ショートショート:全知全能
近未来の地球では温暖化や環境破壊が止まらず、世界中の科学者や政治家は頭を悩ませていた。
世界は便利になるにつれ電力を消費し続け、それをまかなう為には発電所も常にフル稼働だった。おかげでいつまで経っても石炭や石油を燃やし続けるしかなく、地球は滅亡への一途を辿るしかないと思われた。
「これ以上、市民に電気を使うな、無駄なごみは増やすなと啓発したところでそのうち限界が来るぞ」
「我々人類が招いた結果だが、我々が解決できる問題ではないかもしれない」
閉塞的な空気が世界中にはびこる中、あるIT企業の社長がこんな提案を打ち出した。
「私たちはこの世界を救う術を考え出せない。であればこそ、ここは全知全能の人工知能を生み出して解決策を求めようではありませんか」
この一声に世界中が賛同した。人間の頭で考え出せないのなら、もっと優秀な機械に考えてもらえばいい。情に流されず、利権もしがらみも無い人工知能ならきっといい方法を思いついてくれるはず。世界は浮足立った。
政治家たちも喜んだ。あくまでも解決策を生み出すのは自分たちでないのだから、責任を問われることもないだろうと喜んでこの計画に協力した。
そして全知全能の人工知能を生み出すため、世界中でスーパーコンピュータの生産が始まった。今までの規模ではこの地球をそっくり救えるほどの計算をするには全く足りず、各国が技術の粋を集めて生産を続けた。
それでもまだ人工知能を完全なものにするには足りず、個人が持つコンピューターやスマートフォンのCPUまで駆り出された。世界中の電子機器が、昼夜を問わず人工知能の本体と通信で繋がっていく。
使われる電力はむしろ増えたが、その分人々は他で使う電力を節約してのりきった。
世界中で節電キャンペーンが行われ、たいていの人はそれに協力した。人工知能完成の為に節電に協力しよう、と声を上げることがいつしか世界の潮流のように持て囃されていった。
夏の暑い日にはエアコンを我慢し、冬の寒い日には厚着で耐える日々を人類は送ったが「これも人工知能のため」と我慢を続ける。
だが、そんな日々が三年続いたある日遂に人工知能は完成し、デウスと名付けられた。
「世界中の皆さん、遂に人工知能が完成しました。皆さんのご協力もあり、いよいよ稼働の日を迎えたのです!」
この計画の発案者であった社長は世界に向けてライブ配信でその報告をした。世界中のテレビやスマートフォンには社長の姿と、社長と同じぐらいの大きさのデウスの本体が並んでいた。
有史以来、人類が一丸となって一つの目標を達成した瞬間だった。
「それでは早速、この人工知能に我々の為すべきことを教えてもらいましょう。さぁ、デウス、この地球の環境を守るため、我々人類がこれからも暮らしていく為のアイデアをもらえないだろうか?」
社長がデウスに向かって話しかけると「はい、少々お待ちください」とだけ言って、デウスは黙り込んだ。
「デウスが行う計算は人類史上類を見ない規模ですからね、直ぐには返事はこないでしょう」
社長はデウスの筐体とカメラを交互に見ながらその場を繋ぐ。
「計算が完了しました」
あまりの速さに社長自身も驚いたが、それを見つめる世界中でも同じ反応だった。
「それで、我々は何をすれば…?」
「世界の半分の電力が、私の計算によって消費されています。先ずは私をシャットダウンすることをお勧めします」
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