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ゲーム大会有料化の法律上の注意点(eスポーツの出場料・観戦料等の設定)-EVO Japan 2024を例として-

一昨日、EVO Japan 2024の有料化が発表されました。

「法的にできないと思っていた」「驚いた」という反応もありましたので、今日は、ゲーム大会の有料化に関する法律上のポイントを、簡単に整理していきたいと思います。

ゲーム大会にはいくつかの法令の規制が絡んでおり、有料化においては、主に、刑法、風営適正化法を検討する必要があります。

1.刑法(賭博罪)

まず、賭博罪(刑法第185条)との関係を整理したいと思います。

(1)賭博とは

「賭博」とは、①偶然の勝敗により、②財物や財産上の利益について、③得喪を争う行為、をいうとされています。

例えば、4人で1000円ずつ出し合って、麻雀を行い、勝った人が4000円を総取りする場合を考えます(いわゆる賭け麻雀)。

金銭は「財物」に当たります(②)。
得喪を争うとは、勝者が財物を得て敗者が失うこと、簡単にいうとWin-Loseの関係をいいます。例では、勝った人が負けた人の財物を得ていますので「得喪を争う」に当たります(③)。

①の「偶然の勝敗」とは、勝敗が偶然性に左右されることをいいます。麻雀の勝敗は偶然の事情に影響されるため「偶然の勝敗により」に当たります(①)。
※ 麻雀には技量の差がありますから、「偶然性に左右されないのでは?」と思われるかもしれませんが、技量が勝敗に影響しても、少しでも偶然の事情で勝敗が影響される可能性があれば、「偶然の勝敗」に当たると考えられています。

これにより、例で挙げた賭け麻雀の行為については、賭博罪が成立することになります。

(2)ゲーム大会の場合

ゲームの場合も、考え方は同じです。
100人のゲーム大会で、1000円ずつを出し合い、優勝者が賞金10万円を持っていくと、賭け麻雀と同じ構図になりますので、賭博になってしまいます。そのため、ゲーム大会の賞金の設定については、少し注意が必要になります。

まず、出場料が無料(0円)であれば、賭け麻雀の構図になりませんので、賭博にならないことは当然です。

問題は出場料を有料にする場合です。
出場料を賞金に充ててしまいますと、賭け麻雀の構図になってしまうため、賞金に充てることはできません。
つまり、出場料を設定する場合、「出場料は設定するが、賞金には充てない」と設計する必要があるのです。
※ この場合、参加料は、大会の設営費用にのみ充て、賞金は、第三者のスポンサーの提供や、クラウドファンディングなどで賄います。

(3)具体例

EVO JAPAN 2024の大会規約では、「*チケット売上はEVO Japan 2024の会場使用料その他設営に要する費用の一部としてのみ使用されます。」と明記されています(太字筆者)。
また、FAQにも「賞金には使用されません。」「EVO Japan 2024大会スポンサー提供の賞金」との明記があり、売上は賞金に充当されない運用がされていることがわかります。
※ 規約への明記は必須ではありませんが、次に説明するJeSUのガイドラインでは一部の明記が求められていることや、刑法と次の風営適正化法に沿ったものであることを示す意図から、明記されたものと考えられます。

先日の任天堂の大会ガイドラインでは、出場料について「大会設営費用に充てる目的のみに利用し、景品購入費用には充てないでください。」「大会設営費用の総額を超えないようにしてください。」との記載がありましたが、同様の趣旨と考えられます(太字筆者)。
また、任天堂は「大会の開催費用に関する全ての会計書類を、誰もが閲覧可能なウェブサイトやSNSに直ちに掲載し、公開してください。」と定めています。これは、この費用の点が有耶無耶にならないようにしたものと考えられます。

2.風営適正化法

次に検討すべきは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営適正化法)です。

(1)規制対象

風営適正化法との関係では、施設に、テレビゲーム機を備えて来場者にプレイさせた場合、風営適正化法の「風俗営業」のうち、ゲームセンター等営業に当たり得るという問題があります(法第2条第1項第5号、施行規則第3条第2号)。
仮に風俗営業に当たった場合、公安委員会の許可なく営業することができない等、各種規制の対象となります(法第3条第1項等)。

この点は、ゲーム大会との関係で解釈が不透明でしたが、2020年に一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が警察庁と協議し、ガイドラインにおいて許容範囲が示されました

ガイドラインでは、出場料(参加料)を大会設営費用のみに充てれば、ゲームセンター等営業に当たらないことが示されています。
更に、これを担保する具体的な方法として、大会の最大参加者数を設定して出場料×最大参加者数が大会設営費用を超えないこと、つまり「出場料を大会設営費用の総額÷最大参加者数以下とすること」が求められています。

このガイドラインの基準に沿っている限り、風営適正化法の規制対象とはならないと考えられます。

※ 少し細かい点を補足しますと、風営適正化法は、「施設」で「テレビゲーム機」をプレイさせる点を規制対象としています。
そのため、完全オンラインで大会を行う場合や、PC・スマホ等を汎用機能を使用できる状態で提供している場合は、規制は及びません。
ただし、この場合も「1」の賭博罪の規制が及ぶ点にはご留意ください。

(2)具体例

EVO JAPAN 2024の大会規約でも、「各タイトルの予選大会の最大参加者数を設定しております。」「最大参加者数に達したタイトルは、プレイヤーチケットをご購入済みの場合であってもエントリーいただけませんのでご注意ください。」との記載があり、最大参加者数が設定されていることがわかります。

※ なお、今回、EVO JAPAN 2024はJeSUの認証を得ていますが、認証を得なければ風営適正化法に違反するわけではありません。
JeSUの認証を得ずに参加費等を取ったゲーム大会を開催していたとしても、上記基準を満たしていれば、風営適正化法に違反するものではありませんので、ご安心ください。

任天堂の大会ガイドラインでは、QAの4において、最大参加者数の設定に関する記載があります。
任天堂は、参加者と観戦者双方の最大数を設定するよう求めており「出場料や観戦料を徴収するオフラインのコミュニティ大会を主催する場合は、あらかじめ最大出場者数または最大観客数を設定し、実際の出場者または観客がこれらを上回らないようにするとともに、最大出場者数または最大観客数に一人あたりの出場料または観戦料を掛けた金額が大会設営費用を上回らないようにしてください。」としています。

3.景品表示法

なお、「景品表示法上は問題ないのか?」というご感想をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、有料化と景品表示法は、直接関係しません。

大会賞金と景品表示法につき、ごく簡単にご説明いたしますと、
まず、景品表示法が問題となるのは、扱われるゲームのゲーム会社自身が賞金等を出す場合です。

そして、ゲーム会社が賞金等を出す場合については、2016年のノーアクションレター以降、国内において、高額な賞金等の付与が自粛されていました。
しかし、2019年のノーアクションレターにより、賞金が「仕事の報酬」に該当すれば景品類に該当しないという整理がされ、一定の条件(※)のもとで、高額な賞金等を出すことが可能になっています。

現在において、この論点はほぼクリアされており、国内でも高額賞金等の付与を行うことが可能であり、これは有料化を行った場合も同様です。

※ ノーアクションレターを踏まえますと「高い技術を用いたゲームプレイの実技若しくは実演又はそれに類する魅力のあるパフォーマンスを行い、多数の観客や視聴者に対してそれを見せることが仕事の内容として期待されており、大会等の競技性及び興行性の向上に資する者であることが類型的に保証されている」こと等が必要になります。

※ EVO JAPAN 2024の大会規約では「*賞金は、出演契約に同意(未成年者の場合は法定代理人の同意)の上、決勝大会を戦われた方に提供されます。出演契約に同意いただけない場合または決勝大会を欠場された場合、賞金は授与されません。」との記載があり、仕事の報酬であることを明確にするため、出演契約を締結する方式が採用されています。
FAQでは、「決勝大会の試合に関しては、各参加者の高い技術力、魅力のあるゲームプレイ、パフォーマンス等を称え、EVO Japan 2024大会スポンサー提供の賞金を順位等に応じて授与します。」との明記があり、上記ノーアクションレターを意識した記載もなされています。

4.著作権

著作権も有料化とは直接関係いたしません。

ただし、個別に著作権者(ゲーム会社等)から許諾を得ないで行う大会については、任天堂の大会ガイドラインを皮切りに、今後、ゲーム会社等が大会ガイドラインを設定・公表する可能性があります。

各ガイドライン上、有料化が禁止されている場合や、出場料等の上限が設定されている場合もあり得ますので、この点は、ガイドラインを確認する必要があるでしょう。
ガイドラインに違反した場合、ゲーム会社等の著作権を侵害することになり得ますので、ご留意ください。

なお、任天堂の大会ガイドラインでは、出場料・観戦料の上限が設定されていますが、法人・団体の主催大会では、変更の申請が可能との建付けとされています。

5.まとめ

以上、ゲーム大会の有料化に関するポイントを簡単にまとめさせて頂きました。
ゲーム大会については、任天堂の大会ガイドラインを含め、近年、状況の変動が多くなっていますので、開催・有料化にあたっても、最新の情報をご確認ください。

本記事が、ゲーム大会の有料化を検討されている方の参考になれば幸いです。

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