2015.8.21 「どの香りにしますか」

 退院した頃には、看護師さんの助けを借りて風呂場でシャワーを浴びていた母。しかし立ち上がることも難しくなり、ケアマネジャーの提案を受け、訪問入浴サービスを試すことにした。

 訪問入浴は3人のスタッフで行われる。ダイニングセットを脇によけて、お風呂を組み立てること。風呂場から水を引き込むこと。タオルや石鹸などを準備すること。母の体調を把握すること。着替えや寝具を整えること。何もかもを無駄な動きひとつなく、テキパキと進めていく様は職人のようだった。作業と同時に母と穏やかな会話もしているのだから見事である。

 お湯に浸かるとき、スタッフの方が言った。「アロマオイルをいくつか用意しています。どの香りにしましょうか」母は無愛想に「なんでもいい」と答えていた。けれど、ほのかに香る湯に浸かった母は、ひととき体の緊張を緩ませていた。スタッフの方が帰られた後、母は「とても疲れたけれど、気持ち良かった」と言った。初回はスムーズに済み、次回の予約を入れた。

その日まで20日。