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「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の速報解説①

※ 本記事で解説している「考え方」は、R6.3.15に更新されています。更新版の解説は以下のnoteをご参照ください。

2023年12月20日、文化審議会著作権分科会法制度小委員会の資料として、文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」の素案が示されました(以下「考え方」と表記します)。

2024年3月の取りまとめが予定されており、内容は変更になる可能性がありますが、速報的に内容を抜粋し、ご紹介いたします。
※ 速報の性質上、内容を適宜更新する場合がありますので、ご了承ください。

「考え方」の構成

生成AIと著作権の検討においては「学習・開発段階」と「生成・利用段階」とを、それぞれ分けて考える必要があります。

「考え方」でも、①学習・開発段階、②生成・利用段階に分けて、それぞれ見解が示されています。また、③生成物の著作物性、④その他の論点についての見解も示されています。

なお、分量の都合により、本項では、①学習・開発段階について紹介いたします。②生成・利用段階については、以下のnoteをご参照ください。

Ⅰ 学習・開発段階

1 検討されている論点

「考え方」では、墨付き括弧で取り上げる論点が示されています。
学習・開発段階での墨付き括弧は以下のとおりです。

・【「非享受目的」に該当する場合について】
・【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】
・【侵害に対する措置について】
・【その他の論点について】

このうち、最初の2点につき、前提知識がないと分かりにくいかと思いますので、少しご説明いたします。
生成AIの学習・開発段階においては、著作権法第30条の4の規定が非常に重要になります。
最初の2点は、以下の条文の太字の要件を指しています(太字筆者)。

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)

すなわち、法第30条の4により、著作物は「自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」は、必要な限度で、著作者の同意なく利用することができます(この目的を非享受目的といいます)。
ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、利用することができません。

生成AIの学習・開発段階においては、他人の著作物を利用しますが、著作権法第30条の4を根拠として行われることが多いところです。
そこで、上記の要件をより精緻に検討する必要があり、最初の2点でもこの要件が検討されています。

2 【「非享受目的」に該当する場合について】

(1)議論の前提

先程ご説明したとおり、法第30条の4に基づいて著作物を利用するには、「非享受目的」が必要になります。
法第30条の4は非享受目的の例として、「情報解析…の用に供する場合」(第2号)を挙げていますので、AI学習のために行われる場合を含め、情報解析の用に供する場合は、非享受目的ありとして著作物の利用が可能です。

ただ、近時、「非享受目的と享受目的が併存していた場合はどうなのか?」という点が議論になっていました。

例えば、特定のイラストレーターのイラストを複製し、意図的にイラストをそのまま出力させることを目的としてAI学習させるような場合です。
この場合も「情報解析の用に供する場合」に当たり、非享受目的はあるといえます。
しかし、この例では元々の表現(イラスト)をそのまま享受する目的があるともいえ、この場合に法第30条の4による利用を認めて良いのか、という点が議論されていました。

(2)「考え方」の見解

「考え方」では、利用行為に複数の目的がある場合、「この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる。」との見解が示されています。

つまり、上記の例のような学習を意図的に行う場合は、享受目的が併存するため、法第30条の4による利用行為は行えないとの点が明示されました。

※ 「学習データをそのまま出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データの影響を強く受けた生成物が出力されるようなファインチューニングを行うため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて目的を判断する、との見解が示されています。

※ なお、生成・利用段階で、学習した著作物に類似した生成物が生成される事例があったとしても、この事実だけでは、享受目的を推認はできないとされています。ただ、生成が頻発する事情は、学習段階の享受目的を推認する要素になるとの見解が示されています。

(3)補足(RAG等について)

少し毛色が違う話として、検索拡張生成(RAG)など、生成AIが著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成するものについても見解が示されました。
具体的には、RAG等については、著作物の一部を出力するため、非享受目的がなく、法第30条の4での利用はできない一方、法第47条の5第1項第1号又は第2号により「軽微利用」に限って認められるとの見解が示されています。

3 【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】

(1)議論の前提

先程ご説明しました通り、法第30条の4により、非享受目的であれば著作物は自由に利用できますが、例外として著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、利用することができません(法第30条の4但書)。

しかし、この要件はやや抽象的ですので、どういった場合に、著作権者の利益を不当に害するといえるのか(≒AI学習のための複製等が行えないのか)が議論されていました。

(2)「考え方」の具体例

「考え方」では、以下の4つの具体例について、見解が示されています。

①アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて
②情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について
③学習のための複製等を防止する技術的な措置を回避した複製について
④海賊版等の権利侵害複製物をAI 学習のため複製することについて

それぞれご紹介いたします(「考え方」5頁以下)。

①アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて

【「考え方」の見解】

・「著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという抽象的なおそれのみでは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しない」
・「特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行う場合、当該作品群が、当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである」

【コメント】

いわゆるLoRAを意識した見解が示されています。
まず、著作権法は、表現を保護する法律であり、アイデアを保護する法律ではありません。
そのため、アイデアが類似した生成物が大量生成され、市場が圧迫されるという抽象的なおそれでは、法第30条の4但書には該当しない(=著作物は非享受目的で利用できる)との見解が示されています。

他方で、なお書きにおいては、作風や画風も基本的にはアイデアですが、作品群が共通して作風・画風を有しているならば、表現といえる場合があるとの見解が示されています(非享受目的と享受目的との併存の部分でも同じ見解が記載されています)。
作風や画風が表現といえる場合の保護等について、「考え方」では明示的には記載されてはおりませんが、享受目的との併存によって法第30条の4が適用されない場合はあり得ますし、事案によっては、法第30条の4但書に該当する場合もあるものと考えます。
※ この点は、様々な見解があり得、個人的にも思うところはありますが、一先ずここでは「考え方」の紹介に留めることにいたします。

②情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について

【「考え方」の見解】

・「本ただし書に該当すると考えられる例としては、…「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に,当該データベースを情報解析目的で複製等する行為」が既に示されている。」
・「例えば、インターネット上で、データベースの著作物から情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できるAPIが有償で提供されている場合において、当該APIを有償で利用することなく、当該データベースに含まれる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する行為は、法第30条の4ただし書に該当」する

【コメント】

販売されたデータベースの複製の例は、既に令和元年の文化庁資料で示されており、特段目新しいものではありません。
この例をより詳細に検討した見解が示されています。

③学習のための複製等を防止する技術的な措置を回避した複製について

【「考え方」の見解】

・AI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置として既に広く行われているものがある
(例)ウェブサイト内のファイル”robots.txt”への記述によって、AI学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
(例)ID・パスワード等を用いた認証によって、ウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
・「このような技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行うAI学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第30条の4ただし書に該当」する

【コメント】

今回の「考え方」のポイントの1つです。
AI学習を防ぐ方法と、それに関する法的な効果はこれまでも論点として議論されていました。
「考え方」では、
①(上記の例のような)技術的措置が講じられていること、
②当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認されること、
③①の措置を回避して行うAI学習のための複製等であること、
を満たした場合、法第30条の4但書にあたる(≒AI学習のための複製等が行えない)との見解が示されました。

学習を希望しない著作者の措置が明確になり、法的な効果も明示されることは、著作者・AI開発者双方にとって望ましい方向性と思われます。

なお、現状の整理については、双方の立場から意見・異論もあろうかと思われますが、一先ず、中間的な形に落ち着けたのではないかと想像いたします。
この点は、今後の議論により変更される可能性もありそうです。

④海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて

【「考え方」の見解】

・「AI開発事業者やAIサービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、…当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう十分配慮した上でこれを行うことが求められる。」
・「ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為…があった場合は、当該AI 開発事業者やAI サービス提供事業者が、これにより開発された生成AIにより生じる著作権侵害について、…規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる」

【コメント】

海賊版を生成AIで学習した際の責任に関する見解で、それほど特異な見解ではないと考えます。
なお、規範的な行為主体との点は、生成・利用段階の項でご説明いたします。

4 【侵害に対する措置について】

(1)議論の前提

AI学習において著作権侵害が生じた場合、民法・著作権法上、損害賠償請求(民法第709条)に加えて、差止請求や将来侵害行為の予防措置の請求(著作権法第112条第1項・第2項)が可能です。
また、予防措置の請求の一環として「侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」の廃棄請求も可能です。

ただ、具体的な措置として、何がどこまで認められるのかは明確ではなく、例えば、学習済みモデルの廃棄が認められるのかなどについて、議論がなされていました。

(2)「考え方」の見解

「考え方」では、以下の2点について、見解が示されています。
①将来のAI学習に用いられる学習用データセットからの除去
②学習済みモデルの廃棄請求

注目されるのは、②学習済みモデルの廃棄請求です。
「考え方」は、「AI学習により作成された学習済モデルについての廃棄請求は、通常、認められない」としつつ、以下のような見解を示しています。

「当該学習済モデルが、学習データである著作物と類似性のある生成物を高確率で生成する状態にある等の場合は、…当該学習済モデルが学習データである著作物の複製物であると評価される場合も考えられ、このような場合は、…当該学習済モデルの廃棄請求が認められる場合もあり得る」

こちらは、既に紹介した、特定のイラストレーターのイラストを複製し、意図的にイラストをそのまま出力させることを目的としてAI学習させるような場合などを、念頭に置いたものと考えられます。
この場合、作成された学習済モデルは、高確率で学習済みの著作物と類似した生成物を生成しますので、学習済モデルが学習データである著作物の複製物などと評価され、廃棄請求の対象になる場合がある、という見解です。

5 【その他の論点について】

  • 法第30条の4による利用は、「その必要と認められる限度において」との限定が付されていますが、「AI学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではない」との見解が示されています。

  • AI学習を拒絶する著作者の意思表示があることのみで、法第30条の4但書に当たるものではないとの点が、改めて記載されています。

  • このほか、法第30条の4以外の権利制限規定について、若干触れられています。

Ⅱ 生成・利用段階

少し長くなりましたので、「Ⅱ 生成・利用段階」につきましては、以下のnoteに記載いたします。

冒頭に申し上げましたとおり、「考え方」は2024年3月の取りまとめが予定されており、内容は変更になる可能性がありますので、ご留意ください。

こちらの記事が、何かの参考になりましたら幸いです。

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