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スタートアップの方向性を決める「3つの輪」その⑤【事例研究】

この記事は8日前に投稿した「スタートアップの方向性を決める「3つの輪」その④」の続きになります。お時間があればそれ以前の「その①」「その②」「その③」とあわせてお読みください。 

 1.事例研究「ソマリア料理店」の話


今回で5回目となる「3つの輪」の話。今回は実際のスタートアップの失敗事例から、「3つの輪」の有効性を解説したいと思います。
 
Aさんは若い頃にアフリカの某国に渡航し、20年間現地の料理店で働いていました。
プライバシーに配慮してここでは某国をソマリアとしておきます。
 
元々料理と海外旅行が好きだったAさんは、訪問したアフリカの雄大な自然に感動、「若気の至り」もあって移住を決意し、現地の飲食店で見習いコックとして勤務を始めました。
Aさんはアフリカの人の中では「非常に勤勉」な人だったようで、短期間で現地スタッフやオーナーの信頼を勝ち取り、最終的には複数店舗の経営を任されるまでになりました。
 
しかし高齢化した両親の生活をサポートするため帰国を決意、帰国後は都内でソマリア料理の店を開店することにしました。
 
Aさん本人は
・20年間本場で修業したソマリア料理のメニューと味には自信がある
・どれも珍しいメニューばかり!
・現地の料理を通してソマリアの自然や文化を広めたい
・店舗も幹線道路沿いの一等地を確保することができた
・都内にはソマリア料理の店は無いから絶対に成功する!
と開業計画には強い自信を持っていました。
 
しかし開店後、売上は予想を大きく下回る結果が続きました。最寄り駅や店前でチラシをまいたり、メニューの価格を下げたりと努力を続けたものの手元資金が尽きてしまい、1年ももたずに店舗をクローズすることになりました。  

2.「ソマリア料理」は求められていることだったのか?

 
この事例を「3つの輪」で分析すると、以下のようになります。
 

Aさんのやりたいことはソマリア料理の店を持つことですから、「やりたいこと」は充足していました。Aさんは準備に寝食を忘れて取り組み、短期間で出店計画を実行に移すことができました。
 
「できること」についても、20年間の現地でのコックの経験があったので充足していました。ソマリア料理のレシピを多数知っており、短時間で提供する腕も持っていました。
 
しかし「求められていること」はどうでしょうか?
Aさんはソマリアに熱い思いを持っていますが、都民からすれば「ただの異国」にしか過ぎません。ソマリア料理は「求められていること」では無かったのです。
 
この計画は「求められていること」が充足できなかった「ポジションA」の失敗事例になります。「その③」でも説明したように、準備は順調に進んだものの販売不振に陥ってしまいました。
 
もし事前に「三つの輪」を使って分析していれば、事前にこの計画の問題点い気がついて、計画を再考できたかもしれません。

3.「珍しいもの」が求められているとは限らない


 この事例はスタートアップの典型的な失敗例の一つです。事前にリサーチした際に、競合ビジネスが無いと安心して自信を深めてしまうスタートアップがかなりいます。「珍しさ」が集客に寄与すると錯覚してしまうのです。
 


勉強しているスタートアップの場合、ニーズが無い状況を「競合と差別化されている状態」と勘違いしてしまうことがあります。この事例のように「やりたいこと」が強く充足されていると、スタートアップが“近視眼的”な状態に陥ってしまい、計画を過信しやすい状態に陥りやすいといえます。
 
しかし競合ビジネスが存在しない状況は、そのビジネスにニーズが無い可能性が強く疑われます。事業構想を「3つの輪」で分析して、ポジションAが疑われる場合は、事業計画を再検討するか、専門家の助言を得ることをお勧めいたします。

次回はこの事例の続き、Aさんはどうすれば失敗を回避できたのか?について説明する予定です。

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