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vol.83 岡本かの子「河明り」を読んで

いい作品だと思った。心地よい母性のようなものを感じた。

以前noteに記した『老妓抄』『鮨』を読み返してみた。「柚木と小その」、「湊とともよ」、それぞれの関係からも、包み込まれるような柔らかな母性を感じる。

この『河明り』では、揺れ動く複雑な女性の気持ちが描写されている。その複雑な感情は、やはり強烈な母性から来ているように感じる。

許嫁の男女は、自由や恐怖や虚無感などを抱えながら、別々の場所で生きていた。語り手の「私」の引き合いで、二人は南方の大海の地でつながった。それは、源流を持つ小さな河川が、やがて大海に流れ出るように、母性の引き合いによって、離れている二人を結びつけたようにも感じた。

読み終わって、本を閉じて、全体を思い起こした時、構成の良さにも気がついた。シンガポールへの展開は唐突のようにも感じたが、前半の河川の説明は大海にいる木下青年への伏線だったようにも思う。語り手の「私」と「娘」に対しても、母に包まれているような柔らかな印象がある。

前半は、語り手である小説家の「私」が仕事に行き詰まり、仕事場を日本橋亀島河岸で水運業を営む堺屋の一室に移して気分を変えようとするところから始まる。やがて「私」は堺屋の一人娘の相談相手にされ、シンガポールまで娘とともに婚約者である船員の木下に会いに行くことになって後半に移る。(日本文学協会資料から引用) 

印象に残った文章を書き留めておく。

「河には無限の乳房のような水源があり、末にはまた無限に包容する大海がある。この首尾を持ちつつ、その中間においての河なである」(筑摩書房p354)

水源も、大海も、河も全てを包み込んでいるのが母性なのかもしれない。そこに大きな愛情を感じる。

岡本太郎もこの大きな愛情の中で育ったに違いない。

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歌人岡本かの子にも興味がわく。

・・・・・

一日も早く平穏な日常が戻りますように。

おわり

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