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夫婦別姓問題

Twitterで本日見かけた記事より。
私も、久々に夫婦別姓訴訟を見かけたかもしれません。

結論としては、夫婦同姓は「合憲」判決が出ました。

最高裁の判断は

ポイントは3箇所ですね。
裁判所の結果詳細のこの部分です。

1 民法750条は,憲法13条に違反しない。
2 民法750条は,憲法14条1項に違反しない。
3 民法750条は,憲法24条に違反しない。
(3につき補足意見,意見,反対意見がある。)

1、2について今回は触れません。
(憲法13条:個人としての尊重、憲法14条:法の下の平等)
「この条文に沿って違憲を申し立てるのは、無理がある」というのは、裁判官全員の一致するところのようですし。
注目するべきは、3の憲法24条でしょうか。
あ、引用元はいつも通りe-GOVさんです。

第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
② 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

何で反対意見などもあるのに、「合憲」と判断されてしまうのか。
腑に落ちない人も多いかもしれませんが。
建前上は「婚姻の際に、どちらかの姓を選べる選択肢」が与えられているからです。
下記の少しキラキラ感が漂う(苦笑)婚姻届は、福島県郡山市の婚姻届の見本です。

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また、結婚した経験(ここでは法律婚を指します)のある人はおわかりかと思いますが。
結婚の際には、必ず「新しい戸籍簿」が作成されます。

戸籍法第六条 戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。ただし、日本人でない者(以下「外国人」という。)と婚姻をした者又は配偶者がない者について新たに戸籍を編製するときは、その者及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。

手順としては、戸籍を先に作ってから婚姻届の提出…という流れが一般的でしょう。
ここでも、「夫又は妻」の姓を選択できる自由が与えられていますから、「違憲」と断言するにはかなり無理があるんですね。
戦前の戸籍法は、「夫の姓を名乗る」と定められていましたけれど。

問題の所在

少なくても、最初に「どちらかの姓を選べますよ」という選択肢が与えられている以上、「違憲を申し立てる」のはかなり無理があるんです。
下記の文章は、最高裁判決の判決文からの抜粋です。

・夫婦・親子の現実の家族としてのありようは,もともと地域などによって一様でない
・諸条件につきよほど客観的に明らかといえる状況にある場合にはともかく,そうはいえない状況下においては,選択肢が設けられていないことの不合理を裁判の枠内で見いだすことは困難であり,むしろ,これを国民的議論,すなわち民主主義的なプロセスに委ねることによって合理的な仕組みの在り方を幅広く検討して決めるようにすることこそ,事の性格にふさわしい解決であるように思える。

反対意見や補足意見を述べた裁判官の心情が、ここに集約されていると、私は感じました。

違憲を申し立てられる社会的な条件は?

これは、判決文でも述べられているように社会的な仕組みを変えていくことによって、裁判官に「もう時代にそぐわない」→「よって、現実的には違憲になる」と納得させられる客観的な材料を揃えなければなりません。

例えば、の話ですが。

1.婚姻の際に男性側が積極的に女性側の姓に変更する
2.「通称」を使用する人が今よりも多くなり、マジョリティの存在になる(ただし、本人確認などの事務的な手間が煩雑になるデメリットも)
3.「戸籍なんて意味がない」という認識が社会全体に行き渡る

ぐらいの条件が、社会に浸透しないと無理だと思います。

また、時折「外国では~」という論法を振りかざす人を見かけますが、私はそれも少し違うと思うんですよね。
あくまでも各種法令は原則として国内のルールですし。
それが嫌だったら、「じゃあ、外国で活動すれば?😅」(これは憲法違反ではありません)と反論されるのがオチではないでしょうか。

感情論ではなく現行ルールに則った議論を

私も感情論としては違憲派の理論も分かるのですが、やはり現行法上は、今回の判決文でも表明されている結論になるんです。
それが、法律解釈のルール。

それを最大限に譲歩したのが「通称使用」であり、それを認めるかどうかは、所属コミュニティの社会性次第……というのが、現行法の限界だと私も感じます。

「法律」を根拠に相手と戦うならば、やはり法律の理論や判例の理論、バックボーンを理解した上で、ロジカルに相手を説得できなければなりません。

「『朝日さん、かわいそう』じゃ、ダメなんです」

学生時代に、憲法の考え方を伝授して下さった田村先生の影響が強いのかもしれませんが。
少なくても、最高裁判決を見ている限りでは、田村先生の言葉通りだと私は思うのです。

追記:最初に引用した方の記事でちょっと気になった点を補足。
「離婚した時に、姓が元に戻るのでプライベートがバレバレになる」と仰っていますが、民法767条第2項及び戸籍法第77条の2で、問題解消が可能です。

(離婚による復氏等)
民法第七百六十七条 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。
戸籍法第七十七条の二 民法第七百六十七条第二項(同法第七百七十一条において準用する場合を含む。)の規定によつて離婚の際に称していた氏を称しようとする者は、離婚の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。

まあ、「何が悲しくて別れた人と同じ姓を名乗らなければいけないんだ💢」と考える人も多いかもしれませんが。

憲法上の判例の路線変更を迫るには、社会の仕組みを変える方が先決。

そのルールは、もっと浸透するべきなのかもしれません。

最高裁の法廷ルール

それともう一つ。
違憲判断を迫る最高裁判決は、必ず大法廷で裁かれます。

少しマニアックな話になりますが、

大法廷→15人
小法廷→5人

で合議の上で判決を下すのですが、「違憲」を申し立てるのならば、大法廷の裁判官15人のうち、過半数を納得させられるだけの理論と材料を揃えなければなりません。

何かと言うと、「憲法違反」を叫ぶ人が本当に多いですし、その方が数値が取れるのは私も承知していますけれど。
こうした「法の理論」も、もう少し理解された上で論じるべきではないでしょうか。

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