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地域の食×福祉作業所でつくる地域弁当 「みんなのおべんと。」はじめました

廃棄アスパラガスを使ったほうじ茶「翠茎茶」を2021年の春から手掛けることになったご縁で、地域の福祉作業所や農家、飲食関係の方々と繋がる機会が増え、ローカル※のポテンシャルを発見することが多くなりました。

本文の「ローカル」は都市部と地方部という切り分けでのローカルではなく、僕が住んでいる「地元」の東京都練馬を指す言葉で使っています。

他方、様々なローカル課題を目の当たりにすることも増えました。その一つが「就労継続支援B型事業所※」と呼ばれる福祉作業所の平均工賃です。実は練馬区はかなり低く、東京都や全国の平均と比べたら約3割も安いんですね。

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※就労継続支援B型とは、障害のある方が一般企業への就職が不安、あるいは困難な場合に、雇用契約を結ばないで軽作業などの就労訓練をおこなう事業所およびサービスのことです。

ただ、練馬区の福祉作業所の作業レベルやポテンシャルはかなり高いと個人的には感じています。手がけているアスパラガスほうじ茶は福祉作業所と連携してお茶作りをしているのですが、例えば商品の製造でも、

社会福祉法人 あかねの会で作っている翠茎茶

パッケージ制作→パッケージの上にラベルシールを少し出っぱらせて貼り付け、ハトメを手で打ち、パッケージの中に脱酸素剤を入れ、10グラムきっかりにお茶を入れ込み、上部を熱シールする…
お茶作り→農家から収穫したアスパラガスの切れ端を新鮮なまま運び、フードドライヤーにかけてすぐに乾燥。その後に焙煎機にかけてお茶として味を仕上げていく…

と、こんな工程を経て一つずつ完成品が出来上がるのですが、この一連の作業がお願いできるのは福祉作業所だからこそだと思っています。デザインした本人が言うのも変な話ですが、ハトメがずれないように打つのは少しテクニックが必要ですし手間もかかります。作り始めは潰れたりずれたりがありましたが、何度かやっていただくうちに安定して完成品が仕上がるようになり、今ではラベルのずれをあまり感じません。お茶本体も基礎レシピは私の方で作りましたが、乾燥も焙煎も常に塩梅を見ていただきながら、美味しいお茶を作ってくれています。

実際に使っている焙煎機

アスパラガスほうじ茶は製造量が多いわけではなく年間でも数百〜数千の小ロットなので一つ一つが福祉作業所の利用者さんの手によって作られていて、その作業に対して工賃をお支払いすることができます。

このように、新しい商品を作ることで、新しい労働が発生する際、ローカルの福祉作業所が安定的に対応できるケースがあります。アスパラ茶についても「あかねの会」が既に調理場をお持ちでフードドライヤーも所有していたことから、設備の新規導入はほぼ必要なく野菜加工茶の量産ができる点が大きなメリットでした。

アスパラ茶は練馬区の事業者だけで、ファブレスで製品化されている

都市農業と地域の食が根付いている練馬

また練馬区、特に石神井から大泉にかけては農地が多く(練馬区は23区内で最も農地面積が広く、23区内農地全体の約40%を占めているとのこと)四季折々の野菜を産直で手に入れやすいのもメリットの一つ。練馬の地域食材を使ったレストランやカフェ、パン屋さんとの距離感が近いので、ローカル連携で食文化が育っているエリアでもあります。

自転車で近所を走るだけで色々な野菜直売所に出会える最高の東京ローカル、練馬
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福祉作業所では、その練馬野菜の一部を乾燥させてスープにしたりパンに練り込んだりするなどの加工や、野菜を使った料理やお弁当を作っている作業所があります。またチョコをBean to barで作っている事業所もあれば、地域食材を使ったドレッシングやジャムなどの調理ができる加工場を持っている作業所もあります。

ローカルの持つ強みと福祉作業所のポテンシャル。これらを繋ぎ合わせた新たな仕組みを作ることで、また違った取り組みの糸口を作れるのではないか、と感じることは多々あります。

石神井の名店が食で繋ぐ、地域の新たな可能性

そんな折、石神井公園にあるピッツェリア ジターリア ダ フィリッポ(以下フィリッポ)のオーナーシェフ岩澤さんからある話を受けました。

フィリッポは、ピッツァの世界大会で優勝した職人がいる、練馬でもファンが多い名店の一つ。また岩澤さんをはじめとしたフィリッポチームは以前から、ローカルの良さを発掘しながら「食事」を通じて町の支援を行なってきた方々です。

上の記事を読んでもらうとより深く理解できますが、フィリッポがハブとなり地域の人や団体を繋ぎ、医療従事者への食事支援や食育などのアクションを続けています。

地域支援のなかで、寄付を活用してフィリッポのピッツァの無料テイクアウトチケットを作り、子ども食堂向けに発行したこともありました。
ただこれはなかなか上手くいかず、チケットが使われぬまま。お店でチケットを使ってもらい美味しいピッツァを食べて欲しいけれど、どう変えていくと上手くいくだろうか、という話を岩澤さんから受けることになりました。

話を進める中で考えたのは「お店に来てもらう」ことにこだわる必要はないということ。直接お店に足を運ばなくても、特有の味は共有できる、という視点です。
おそらく、取り組みを知っていても来ない人は来ない。お店の敷居を跨ぐハードルもあれば、時間が合わない、距離が遠い、人の多い場所には入り込みにくい…など様々な理由もあるでしょう。人を連れて来るためにお金をかけてプロモーションをするのは本末転倒ですし、本来届けたい人には届きにくい。

それであれば「お店の場所」にこだわる必要はなく「お店が育ててきた味」にフォーカスを当てて、それを活用していくのはどうか、という話になりました。

地域の味で繋がっていく「地域弁当」

その結果生まれたのが「練馬の地域弁当」というアイデアでした。
「地域弁当」という一つのフォーマットを作り、そこにレシピを乗せていく。レシピを作るのは地域の名店や、料理人たち。そこから生まれたレシピを元にお弁当として再現していくという構想です。

初期の構想資料

その流れを支えるのは、調理加工ができる福祉作業所。前述のように地域食材との距離が近い練馬の作業所は、お弁当調理のレベルが高く、美味しい味に仕上げられる作業所がいくつもあります。
また福祉作業所と連携することで、飲食店の負荷が抑えられるというメリットもあります。毎日お店を運営しながら食事支援をしていくのは並大抵の労働負荷ではありません。それを福祉と連携することで負荷を下げながら支援が続けられるのであれば、飲食と福祉事業所の双方、さらに利用者にもメリットが生まれることになります
農福連携というスキームがありますが、いわばこれは食福連携。それを活用しましょうという話になりました。

また、この取り組みを「みんなのおべんと。」と名付けました。シンプルでわかりやすく、誰でも読めるネーミング。
ライツもクリアにしておこうと商標チェックをかけたら登録可能性は「A」判定。調査にも登録にもお金はかかりますが、こういうアイデアは前に進める覚悟を決めたらとことんやるもの。活用範囲を柔軟に組み立てられることもあり、足場固めもできるようにネーミングを申請しました。

商標判定はA。長く使うネームは早めに抑えておきたい
パッケージの初期デザインモック

「みんなのおべんと。」のプロジェクト構造について

取り組みの全体像をデザインする際にまず考えたのは、誰もが関われる間口にすること。そして地域の人が緩やかに連携でき、長く長く持続するサスティナブルな仕組みにすることです。

そして前述のように、地域の味を食福連携によって形にしていきます。弁当というフォーマットにすることで、色々な接点で展開できるようになります。

流れを整理すると、このような循環が描けます。関わるローカル事業者のポテンシャルを活かしながら、無理なく取り組めること。そして地域の支援に繋がること。緩やかな連携ができるように、接点同士が途切れないよう手を取り合うハブ役も必要です。

大切なのは「支援のモデルをつくる」のが目的ではなく、「健康的で美味しいものを広く地域に届ける」ということです。特に食に関係するプロジェクトにおいては、ちゃんと美味しい、という部分が抜けるとただの自己満足になります。ですので「美味しくてまた食べたくなる丁寧なお弁当」を作ることがサステティブルに支援の輪を繋ぐ大事なポイントだと考えます。

ただし、最初から多くのことをやろうとすると負荷が高くなりますし、おそらく持続しません。なので流れとしては3つのステップをイメージしています。

まず1に、福祉作業所の売上が向上すること。基礎となる福祉作業所がちゃんと豊かになることでプロジェクトの継続ができるようになります。

そして2に、売上の一部を支援原資にすること。お弁当の利益の一部を支援金に充当し、ある程度まとまったらそれを活用する、という考えです。

そして3に、その支援を生かして次のアクションへ繋げること。無料弁当をつくって子ども食堂へ配布したり、ローカルNPOと連携して支援を活性化するなど、活動を拡げることが可能になります。

まずは1が安定すること。そうなると2→3の流れが描けるようになります。このような考え方をチームで話し合いながら、無理のない範囲で実証実験をしましょう、ということになりました。

「みんなのおべんと。」は二種類のレシピから

最終的に仕上がったお弁当のルックはこちら。

写真は練馬区在住のフォトグラファー、川しまゆうこさん

福祉作業所と連携するにあたっては、いくつか守るべきポイントがあり

  • 作業が複雑にならずシンプルな工程であること

  • 簡単に扱えるものであること

特にこの二点は重要です。
加えて、プラスティックを極力使わないパッケージを意識し、バガス+紙を利用したお弁当としました。バガス素材の箱は手触りがいいですし、色も温かみのある白系で雰囲気があります。

そこに一枚、「みんなのおべんと。」と書かれたラベルシールで包むことで商品としての佇まいが出ますし、お弁当の開け口を押さえる機能面も期待できます。

また、お弁当のラベルはレーザープリンター出力のラベルシールに印刷し、それをカットして使うことにしました。
印刷所で印刷したラベルシールの方が品質は高いのですが、やはりコストは高くなります。それよりも品質は落ちますが、レーザープリンター印刷だと手軽に必要な数が印刷できるので無駄がなく、そこそこ綺麗に出力されます。最終的には各作業所のプリンターで印刷することも見据えて、出来るだけ原価を抑えていく工夫が必要になります。

それを福祉作業所の、カッターが使える利用者さんと連携すれば、(負担がないレベルを意識しながらではありますが)ラベルの量産ができます。このような連携でアイテムを作っていける点を活かしながら、お弁当を完成させていきました。

そして肝心のレシピは、フィリッポ岩澤さん、野澤さんより二種類のレシピが作られました。それが「のり弁」と「イタリアン」。

最高に美味しいのり弁。副菜はもちろん練馬野菜
オリジナルサルシッチャとパンのイタリアン。これも抜群に美味しい

これらのお弁当は素材が命。ただの支援弁当ではなく、健康的でありながらしっかりと美味しい、誰もが何度でも食べたくなるお弁当を目指しています。

フィリッポは飲食店と別にフィリッポマーケットという小売のお店もやっているので、そこで扱っている上質な調味料や素材を巧く活かし味の下支えをしています。

石神井公園「西武グリーンマルシェ」で初販売。そして…

お弁当の製作は練馬桜台の「NPO法人 あんずの家」さん。約20名ほどの利用者を抱え、お弁当をはじめ漬け物やお菓子作りなど、食に関して多くの実績がある作業所です。

また、今回の取り組みに「社会福祉法人 未来こどもランド」さんも参画。こちらは練馬野菜を使ったドレッシングやジャムなどの加工品が作れる調理場を持つ作業所です。

実証実験の第一弾として、あんずの家が作る「のり弁」を、2022年3月26日に石神井公園駅前で行われた西武グリーンマルシェPlay!高架下の二箇所のイベントで販売しました。

作業風景の様子。利用者さんの連携でお弁当が仕上がります
長崎産アジを使った揚げたてのアジフライ。これに練馬野菜を使った自家製タルタルソースを添えて提供
ラベルを貼り、運搬用のバッグへ。利用者さん全員で手持ちで会場へ運んだとのこと

お弁当の価格は1,200円。おまけのデザートに、あんずの家がつくる「ねり丸饅頭」が付きました。

当日展開した「のり弁」の内容。素材ひとつひとつが上質です
練馬で大人気のゆるキャラ、ねり丸が焼印された「ねり丸饅頭」

価格はやや高く見えますが、食材は日本中にある美味しい素材を丁寧に調理しているので、原価コストと工賃を考えたら適正範囲。また一部を支援金として回すコストを加えての金額設定です。福祉だから安い、ではなく、ちゃんとした味を届けるために値段もちゃんとする、というスタンスです。

西武グリーンマルシェでの販売の様子。販売も利用者さんです

結論を述べると、今回のイベントで187個のお弁当が売れ、約20万円ほどの売上となりました。通常のイベント出店での福祉作業所のお弁当販売金額と比べ、4〜5倍の結果になったとのこと。
石神井エリアの特殊性やマルシェの吸着力、フィリッポファンの下支えなど色々な要因が絡んでのことではありますが、驚異的な売上増と言えます

しかも売上以上に良かった点は、福祉作業所利用者のエンパワーメントです。実際、今回の販売はお弁当作りも店頭でのコミュニケーションも、障害をお持ちの方がほぼフロントに立って行っています。

これによって「お弁当が美味しい!」という声や「ねり丸饅頭かわいい!(実際に皮も餡も障害者利用者の方の手作り)」といった、作っているもの自体の評価が直接届くことで、強い励みとなります。

また新聞やテレビの取材が入り、メディア露出が生まれる事で、対外的に取り上げられることで自信につながり、家族友人へのシェアが生まれます。

また今回の出展は、あんずの家の利用者さん全員でお弁当を運び、シフトを組んで販売体制を作ったとのこと。コロナ禍でのイベントという事で人数制限やルールの徹底があったものの、うまくチームを回して販売に関わる事で、ある種の「お祭り」に参加したような高揚感があったと聞きました。

かなりの数のお弁当を電車にて、桜台→石神井公園駅まで搬送したとのこと

売上の向上による環境改善と、関わる人のエンパワーメント。まだ一回だけの実績ではありますが、確実な手応えを感じました。

さまざまな想いで繋がるローカル共創プロジェクト

今回のプロジェクトは多くの人の想いが重なり、創り上げられたプロジェクトです。フィリッポや福祉作業所もそうですが、その関係を繋いでくれた練馬区議員の石黒たつおさんや、商工会幹事長の中田信也さんなど、裏支えしてくれる方々がいて地域の縁がつながっています。

まだ走りはじめたばかりのプロジェクトなので課題もタスクも山積みですが、焦らずじっくりやっていくのがプロジェクトの持続性を作るコツ。お金周りの設計や売り方の工夫、法人支援の参入設計などテクニカルな部分は専門家を巻き込みつつルールメイクを行いながら、飲食店や料理人と福祉作業所のマッチングをレインボーワークさんと連携したり地域レシピを開発したり、整える部分と拡げる部分のバランスをとって、緩やかに発展させていく予定です。

みんなのおべんと。プロジェクトが持続するのは皆さまの支援と連携あってこそ。「みんなのおいしいが、地域の支援に。」をテーマに、様々な声を反映しながら取り組み、全体のデザインを整えていきます。

そしてプロジェクトが持続的に進んでいくと、ローカル生活圏が20年後、30年後、とっても豊かになっていくと信じています。
このようなWell-beingに繋がる活動を、緩やかに一歩ずつ、地域の良さを活かしながら今後も育てていくつもりです。


いただいたサポートはローカル活動や事業者の支援に活用します。