相対性理論の誤解は考え方のいい材料
未だに、「人間の常識」との相違点を矛盾だとする論者が見られる「相対性理論」。インターネット検索でも、様々な例を見ることが出来ます。
彼らの多くは、相対性理論が主張する現象を正しく理解しています。ところが、その事実を受け入れられずに、「これはおかしい」と言っているケースがほとんどです。
そして、この「誤解」が起こる理由が、科学教育の大きなヒントになると考えています。
前回、ちらっと相対性理論について触れたので、そのことについて述べたいと思います。特に、特殊相対性理論については、様々な思考実験が知られており、人間の感覚では理解できないことを、論理的にイメージするのにぴったりの材料です。
前回の記事はこちら
よく矛盾としてテーマになるのが、特殊相対性理論における「時刻の相対性」についてです。
簡単に紹介します。
ビームの発振器から受光器まで光が届く時間で、時刻を刻む光時計があります。これを、発振器と受光器を平行に等速直線運動させて、「観測者に対して静止している系"S"」と「発振器と共に運動する系"S'"」とで、
時刻の刻み方がどうなるか
を調べてみます(下図)。
結論はよく言われるように、
S'系での時刻よりもS系の時刻のほうが進んで
います。これは、
S'系から見た受光器は、発振器が光を発射した時刻の位置に対して静止
していますが、
S系から見ると受光器は横に移動
しているため、
光が届くまでに走る距離が長くなった
からです。
これは、「光速度不変の原理」によります。「S'系で光が届いた時刻"a"」は、S系ではもう時刻"b"なのであり、S系で時刻"a"の時は、まだ光が届いていないのです。
では今度は、S'系に観測者を置き、そこからS系に置いてある光時計を見たらどうなるでしょうか。
走っている電車から眺める景色が、進行方向と逆に流れていくのと同じで、S'系から見ると、S系にある光時計がS系とは逆方向に運動しているように見えます。そうすると、
S系の方がS'系より時刻が遅れる
事になります。
つまり、
観測者が固定される座標系によって、時間の進み方は相対的なもの
だという事になります。これが特殊相対性理論の主張です。
そして、「矛盾」だと言う人は、これ自体がおかしいと言っているのです。これは「前提」を否定していることになるので、矛盾と考えるのも当然です。
しかし、そう考えるのも無理はないとも思います。そもそもこの思考実験は、現実的なものではありません。
何故なら、この時刻のずれを人間が認識できるくらいになるには、速度"V"が光速度の1%くらいの速度だとしても、時速約10000kmとする必要があるからです。
さらに、人間が光時計を使って、どうやって時刻を認識し、それを比較するでしょうか。
装置だけ見ていただけでは、ただビームが発射しているようにしか見えません。「光が到達した!」なんてことを、直接認識する術が無いのです。
あくまでこれは、現実的ではない例ではあるが、特殊相対性理論の主張を分かりやすくするための思考実験なのです。だから、この説明を基に前提を否定する事自体、物理学上ではあまり意味がある議論ではありません。
しかし、この議論を知ることにより、
「前提となる考え方」がいかに重要か
がわかります。
アインシュタインの相対性理論以前は、ニュートン力学であり、ガリレイの相対性原理が常識でした。そしてそれは、「人間による観測」が前提であり、静止した宇宙を絶対的な基準とするのが前提でした。
一方アインシュタインの相対性理論は、「光速度不変」の原理を前提としています。これは、マクスウェルの電磁波の方程式を導き、光も電磁波の一種であることを予言したことから導かれますが、電気磁気学(当時は「電気力学」と言っていた)との矛盾を解決したものなのです。
さらに言うと、「時間」そのものについての、認識の違いもあります。次回は、その時間の概念について考察したいと思います。