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その人の考え方を率直に知れることがエッセイの面白さ


角田光代さんの本を初めて読んだのは、小説ではなくてエッセイ。
それも、旅のことを中心に書いたエッセイだった。
旅がしたい、旅に憧れる自分としては、こんなに面白おかしく書いて、こんなにも引き込まれる旅の数々のエピソードに引き込まれた。
それから小説の方も気になって読んでみたりしたのだが、個人的には小説よりもエッセイの方が好きになった。
いや小説家さんに対してすごく申し訳ないのだけど、ぼくはエッセイの方が面白いし、親しみを感じてしまうのだ。
おそらくそれは、語りかけてくるような文体もあるし、等身大の人間を背伸びなしに見せてくれるからだと思うのだ。
いいことも悪いことも恥ずかしいことも、全部包み隠さずストレートにさらけ出してくれる。
そんなところが角田さんのエッセイの魅力なんだろうと思うのだ。
だからぼくは、小説よりもエッセイの方を多く読んでしまう。

ぼくもこんな風なエッセイを書いてみたいなあと思う。
最近こういうことがあってね、それで私はこう思うの。
その何気ない話の中で、ハッとするようなことをサラッと言う。
中でも一番印象的に残るのは、その年代によってやれること、感じることが違う、だからこそその時々にできることを、精一杯堪能したほうがいいんじゃないか、ということ。
20代は無茶して遊ぶことができるけど、30代になったらもう無理は効かないし、その年齢を逸脱するような服装だったり仕草だったり考えだったり、そんなことをすれば人間浅はかになってしまうよ、その年齢ごとに楽しめることがあるんだから、悪あがきせずにちゃんと年齢と向かい合いましょうね。
って、なんだかそんな風に言っている印象を受ける。
今までに経験した人生観と、たくさんの場所に旅をしてきた角田さんだからこそ、人間の面白さ、不思議さ、生態を観察して、独自の人間観、恋愛観が構築されているように感じる。
何気ない日常の生活からこんなにも話を広げられるのは、やはり物書きだからなのかなあと思うのだ。
普段では見過ごしがちな小さなこと、考え、価値観に鋭く気づいて、そういえば私こう思うんだけど、あなたはどう思う? と語りかけてくる。

恋愛についての一説で、相手の男を褒めるかけなすかを見極めるには、引っ越しした部屋について、良いことを言うか気になることを言うかでわかるという。
どんなに良くに見えても悪く言う人はいるし、前と大して変わってないじゃん、というところでも、ここが良い、あそこが良い、と言ってくる人がいる。
環境とかが変わったことについてその人がどう思うのかが、恋愛についても言えるのではないか、と持論を展開している。
ぼくはどちらかというと悪くいうことはあまりないような気がしている。
特に観た映画とか読んだ本について書いているこのブログでは、基本的に「ここは良くなかった、最悪だった」みたいなことはあまり書かない。
そういう面で言うと、ぼくは良い点を見ようとしているのかな、と感じたりもした。
とはいえ面白くないとは面白くない、分からないものは分からない、と言うこともそれはそれで必要なことだと思う。
誰が何と言ってきても、自分はそう感じたんだからしょうがないじゃないかと、自分の率直な感想を書くのもエッセイのひとつの在り方だろうし。

私はこう思うけど、あなたはどうですか? って振られて、確かにそうかもしれないなあ、言われてみるとそうかもなあ、なんて再発見できるような楽しいエッセイだった。
個人的にはもっと旅に寄ったエッセイを読んでいきたい。

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