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【短編小説】東京が好きだ。

生まれは兵庫。
そして育ちも兵庫。
地元が大好きで、友人も多かった。
地元が一番。それは今も変わらない。

そんな私が大学で上京した。

東京は夢の街だった。
SNSは、グリーとかミクシィとかデコログとかその程度の時代。
ちょうどスマホが出始めて、Twitterが流行りだした時だったか。
とにかく東京はテレビの世界だった。

私は視野が狭かった。
ずっと兄を追いかけていたからだ。
兄の進んだ足跡をたどるように追いかけた。
いつまでも後ろにいて、
いつまでもついていくと思っていた。
それは私もそう思っていたし、家族もそう思っていた。

私は、ラグビーをやっていたが、スター選手ではなかった。
兄は、1年生からレギュラーを取るスター選手だった。
幸い3つ離れていたため、中学・高校と被ることはなかった。
しかし、兄の後輩、私にとっての先輩はかぶるのだ。
兄弟というのはどうしても比べられる存在だった。
『兄ちゃんは○○だったのに』『○○さんの弟』
そんな言葉を浴びせられるのだ。
期待もあったのだろうが、私はそれなりの選手だった。
3年生ではレギュラーを取るが、中の上くらいの選手だったのだ。

兄は、スポーツ推薦(特待枠)で関西の大学へ進んだ。
中学生ながら私も○○大学へ行くんだろうなと思っていた。
そして高校生になり、3年生になり、進学の話が出たとき、
『僕は○○大学へ行きたい!』と兄の後を追いかけていた。

部活の顧問からは、お前は兄のようにはいかない。
○○大学ではなく△△大学くらいしか行けない。
そう。現実を突きつけられた。
分かっていた。分かっていたが、恥ずかしかった。
家族の期待、自分の変なプライドを壊された。

そりゃあそう。
そこそこの選手が推薦をもらえるわけがなかった。
兄弟枠という甘い期待があった。
しかし、私は意地でも同じ大学へ行きたいと思っていた。
そこそこの選手で学校のテストもそこそこの点を取っていた。
実力テストは一切できない。
範囲が決まっている学校のテストだからこそ
詰め込んで勉強して、クラスで常に6位~8位だった。
ちなみにクラスは38人だった。
1~5位がずば抜けていて、
6~15位がそこそこで
他はアホしかいなかった。

クラス一桁の学力を引っさげて
指定校推薦に挑んだ。
『○○大学へ行きたい』
実力では行ける気がしない大学だったので
これが最後のチャンスだった。
当然人気だった。
別のクラスの奴が
その大学を志望していて行けなかった。

○○大学へ行けないと知った私は、もうどうでもよくなった。

視野が狭い人間というのは、道がそれると脆いのだ。
『自分はこうあるべき』
『自分はこれをやらないといけない』
『自分はこうなってはいけない』
そんな固定概念に囚われているのだ。

兄が○○大学に進んだから
自分も○○大学に進むんだ。
そんな考えに囚われていたのだ。

大学でやりたいこと
大学で学びたいこと
将来なりたい職業
それを3年生の夏から考える。
そんなことは無理だった。

親はあかんかったらしゃあないな~
大学は行っとけよ~
行きたいとことかないんか?
って感じだった。

自分のやりたいことなんて
今まで考えたことがなかった。
だからかなり悩んだ。

ある日の月曜日の放課後。
一人教室で関西の別の大学を探していた。
いきなり担任が来て、一枚の写真を置いた。

『この女どうや?』
めちゃくちゃ美人だった。
『誰ですか?これ?可愛いです。』
『俺の彼女や。来年入籍すんねん。』
『!?・・えっ、あ、おお、おめでとうございます。』
『まだ秘密やで(笑)』
『どこで出会ったんですか?』
『東京や。東京にはこのレベルがわんさかおるで。
 しかも関西弁ってだけで、もてるぞ~。』

そんな何気ない担任との不純な会話が私の何かを壊した。
『おれも、東京にいく!』
担任が××大学のパンフレットを置いて出ていった。
『その大学やったら俺が行かせたる。』

それからたくさん東京について調べた。
そもそも東京タワーって何やねんってとこから。
××大学についても調べた。
有名人めっちゃおるやん!ってなった。

きっかけは人それぞれ。
親には、自分の視野を広げるために
東京に行きたいと伝えた。
私の気持ちが完全に東京に行っていた。

親にはもう一回考えてみてと、一旦は反対されたが、
もう何回も考えた!ここに行けないなら働く!
親に自分の思いを伝えたことが初めてだった。

そうして変なきっかけだが私は東京に行った。

冷たい雰囲気となんか感じる視線
体感1.2倍速くらいの時間の流れ
何回も聞き返される、伝わらない言葉
もう乗れへんやろ!から7人くらい乗ってくる満員電車
アリの巣のような路線図
ダンジョン『新宿駅』

結果的に私には東京は合わなかった。
しかし、上京して視野が広がった。
自分の殻を破ることができた。
友人も1から作り直して友人関係も広がった。
そして、可愛い子に告白してフラれた。

私は東京が好きだ。
(2度と住まへんけど)

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