこともなく、過大な期待も、シンデレラストーリーも思い描きすぎることなく付き合ってこれたと思っています。
比較してしまえばもちろん、上京してくる人たちとエネルギーは違うかもしれません。
ただ、逆に言えば「この場所だから!」という考え方にならないのも事実です。
「東京だからどうにかなる」と思ったことはないですし、東京が全てを解決すると思ったこともありません。
音楽だって、極論、極論を言って仕舞えば、どこでもできます。
やろうとさえ思えば。
「場所」は理由じゃないんです。
自分自身の中にある、純粋なエネルギーこそが理由になるべきなんじゃないかと強く信じています。
その「場所」が理由じゃない。
「何をしたいか」それそのものが理由であるべきだと。
そしてそうやって気がつけるのは、もしかしたら神奈川県民だからなんじゃないかとも、結構本気で思っています。
音楽もやりたいし、
文章も書きたいし、
かっこいい映像もとりたいし、
できれば美味しいご飯も食べたい。
そのやりたいことの源泉にあるエネルギーをどう使うかは、自分自身が決めることです。
そのエネルギーを「上京」に使わなくていいだけ、実はラッキーなのかもしれません。
こんなことを言ったら怒られるかもしれないけれど。
「上京」がどうやってもできないというコンプレックスが、やりたいことの理由は「場所」じゃないと15年かけて気付かせてくれました。
それもこれも、実は神奈川県のおかげなんじゃなかろうかと、半ば感謝すらしています。
ありがとう神奈川県。
これからもよろしく。
次の休みにはまた神奈川県に帰ります。
そして次の日には何事も無かったように東京に戻ります。
自分のなかにある、何かに取り組む理由を真っ直ぐ見つめながら、これからも過ごしていこうと思います。
今夜はこの辺で。
こんな人が書いています
Kabaddi(カバディ)
ロカビリーバンドCAROLAN'S(カロランズ)ギターボーカル。
2020年よりライターとしても活動。
https://twitter.com/KabadieCarolan
■CAROLAN'S(カロランズ)
2013年結成。ギターボーカル・ウッドベース・ドラムの最小単位のスリーピースで世界を小粋に踊り回るロカビリーバンド。
★ONLINE LIVE on Youtube開催!(2022/12/25 15:30〜)
2022年12月25日15時30分〜YouTubeにてオンラインライブを開催します!
最高音響にて臨場感のあるライブをお楽しみください。
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