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140文字という制約の中で構築された、ちいさなものがたりたちの欠片。

これは「十二月の星々」という
140文字で綴る小説のコンテスト
に、提出した話をまとめたものになります

区切りが良いので8月分まで記載してあります。
後で後半付け足します。
後半、追加しました

詳細はこちら https://hoshi-boshi.jimdofree.com/

2021年度
 1月の文字 「雪」、2月の文字 「香」
 3月の文字 「空」、4月の文字 「花」
 5月の文字 「本」、6月の文字 「雨」
 7月の文字 「時」、8月の文字 「星」

一旦公募中止とのことなので、一時的に2020年度の題材をお借りしました。
 9月の文字 「月」、10月の文字 「風」

再開
 11月の文字 「書」、12月の文字 「光」

 自作品に対しては、基本的に月3提出を初期に決めました。
 ぶっちゃけると、自分でこれらを使用した豆本を作る絶対って決めたときに、ん?これもしかしなくても装丁や編集がとても面倒くさいやつでは?だったらもう最初から提出する本数固定したらよくない?という、とても身も蓋もない理由です。
 あ、念の為記載しておきますが、組版とか装丁デザインを考えたり作業すること自体はとても大好きです。ハイ。
 仕事レベルでやるくらいの、ガチの趣味です。
 いまは充電期間なので、てきとうにしてますけど。

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#1月の星々  『雪』

#1月の星々  1月3日
舞う華のようなそれを、ついと差し出した茶器からのぼる湯気にあてたら、当たり前のようにふわふわと溶けていく。水面にもあたらずきえた結晶は、ひとかけらの雪となるまでにだいぶ冒険をしたはずなのにたんたんと静かにおどり続ける。
ああ、明日はきっと牡丹の朱が美しく彩られるだろう。

#1月の星々  1月21日
大寒だって。そうぬくぬくとした炬燵でアイスを食べながら呟いた彼女の視線は窓の外で。
つられて顔をそちらに動かそうとしたら、ん。とスプーンを差し出される。一口大の、雪のように白くて甘い儚い甘味。ありがと、そう言ってから素直に口にする。
どう?聞いてきた声に次は抹茶でと私はこたえた。

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#2月の星々  『香』

#2月の星々  2月1日
ふつふつ、ことこと。お鍋のなかでしっとりお揚げが炊かれていた。台所中にしあわせの香りがただよう。お醤油とお砂糖と味醂が沁み込むのはゆっくり冷えていくとき。
冷ましている間に酢飯を準備する。
三角お稲荷さんが出来上がるころ、ただいまー!の甲高い声が飛び込んできた。

#2月の星々  2月15日
ふつ、ふつ、ふつ。鍋の中で小豆がちいさく踊るくらいの火加減が大事なんだよ。焦げないように、ゆっくり、丁寧に混ぜながらじっくりと炊くんだ。
焦りは禁物。あまーい香りがするけど、まだ砂糖をいれてないからね。摘み食いしてはいけないよ。また泣く羽目になるからね。

#2月の星々  2月18日
カップ一杯のお湯を鍋に沸かして、シナモンとおろし生姜にいつもより多めのアッサム。忘れちゃいけないのはたっぷりのお砂糖。
くつくつ沸騰中の鍋から良い香りがあたりにふわりとひろがっていく。
つかの間の休息。
ミルクを追加してグツグツ煮込む。香りがやさしく変化する。そうしたら飲み時だ。

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#3月の星々  『空』

#3月の星々  3月2日
ないてるのかと思った。そう言われた。
どうなんだろう。私にはわからない。ただ、空から降ってくる雨粒が、自分の中の『なにか』を洗い流してくれているのだとは思った。
これは、かなしみなのだろうか。
これは、よろこびなのだろうか。
これは、くやしさなのだろうか。

ああ、この世界にしあわせは

#3月の星々  3月13日
嵐の前の静けさなんて言葉を、どんなときに思いついて書き記したのだろうかと窓の外で荒れ狂う空間を眺めながら心の中で思う。わかっている。これは、ただの現実逃避でしかない。時折雷鳴が光と共に鳴り響く。
「……どうしよう」
膝の上で眠る彼の背を撫でつつ、暗闇の中呟いた。間に合う気がしない。

#3月の星々  3月16日
ぱちりぱちり弾けていく炭酸は、舌の上で喧嘩をして消えていった。
甘くて、ちょっとだけからいような気がする飲み物。
ジンジャーエール。
その名前が生姜からついていると気がついたのはいつだったか忘れてしまった。
空になったグラスの水滴が、またひとつ落ちたのが視界の端にみえた。

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#4月の星々  『花』

#4月の星々  4月1日
ちいさな気泡たちが踊るように水面を揺らしては消えていく。
この場の主たる彼女は、紅色の身体をとても優雅にゆらして、狭苦しく綴じられているはずの世界を自由にあちらこちらへと旅をする。彼女の美しい尾ひれが、ちいさな水族館に咲く偽りの花びらのようだ。
彼女がいるから私は呼吸を思い出せる。

#4月の星々  4月19日
唐突に薄茶が飲みたくなったから、しゃかしゃかと茶筅で泡立てた。途中の手抜きには目をつむる。お茶請けはどうしよう。桜餅に柏餅、花びら餅もあったかもしれない。しょっぱいものも欲しいな……他に何があったっけ、迷うなあと呟きながら、私は戸棚に向かった。

#4月の星々  4月30日
稲妻がひかるのがみえた。音ずれがかなりあったから、ここにいてもまだ大丈夫だと思う。酷くなる前に早く家に帰りたい気持ちと、眼の前の非現実的な風景をもう少し眺めていたい気持ちが拮抗する。
しずかに。しずかに。しなやかな菖蒲の葉を伝いこぼれ落ちる、透明ななみだ。
きっと、それは雨の花。

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#5月の星々  『本』

#5月の星々  5月3日
「そしてお姫様は幸せになりました」
そう言いながら読み聞かせるために視線を向けていた絵本から、思い思いに過ごしていただろう子どもたちにむける。
興味津々と無関心。きれいに反応が分かれているのかと思えば、意外とそうでもないの、かな?
「次はコレを読んで!」
無邪気な願いに快諾した。

#5月の星々  5月11日
黄色い切り花の根本を、斜めにパチリと切った。花瓶なんて素敵なものはないので、代わりにちょうど空いていた鯖フレークの瓶に水を入れてテーブルに飾る。
パッケージに惹かれて買った瓶だけれど、名前も知らない黄色い花との組み合わせは我ながら良いのではと自画自賛したくなった。
暫くよろしく。

#5月の星々  5月26日
狂えたら楽になるかしら。
笑いながら泣いて彼女は呟いた。
壊れたら楽になるかしら。
雨乞いの詩を唄いながら彼女は呟いた。
殺されたら楽になるかしら。
軽やかにステップを踏んで彼女は呟いた。
凶器はそうね、分厚い本がいいと思うのよ。
赤い靴でワルツを踊らされた聖女は続けて呟いた。

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#6月の星々  『雨』

#6月の星々  6月2日
あれ?晴れてるのに、雨が降ってる?思わず呟いたら、もしかしたらどこかで狐が嫁入りしているんじゃないかしらと良く分からない返事が返ってきた。首を傾げたら、そういう言い伝えがあるのよと先輩魔女見習いが教えてくれた。
なったばかりの魔女見習いにはまだ良く解らない。これからよと皆が言う。

#6月の星々  6月17日
卵にお砂糖、牛乳。優しく混ぜて、冷やしておいたカラメルの上にたぷんと波打つ卵液。君たちはこれから低温でじっくりと蒸し焼かれるけれど、とっても美味しくなるのだよ!と言葉を掛けながらオーブンに入ってもらう。外はあいにくの雨模様。けれど、この台所だけはこれから至福の時間にかわるのだ!

#6月の星々  6月29日
川辺を散歩しながら買ったばかりの雨傘をくるくる回す。しっとりとした空気を纏って降りそうで降らない空に、降るならはやく降ればいいと僕は願った。
壊れかけの段ボールの前で足を止める。中には小さな命がひとつ、必死に鳴いていた。
どうか僕を選んで。
僕は守るように抱きしめて、足を動かした。

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#7月の星々  『時』

#7月の星々  7月2日
寝て起きたら世界が変わってた。そんな錯覚をしたくなるくらいには、何もかも違っていて。
けれど時が戻るわけもなく、だからといっていつまでも非日常が続くこともない。どんなに現実を認めたくなくても泣き喚くことも出来ず、息をする限り日常に『戻る』らしい。
僕は、死を。
認めたく、無かった。

#7月の星々  7月10日
内緒だよ。我が主は苦笑いで続けた。
時々さ。今、この身分を捨てて。どこか、そうだな。誰も『僕』を知らない場所に居ることが出来たらなって思ったりもするんだ。
その顔がかなしそうだったから、我が主の前にある紙の束を消し炭にしてやろうかと提案してみた。即時却下だった。主は真面目過ぎる。

#7月の星々  7月30日
「時任くん」
甘ったるい声だなと思いながら、振り向く。絶対厄介事案件だな、とウンザリしたが部長には逆らえない。
「今度は猫ですか。犬ですか。齧歯類で……まさかのホモ・サピエンス!」
「拾った!」「……とうと」「おれはまいごじゃない」
はい、本人から否定が入りました。迷子確定です。

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#8月の星々  『星』

#8月の星々  8月1日
ずっと下を向いて歩いていた。隣に護衛騎士のような彼が寄り添うように歩いてくれていたから、道を間違えることも迷うこともない。
ぽた、ぽたり。
歩き続けていた足が動かなくなった。
「北都。どうしたら、よかったかな」
北斗七星から名前を貰った相棒にだけ、僕は小さく弱音を言うことが出来た。

#8月の星々  8月5日
何光年と遠い遠い場所。そこを目指して羽根を広げた。目指すことを諦めなかった。
いいや、諦めることを諦めてたのかもしれない。きっと『よだか』は、とてもとてもさみしかったんだと思うんだ。生きることに疲れて、星になりたいと願った。
遠い遠い空の果て。そこで眠る夢は、しあわせだろうか。

#8月の星々  8月18日
どこかで聴いた音。いつだろう。多分、幼い頃。
無敵で、怖いものなんかちょっとしかなくて、無邪気に残酷なことをしていたな、とついでのように思い出した。
降り注ぐ音にあわせて、そっとちいさく言の葉を紡ぐ。歌というにはとてもお粗末な、けれどそれは確かに、きらきらした星々為のカノンだった。

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一旦公募中止とのことなので、
一時的に2020年度の題材をお借りしました。

#9月の星々 『月』

#9月の星々 9月2日
りりりと羽根をふるわせて唄う声が庭から聴こえる。直接炙られているようにじりじりと暑かった季節は、雨と共に過ぎ去っていた。
暦の上ではすでに豊穣の季節。そろそろ菊酒を片手に縁側で月見でもしたいものだ。
たまには贅沢でもして、塩以外をアテに呑むのも雅とはいかないが風情があるだろう。

#9月の星々 9月14日
帰宅したら、するりと足元に擦り寄ってきたもふもふしたイキモノ。名前は月と書く。
不満そうな鳴き声に謝罪が伝わるよう撫でてから、彼が訴えているものを確認する。陶器に触れて耳をすませる。そこで違和感に気がついた。いつも聴こえる水の音がしない。電源を確認して動かす。追加謝罪は奮発した。

#9月の星々 9月27日
あの場所の重力は、僕らがいるこの星の六分の壱しかないんだって。
芝生の上。促されるまま、寝転がって空を眺めていたら聴こえてきた独り言。
「じゅうりょく」
「そう。もしかしたら、月なら涙は浮かぶかもしれないね」
「何よそれ」
不器用な慰めに気付いた。歪む視界の片隅に柔らかい光があった。

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#10月の星々 『風』

#10月の星々 10月4日
ふっと息を揃えて燈火を吹き消す。
一瞬の暗闇。すぐに灯りが付き、同時にこれからを共に歩むことを決めたふたりへ寿ぐ言葉がかけられる。
やわらかい光のような幸せの風があたりに敷き詰められていたのを、僕は、ただ、眺めていた。
幸せであれ、何よりも大切だったひと。祈りながら僕は目を綴じた。

#10月の星々 10月11日
「またか」
いい加減にして欲しい。いちいち反応してやるのも面倒くさくて、黙々と操作する。
いっそ台風とか直撃して欲しい。そうしたらどれだけスカッとするだろうか。多分そうなったとしても、別にそれほどスカッとはしないんだろうけど。
ただ、単調作業を繰り返しながら思う位は許されて欲しい。

#10月の星々 10月22日
跳べ。繋げ。疾走れ。一歩を。その先を。
もう二度と誰かを待つ必要なんてない。縛り付けられていたあなたが、ようやく手に入れたもの。自由に飛べる羽根。風のように気儘に。妖精のように気紛れに。
その、眩しいほどの笑顔と歌声で、どうか遥か遠くの地まで願いを祈りをひかりを希望を届けて。

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再開宣言されたので、復帰。

#11月の星々 『書』

#11月の星々 11月1日
仕切られた場所なんて気にしないで楽しくのびのびと文字を書いているのを、今すぐ止めるべきか。それとも、このまま見守るべきか。
おそらく適当なところで指摘をしないと、折角やっているこの宿題が不毛なやり直しになるのは確定してるんだけれど、水を差すのもなと思わず見つめているのが今である。

#11月の星々 11月7日
Hello MIMOSA

この手紙がそちらに届く頃にはそろそろ素敵な花が咲いているのだろうね。
毎日地道に頑張っている日々を送っている。
こうして君に手紙を書くのもあと少しと思えば名残惜しい気もするが、早めにそちらに帰りたいとも願っている。
どうか体を大切に。
それではまた。

By LILAC

#11月の星々 11月10日
「にーに。ぷれぜんと」
ねーねとね、作ったの。と、幼馴染が常日頃から可愛がっている妹から向日葵のような笑顔と共に手渡されたのは、一枚の細長い栞。リボンの結び目の拙さすら愛おしく感じる。
「貴方、よく新書読んでるでしょう?良かったら使ってあげて」
「ありがとう。大事に使うね」
「うん」

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#12月の星々 『光』

#12月の星々 12月1日
ふっと暗くなった。あちら側にまばゆい光が集まる。鳴り響くドラムの重低音。シンクロする映像とDTMの楽園がこれからはじまる。
音の洪水を、全身で堪能するだけの、大切で大事で大好きな時間。何よりも幸せを感じる空間だった。
いつか、いつかきっと、また逢いに行く。
愛すべき私の非日常へ。

#12月の星々 12月12日
いつもは聞こえない電車の走る音が、聴こえた気がした。
寝起きの働かない頭で、ぬくぬくの毛布にくるまりながら息が白いなと思った。
「わっ」
ひたと冷たい何かが頬に押し付けられた。
「起きる。起きるから、冷たいってば、光!」
起きろとドヤ顔の飼い猫に、二度寝の誘惑が負けた瞬間だった。

#12月の星々 12月21日
それは、希望だった。
それは、明日だった。
それは、空気だった。
陽の光を目一杯に浴びて、叫び出したくなる気持ちをどうにか抑えて、風と共に踊り狂う粉雪を身体いっぱいに受け止めて。
いきて、いきて、いきて。いきた。
はらはらこぼれる泪もそのままに、残酷で絶望的にうつくしい世界を識る。

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