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【シード・スタートアップ】強い組織創りのコトハジメ

強い組織の構築は一日してならず

事業とはヒトが創るものであり、それゆえに、如何にヒトを束ね、各人に個性を発揮してもらいながら、組織としてのアウトプットを最大化させていくかという命題は、経営者が最も頭を使うものであり、関連する施策の成否は事業成長にダイレクトに影響します。

組織創りの遅れは事業成長のボトルネックとなり、組織創りの失敗は事業の崩壊と経営チームへの特大のメンタルコストを伴います。事業成長を加速し続けることが可能な強い組織を構築、維持、強化していく営みは、経営を続ける限り、終わりが来ることはありません

強い組織は、経営者が意識をして取り組まずして、自然と出来上がるものではありませんし、一日時間を使って考えればできるほど単純なものでもありません。

目指す世界観や社会観、真剣にチャレンジするヒトの思いを丁寧に言語化し、長い年月を掛けて試行錯誤をしながら実践が自然と伴うまでゆっくりと醸成される過程を経て、他社が簡単にマネできない有形無形の企業文化の備わった魅力ある強い組織になるものです。

このnoteでは、HRのスコープを「①採用 → ②入社 → ③評価育成 → ④権限移譲」のフェーズに因数分解して、シード期のスタートアップ経営チームが取り組むべきHR施策について考えてみたいと思います。


経営チームが取り組むべきHR施策の全体像

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HRサイクルにおける①採用、②入社、③評価育成、④権限移譲のそれぞれのフェーズにおいては、事業の成長を見据えてシード期から経営として取り組むべきことが多く存在しています。

①採用のフェーズであれば、事業の成長に向けて必要となるポストを洗い出し、魅力的な候補者に出会って妥協をすることなく相性を吟味し、口説き、入社を決断してもらえるようにすること(高い採用力)。

②入社のフェーズであれば、新しく仲間となるメンバーにとって会社へのロイヤルティを高め、即戦力化してもらうためのオンボーディング体制を整備すること(オンボーディング)。

③評価育成のフェーズであれば、インナーブランディングを通じた組織文化の実践促進を、健全な評価育成の体制構築とセットにして進めつつ、1on1などを通じて個人のWillや個性に沿った活躍の場を見出していくこと(個の掛け算によるアウトプットを最大化する組織デザイン)。

④権限移譲のフェーズであれば、幹部役員やMgrの抜擢・登用を通じた経営と執行の分離を進め、ガバナンスの効いた意思決定体制を構築すること(スムーズな権限移譲)。

いずれのフェーズのアクションも、強い組織構築のために必要となる経営施策であり、うまく設計実践できれば、企業競争力の源泉となるものです。一方で、いずれかのアクションが一つでもうまく進めることができないと、事業成長の落とし穴に繋がります。

これらの各フェーズのアクションを適時的確に進めていくために必要となる思想的土台となるのが、Corporate Identity (CI)であります。企業としてのVision、Mission、Valuesが存在することで、HR施策の方向性をはじめて規定することができるようになります。

各フェーズのアクションをざっとまとめてみると、以下のようになります。

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HRサイクルにおける各フェーズの全体像を俯瞰しまとめてみると、組織創りを進めるに当たっては経営として取り組まないといけないことが多く存在することがわかります。組織拡大が必要となったタイミングで各施策の準備が不十分なまま、慌てて採用を急いでしまうと、どこかでほころびが生じる可能性はぐっと高まります。

非連続な事業成長を目指すスタートアップにとっては、人数が少ないシード期からCIを醸成し、組織拡大が必要となるタイミングに慌てずに備えておく必要があると考えています。

それでは、各フェーズについて見ていきましょう!


採用フェーズ

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スタートアップの組織創りにおいて、最初にして最大の難関がこの「採用」のフェーズです。特にシード期は、実績もなければ知名度もなく、十分な資金調達もできていないという状態で、事業を強力に推進できる仲間を探さないといけません。

このフェーズにおいては、具体的には6つのアクションが必要となってきます。

①自社の数年後の事業状態を達成するために必要な未来組織図を描き、
②採用候補者のペルソナを具体化し、
③採用マーケティングを通じて候補者プールを創りながら、
④既存のメンバー全員が腹落ちする共通の採用基準を醸成し、
⑤スピード感を損なわない形で質を担保する採用プロセスを確立して、
⑥数ある就業機会の中から候補者に自社を自己実現の場として選んでもらう
 理由を創る。

①から⑤までは自社内で完結する部分も多いですが、⑥は相手のいる話でもあり、アンコントローラブルでもあります。従ってその不確実性を少しでも減じるため、自社で働くことがいかに魅力的な選択肢となるのか、候補者に対して言語化して伝えていく努力が不可欠となります


また、この採用フェーズでは、シード・スタートアップがハマりがちな罠が待ち受けています

一つ目は、資金の制約条件の罠です。
シード期だと、「資金調達ができたら採用活動しよう」や「バーンを上げることができないから良い人を採用できない」といった思考にどうしても陥ってしまいがちです。結果的に組織としての事業推進力が不足することとなり、逆に資金調達も難航してしまうケースです。

二つ目は、タレントの制約条件の罠です。
目の前の経営課題に対して、まずは既存のチームメンバーでなんとかしようと考えると思います。自分たちだけですぐに解決できる場合もありますが、そうでないとき、その領域でトップクラスのタレントを仲間にするという思考に切り替えることができず、ベストプラクティスに到達できないケースです。

三つ目は、カルチャーフィットの罠です。
一つ目と二つ目の罠を無事に潜り抜け、その領域のトップタレントに巡り合うことができたとき、最後に待ち受けているのがこのカルチャーフィットの罠です。スキル面の要件は十分すぎるほど充足しているにも関わらず、事業を成功させるために必要な会社としてのバリューを体現できずに組織全体にネガティブな影響を与えてしまうケースです。

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この三つの罠にハマってしまうと、貴重な経営リソースを有効活用できず、事業成長の機会が失われてしまいます。採用が思うように進まないときや、強い組織への変化が見られないときは、これらの罠にハマっている可能性が高いので、罠にハマっていないか自問するとよいかと思います。

採用は、強い組織創りの第一歩目でありながら、落とし穴も多く、失敗したときのダメージも甚大な難易度の高い工程です。“Recruiting is Priority”として、採用を経営の最上位に常に置いてコミットしていくことが成功のカギになってきます。


入社フェーズ

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採用活動に一定の投資をしているスタートアップは多いですが、入社後もその投資が継続されているかというと、必ずしもその準備が整っていないことも多いのではと感じています。

しかし、新しい環境で働き始めるに当たって、不安を感じない人はほぼいません

従って、入社後のオンボーディングは、入社を決意してくれたメンバーをいち早く戦力化するために必須のプロセスであるだけでなく、不安を早急に取り除き、チームにスムーズに溶け込むためにメンバー間の相互理解を促進する場を意識的に設定することで、チームへの高いロイヤルティを創出できるを貴重な機会です

新メンバーがキャッチアップすべきことは、多岐にわたります。
実践すべき企業文化とその背景、チームメンバーの名前や顔だけではなく各人がこの会社を選んだ理由、プロダクトの機能や今後の開発スケジュール、競合状況を含めた業界動向や顧客の課題欲求、社内のオペレーションや各部署の役割、自社の事業戦略といったところを理解することができてようやく、自身の個性を活かしたパフォーマンスを十分に発揮できるようになるものです。

これらの項目は、新メンバーにとって一日で理解できるものではありません。しかし、スピードが求められるシード・スタートアップにおいては、新メンバーにすぐにキャッチアップしてもらい、早くから存分に活躍してもらうためのサポートを経営として準備していく必要があります。


評価育成フェーズ

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組織としてのアウトプットをメンバー個人の単なる和(足し算)ではなく、積(掛け算)にしていくためには、評価育成フェーズの施策が不可欠で、以下の5つが相互に連関する設計になっていることが重要です。

①日々の行動や意思決定を規定するバリューの実践促進(組織浸透に向けたインナーブランディング)
②企業や部署ごとのミッションや予算と、
メンバー個人のWill / Can / Mustに応じたOKRの設計運用
③OKRをスムーズに設計運用し、かつ、情緒的な部分も含めた相互理解の深耕を通じた高いモチベーションの醸成
④メンバーをワンランク上の人材に引き上げるスキルトレーニング
⑤バリューの体現やOKRの目標達成に向けたアクションが組織として積極的に促進される金銭面と感情面の双方における報酬設計

①から⑤が単体ではなく、すべてが相互に結び付きながら設計されていることで、各施策が初めて効果を創出します。

例えば、
バリューをぱっと想起できるよう、唱えやすいフレーズ化や目につきやすい形での具現化(Slackのスタンプ、会議室の張り紙やアメニティなど)によるインナーブランディング
 → 想起したバリューに沿って個々人が迷うことなく自律的に行動や意思決定を行うことでOKRの達成が促進
 → 目標を達成したときに、金銭的な報酬(SO、ボーナス、昇給など)のみならず、感情的な報酬(昇格、次なるチャレンジングな仕事のアサイン、権限付与、表彰など)をセットで享受できる環境作り
と、それぞれが有意に積み重なっていく設計にすることで、個々の取り組みが効果を最大限発揮します。

そもそものバリューが事業として勝つために必要な行動規範として設計されていることが前提になるものであり、ここでもやはりCIの適切な策定がはじめの一歩になってきます


権限移譲フェーズ

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経営チームによる権限移譲のスピードは、将来の事業成長スピードを決定します。権限移譲が進まない限り、現行の経営チームの実力以上に事業が成長することはありません

経営チームが得意なもの以外、また場合によっては得意とするものであっても、権限移譲を積極的に進めることで、経営チームが行うことで最も成果を上げることができる業務(組織創りや広報PR、ファイナンスといった仲間集め)に多くのリソースを割くことができる体制を構築し、組織としてのアウトプット最大化に繋げることができます

一方、この権限移譲は、移譲する方と移譲される方の双方にとって、勇気の必要な意思決定になってきます。この権限移譲のプロセスを根拠のない無謀なものとはしないよう、企業としてのガバナンスの効いた意思決定体制の構築がセットになって初めて、対外的に意味を持ちます。上場を目指してチャレンジをするスタートアップであれば、なおさらです。

そしてこの権限移譲のフェーズは、採用 → 入社 → 評価育成の各フェーズをうまく乗り越えて初めて到達できるもので、一足飛びにはなかなかたどり着けません。意識して取り組まないと到達するのにめちゃくちゃ時間が掛かるものなのに、事業成長のスピードを大きく左右するという厄介者です。

従って、(再三の繰り返しになりますが)スタートアップが事業成長を通じて大きなビジョンの実現に向かっていくためには、シード期からCIの策定を起点に、強い組織の構築に取り組んでいく必要があるのです。


まとめ

強い組織の構築は一日してならず

冒頭の言葉に立ち返っていますが、強い組織創りに当たって経営チームが取り組むべきことは山のように存在します。非連続な事業成長を目指すのであれば、シード期からこのすべきことの山を見据えて、少しでも早く、組織創りへの投資を進めていく必要があります

やることは多くある、その中で手戻りをできる限り少なくして強い組織を創っていくためには、まずはCIの策定がすべての発射台になる、ということが少しでもこのnoteでお伝えできていると嬉しいです。


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