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エルサレムのお買い物事情

【パレスチナ事業30周年・コラム第6弾】

こんにちは!
大学がハードモードすぎて、家と大学と近所のスーパーの三角形の中だけで生きているJVC現地学生インターンの谷崎です。

今回のコラムのテーマは「お買い物事情」ということで、エルサレムでの生活が2年目に入った筆者が、この街での買い物について学生目線で紹介したいと思います。

東エルサレムと西エルサレム

まずエルサレムにおける特殊な状況で普段の買い物にも関わってくることの一つとして、エルサレムの街が東と西に分かれているということがあります。大まかには東エルサレムは主にパレスチナ人が多く住んでいるエリア、西エルサレムはユダヤ人(イスラエル人)が多く住んでいるエリアと言うことができると思いますが、東西を分ける壁のようなものがあるわけではなく普通に行き来することができます。ではなぜこの東西が買い物に関わってくるのかというと、筆者的には価格と曜日の2つの要素があると思います。

価格というのは分かりやすいかもしれませんが、一概には言えないものの、東エルサレムの方が物価が若干安い傾向があるように感じます(筆者体感)。常に金欠との闘いである学生にとっては物価というのは死活問題でして、筆者もまとめて買い物する際にはなるべく東エルサレムのスーパーに行くようにしています。

次に曜日というのはなんのこっちゃという話ですが、これにはユダヤ教の安息日(金曜日没から土曜日没)が関係しています。イスラエル側では毎週安息日には

ほとんどのお店、レストラン、公共交通機関等が休み(運休)になる!!!

という日本人としてはなんとも信じ難い習慣があり、スーパーも例外ではなく金曜の午後3時ごろには閉まってしまいます。平日は大学から帰ってきて買い物に行く気力も体力もなくベッドにダイブした瞬間気づいたら外で小鳥がチュンチュン翌朝を迎えている筆者にとって週末(中東では金土)のうち1日は買い物が一切できないというのは非常に大きな問題なわけです。しかしながらこれはあくまでユダヤ人の習慣であり、つまり、パレスチナ人の住む東エルサレムでは適用されません。ですので東エルサレムと西エルサレムの境界線あたりに住んでいる筆者としては、安息日前に食材の買い物を忘れても東エルサレムに赴くことで飢えに苦しむことは避けられるというわけです。

物価

パレスチナ・イスラエル(特にイスラエル)は物価が非常に高いことでも知られていてエルサレムも例外ではありません。昨今の円安もあり留学生としては松屋かサイゼリアの早急な中東進出を待ち望んでいるところですが、実はこちらの方が日本よりも安いものもあります。日本で一人暮らしをしたことがないのであくまで体感ではありますが、例えば野菜や果物は安く手に入ることが多く、しかも種類も豊富で美味しいと思います。

(筆者撮影 中央:スイカ10kg(!)/2NIS≒80円 右:メロン1kg/5.90NIS≒240円)

第三勢力

これまでお話ししたようにエルサレムには主に東エルサレムのパレスチナ系スーパーと西エルサレムのイスラエル系スーパーの2種類があるのですが、実はもう一つロシア系スーパーというのもあります。

イスラエルにはロシア及び旧ソ連圏から移民してきた人たちが非常に多く、彼らの大半が「イスラエル人」というより「ロシア人」というアイデンティティを強く持っているようでロシア系のスーパーがあることからもそれを垣間見ることができます。これらのロシア系スーパーは西エルサレムにあり、大きく分けるとイスラエル系スーパーに分類されるのですが、一つとても大きな違いがあります。

それは「豚肉を売っている」ということです。

実はパレスチナ人の多くが信仰するイスラームでもイスラエル人の多くが信仰するユダヤ教でも教えの中で「豚肉を食べることはタブー」とされていてそのためにどちらのスーパーに行っても基本的に豚肉を手に入れることはできません。
しかしながらロシア系イスラエル人の多くが世俗的で、豚肉も食べるぜ!という人たちが多いのでロシア系スーパーというのは豚肉製品、例えばハムやソーセージなど日本人としてはもはや特に豚肉として意識せずに食べてきたものたちを扱っている貴重な場所ということなのです。

(筆者撮影:ロシア系スーパーにはロシア産製品(上段)のほかラトビア産製品(下段)等も置いてある)
(筆者撮影:多種多様なチーズ 先週初めてパルメザンチーズを認識した筆者には全て同じに見える)

最後に

パレスチナ産?イスラエル産?

旅行でエルサレムを訪れた人が「思ったより平和だし、パレスチナ人とイスラエル人が共存している」と言っていたことがとても印象に残っています。

確かにスーパーではパレスチナ人とイスラエル人が一緒に働いているし、トラムではパレスチナ人の男の子がイスラエル人のおばあさんに席を譲っているし、そういう日常を見ると彼のように感じるのはごく自然なことだと思いますし、筆者もそうでした。

ですが、やはりエルサレムはパレスチナとイスラエルの境目の街であり、大規模な衝突でなくても、注意深く観察するとこの対立関係はありとあらゆる場面で見えてくるのも事実です。
買い物というごく日常的な場面も例外ではなく、売っているものの産地に着目することで、一見仲良く共存しているように見えるという表面的な事実よりもう少し複雑で深い彼らの『お買い物事情』を垣間見ることができるかもしれません。

「T&E記事」ではこれに関連して援助関係者の視点からJVCの現地駐在スタッフが考える東エルサレムのお買い物事情について解説していますので、ぜひご覧ください!

※写真をクリックすると記事が拡大されます。 ⇒

(2020年冬「Trial&Error」 No.339 より抜粋)


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