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年に一度のお年玉

 夏休みと冬休みに帰省していた母の実家は、自分が小学3年生の時に普通の木造家屋に建て替えられたのだが、もとは土蔵に住居スペースをつけたような、今にして思えば不思議な建物だった。
 祖父が漆職人で、二階部分にはその仕事部屋があったのだが、まあ、それだけが理由でもないだろう。土壁の古い家屋。お便所は屋外でほぼ土を掘ったところに溜め込むだけ、といった風情だった。

 閑話休題。
 その古い方の実家で、一度だけ『ルパン三世』を観たことが、強烈に記憶に残っていた。
 内容はちょっとエッチなところもあるが、ストーリーがとにかく面白くて目が離せず、当時の表現でいう「テレビまんが」とは思えない大人っぽい雰囲気で、絵柄も、ストーリーも、キャラクターも、後々まで覚えていた。
 サブタイトルまでは覚えていなかったが、この時観たのは「7番目の橋が落ちるとき」だったのだ。

 記録によると、放映は1972年1月2日とのこと。なるほど、実家に帰省していた期間で間違いない。
 自分にとっては、このエピソードは、古い実家の部屋の古びた佇まいとセットで記憶されている。
 因みに、部屋は古かったけど、テレビはしっかりカラーテレビだった。自宅はまだ画面も小さい白黒テレビだったので、印象もよけいに鮮明だった。

 本放映の時期に観たのはその話だけ。その後、『ルパン三世』は住んでいる地域の再放映枠で観たと思う(民放が少なくキー局以外の放映番組ではよくあった。本放映なしで再放送の枠で初めて観ることになる)。
 記憶にある話がもう一度観れた時はちょっとうれしかった。

 その後、実家が新しくなった後のお正月の帰省の際に、従妹の購読していたりぼん「エスパー狩り」というマンガを読んだのだ。
 男女の二卵性なのに、一卵性のようにそっくりな双子、ジュデェスとジュディス、陽気だけどちょっと抜けてるコソ泥のクリーム、寡黙なガンマン、パイの4人組が、超能力者による諜報組織MI7の設立をめぐる騒動に巻き込まれる、というストーリーで、掲載誌のりぼんの中では、他のマンガと比べて絵柄、ストーリーとも大人っぽく、夢中になって読んだ。
 ページ数もたっぷりあって、映画でも観ているようで、楽しくて何度も読み返した。
 実在する自動車や、SFっぽいメカも、人物同様リアル寄りのタッチだったのが、映画っぽさを感じさせたのだと思うが、まだ、映画『007』シリーズとかを知る前のこと、内容的には、まっさきに『ルパン三世』を連想した。
(因みに、これはシリーズ第2作。第1作はコミックスが出るまでは読めなかった)

 翌年の正月には「危険がいっぱい」、もう年一回の企画として人気もあったのだろう。これは別冊付録だった。
 これは、従妹にお願いしてもらって帰り、何度も読み返した。
 いわゆるマッドサイエンティストが登場して、またしてもSFっぽい。
 そろそろSF好きを自覚し始めていた小学5年生には、何よりのお年玉、という感覚だった。

 そのまま毎年読めると思っていたので、4作目の「ドーミエ3世の遺産」の次の年にこのシリーズが載っていなかった時は残念に思ったものだ。

 その後、その実家の従妹の本棚にあった弓月光『ボクの初体験』に、『こいきな奴ら』で観たヒットラー似のマッドサイエンティストがほぼ主役級で出てきた時は、意外な再会?に驚いた。

 何しろ、マンガ家の交流関係などの情報もない/雑誌掲載のマンガのコミックスが出ているかどうかも子どもにはわからなかったような時代のこと。
 『こいきな奴ら』のメカニックその他に弓月光、聖悠紀らが参加していた、ということを知るのは、それからもうちょっと後のことだ。


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