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弱い心

 「なあケイ聞いてくれよ、俺やったよ、やっと見つけたよ。まさかこんなことがあるだなんて!」アイルは引退試合で点を取った時のように勢いのあるガッツポーズをして見せる。

 「ああ、よかったな。そりゃ嬉しいな」「ずっと待ち望んでたんだ!それにあっちに向かって行ったらどうやらまだあるらしい。あぁたまらない」アイルは人目も憚らず大きな身振りで伝える。

 「そうか。ラッキーだったな。」アイルは止まらない。「ケイ!お前はいいのか?これはとっても良いものだろ!」「必要ないよ」「なんて勿体無い、みんな知らないんだ。これが今ここにあるだなんて」「そりゃそうだ」「これからが面白くなってきた!」「早くしてくれよ」「ああ行こう、どこへでも行こう」

 カバンが重い。思わず口から漏れる。「っ、くそっ腰が痛い」アイルはずっと有頂天だ。「ケイ、今ならなんだってしてやるぜ」「何もいらないよ」

 陽が暮れてきた。ライトを出さないと。散らかった中身が目に入る。「ちっ、なんでこんなにきたないんだ」また小言が出ている。「あーあ、今日はなんて最高な日なんだ。おっと危ない、木にぶつかるところだった」「おいアイル、お前はいつもそうだ。もっと周りに注意しろよ」「ああ!そうだな、いやー俺はいつも視野がせめぇなぁ」「この前だってそうだ!お前がいなけりゃうまくいってた!」「わるかったてー」


 誰かが傍から飛び出てきた。「うわっ、ごめんなさい。。あっ、ケイさん!」「おおミー、昨日ぶりだな。こんなところで会うなんて」ミーは肩で息をしながら目を輝かせて言う。「あっケイさん見てくださいよ!私ついに手に入れましたよこれ!」「おおぉほんとか、やったなミー。なるほどそりゃそれだけ飛び跳ねたくもなるな!」

 ミーはぶんぶん首を振って答える。「はい!もう嬉しくて嬉しくて!」「よかったよかった!無くさないうちに帰れよ」「はいっ!失礼します」ミーは飛ぶように去っていった。

 アイルはいまだノリノリだ。「今世界中でいちばん幸せなのは俺か彼女のどっちかだな」「  . . . ちょっと用を足してくる」「りょうかい、ここで待ってるよ相棒!」アイルは見栄えは良い敬礼のポーズをとって言う。

 ここからではアイルはもう見えない。「やつあたりじゃないか。最低だな」まだ何もしていないのに頭が下がっている。

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