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心が窮屈だ思う日に書いた話。

消えたい


と思うことが今までにあっただろうか。




これは、私が25歳になり、仕事も3年目に突入してすぐに、日々の生活で苦しみを感じた頃の話。





蚊に刺される夢を見た。


学校で働き始めて3年目。仕事には慣れたが、人手不足によるマルチタスク、急かされる仕事に焦りを覚え、普段絶対にしないミスが増え始めた。

私は心に余裕を無くすと、どんな事でもマイナスに捉え、気分が落ち込み、何も手付かずになってしまうようだ。



夢で蚊に刺された朝、夢占いを調べてみた。



私は何か不思議に感じる夢を見ると夢占いを調べることにしている。

夢の中では私の足に大量の蚊が止まり、私が忙しなくそれらを殺していた。


半ば諦めつつも、血を吸われる度に強く足を叩いた。叩いた蚊が手のひらで死んでいる。足と手には、吸われた血が付き不快になった。



夢占いでは、「関わると面倒な人やあなたを邪魔する人が現れたり、仕事でもめ事に巻き込まれたりする可能性を暗示する警告夢」と書かれていた。


あぁ、想像が簡単に出来てしまう。


仕事でミスするかもしれない、やろうとしている活動を否定されるかもしれない、活動が上手く回らないかもしれない…不安しかない。


そんな心の表れなんだと思う。



新年度、やったことも無い、聞いたこともない授業を任され、休みの間も授業の進め方を考えていた。
自分が任されている専攻をどう進め、いつ、どういう活動をしていくか、頭を抱える日々。


しかしいざ授業をするという時に、急に要求が来たり、思ってたのと授業のイメージが違った、とか。



喉奥が詰まる。




1年前から任されている専攻。
生徒の要望、学校の理想、中学生や保護者、関わりのある外部の方々の認識や希望…
何もかもが違う。
それぞれが交差して複雑になる中で、最善を探すのに必死だった。


カリキュラムを変え、外部との繋がりを増やし、少しずつ少しずついい方に変わるように動いてきた。



でも全部無駄だし、意味の無いこと。




自分がやろうとしていることは、上司には理解されない。


まだ歴の浅い私と、長く教育業界で生きてきた人の見えている景色は全く違う。


1つの分野を1年かけて調べ、その業界を生きる人に話を聞いた私と、その分野を何も知らない人とでは、語る理想がずれても仕方がない。



そう、仕方がない。



「ゲームばかりする君の専攻より、在籍人数超えてやる」


上司が私の担当する専攻を目の敵にするような言葉を発した日、初めて仕事を辞めたい、と思った。



踏ん張ってきた1年を否定されたように感じた。



ゲームが好きなわけじゃない、人より知識がある訳でもない。
ただ学校の中で1番若い、それだけで任された仕事。


でも、任されたからには頑張りたい、生徒の夢を潰さない専攻にしたい。


そんな考えも、上司から目の敵にされれば何の意味もない。




私はこの学校に要るのだろうか。



上の人間と意見が分かれた場合、間違っているのは私なのか。
しっかり話し合えば伝わるのだろうか。


でも、それだけの体力も気力ももう残ってない。


満員電車に揺られ、本を読みながら止まってしまえと思う。
職場が近づくにつれ心臓がズキンと痛む。改札を出て職場までの道を歩く足は信じられないくらい重い。



でも、私も大人のプロである。



職場の窓から見える道路を通る際にはヒールでカツカツと音を立てて足早に歩き、職場の門を開けると、少し声のトーンを上げて挨拶をする。(注意するのはトーンを上げすぎないこと。元々朝が弱い人間なので、逆に不自然になってしまう。)


さて仕事が始まる、と思うと変に身構える。気が張りつめて息苦しい。
PCに向かう時は変に表情を作らなくて良いが、誰かと話す時、授業をする時はとにかくヘラヘラする。



それがせめてもの抵抗だった。



長い一日が終わり心が穏やかになると、どっと疲れが全身に鉛のようにのしかかる。
無理に上げた口角は下がり脱力している。鏡で見ると、もう二度とという強い意志を感じるほど。


鏡に映る自分を見て、無表情に笑った。


健康診断の採血が苦手だ。血が怖いから。
今までずっと目を背けるか、ベッドに横になって採血をしてもらっていた。
でも今日は、看護師さんの手をまじまじと見つめる。私の中から溢れる血が、細い管を通って検査管に溜まってゆく。


少しずつ溜まる血を眺めながらふと思う。


私、生きていたんだな。


ある朝、いつも通りぎゅうぎゅうになった満員電車に無理やり体を詰め、できるだけ他人に触れないようにつま先で立って乗り換えの駅まで本を読んで過ごした。
目の前にはドアに背をつけて、うなだれている青年。
眠いのだろうか、車内の温度の高さと人の多さに気分が悪くなったのだろうか。



彼の行き先を想像しながら、心の中で彼に語りかける。




「今から向かう先は、無理していかなきゃ行けない場所なの?


今日1日くらい休んだっていいんじゃない?
だって、世界には代わりがたくさんいるんだから。

かのスティーブ・ジョブスだって、Apple社のCEOだったけれど、今じゃティム・クックがトップを担っているじゃない。
スティーブが居なくても会社は回るのよ。



まる子ちゃんの声優のTARAKOさんが亡くなったら別の声優を起用して、またお茶の間にちびまる子ちゃんのアニメは放映されるでしょ。何も変わらない日常が続くの。

だからいいのよ、いなくても。
社会は個人を優遇しない。この社会を生きる全ての人に代わりが存在する。


残酷で悲しいと思うけど、でも、ある意味希望でもあると思うの。


自分がいないと、仕事をこなさないとって、張り詰めて考えて自分を追い詰めるより、私一人居なくたってなんとかなる、疲れた時やしんどい時は休んでいいよって、自分に余裕を与えてあげるのもいいんじゃないかな。」



駅に着きドアが開くと、彼は足早に駅を去った。


健康診断からの帰り道、腕に少しの痛みを感じながら、職場へと戻る。


足取りは重く、少し公園で休もうか、と思うが、足は止まることなく、ゆっくりと真っ直ぐ職場に向かっている。




そう、彼になげかけた言葉は、私にとって絶望なのだ。



ずっと、誰かの役に立てなきゃ価値のない人間だと思ってきたから。



邪魔ばかりするなら口を閉ざせ。
言うことが聞けないなら迷惑をかけないように、ただこなすだけこなせ。



真っ当に生きたきゃ感情を殺せ。



そんな言葉を自分に投げかけてしまう弱い生き物。



だから私は、窮屈な心を、さらに握り潰して職場までの道を歩いていく。




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