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占領下のオリーブはいつ咲くか?

【パレスチナ事業30周年 ウェブ記事・第二弾】 

第一弾で、JVCパレスチナ事業のはじまりについてのインタビューをお届けしましたが、第二弾からはJVCがパレスチナで具体的にどのような活動をしてきたのか、についてお伝えしていきます。

JVCがパレスチナの地に調査に入ったのは1992年、資金的な問題と情勢の不安定さから1年ほどは事務所や駐在員を置かず、出張という形で日本とパレスチナを行き来していました。

1987年に起きた「第一次インティファーダ」の影響がまだ色濃く残るパレスチナで、最初にはじめたのは「植林を通じた農民支援」でした。

インティファーダとは、「イスラエルの占領地においてパレスチナ住民により組織的に展開された占領支配に抵抗する運動」のことを指し、当時20年以上続いていたイスラエルの占領によってイスラエル経済に依存せざるを得なかった構造を変え、独立に向かって社会建設を行うことが大きな目標とされていました。

「イスラエル政府の占領地政策の根幹は、パレスチナ人を追い出し、入植をできる限り進めて土地所有の既成事実化をしようとするものである。それにより、パレスチナ人は生活を根本から失う。農民が木を植えることにより土地所有を主張することは、彼らの人権を守ると同時に生活を守ることでもある。」という考えから、JVCはパレスチナ農民が中心となって組織する現地NGOの支援を開始しました。

最初の事業地は、ヨルダン川西岸地区(以下、西岸地区)のナブルス市から南に8kmほどの場所にあるアワルタ村。植林をするための土地をならし、現地農業技術者による農民への植林セミナー、土壌流出防止のための石垣作り、農地を囲むフェンス作りなどの準備を経て、1993年には植林が開始されました。

この時期には西岸地区が一時完全封鎖され、農民の農業や商業などの経済活動に多くの支障を来たしていました。また、植林したオリーブなどの苗木が大量に抜かれたり燃やされたり、イスラエル側からの妨害を受けることもありました。そういったことを乗り越え、7年ほどで3つの事業地に、オリーブ・りんご・イチジク・アーモンドなどの苗木が約7,700本植林されました。

1993~94年には和平の兆しも見えましたが、一方で、たびたび和平に反対する入植者とパレスチナ人の間で衝突が起こるなど、パレスチナの地での農民支援が困難となり、違った形での支援を検討するようになっていきました。

残念ながら、事業開始から現在に至るまでの30年間、パレスチナ人の土地は収奪され続け、多くの農民が農地を失ってきました。2022年現在、西岸地区におけるイスラエル人入植地の数は約132カ所、入植者は45万人を超えています。なお、パレスチナが行政権および警察権の行使が及ぶ地域(A地区と呼ばれる)のは西岸地区の18%ほどです[図1, 2参照]。

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特にC地区に住むパレスチナ人はいつ自分の土地を奪われるかわからない状況にあります。また、入植地の建設によって、パレスチナ人のコミュニティが分断され、自分が所有する土地へのアクセスが制限されるケースもあります。そんな中での農業は困難を極め、中でも象徴的なのがオリーブ農家です。オリーブの収穫時期に入植者からの嫌がらせを受けたり、木が燃やされるといったことが現在も起きています。

オリーブの木は世界の多くの場所で平和の象徴として用いられており、国連のエンブレムにも使用されています。パレスチナはオリーブの名産地の一つであり、西岸地区とガザ地区で合計1,000万本ほどのオリーブが栽培されているそうです。しかし、パレスチナの人々が平和に暮らせる日はいつやってくるのか、いまだ誰にもわかりません。

国連組織や国際NGO、現地NGOなどが監視をしたり、直接的に農民支援を実施している場合もあります。また、オリーブ摘みの季節になると、国際NGOの連合がオリーブ農家の支援の一環として、イスラエル人入植地に隣接している場所でのオリーブ収穫のボランティアを行うなど、農民を守る動きが続けられています。

(JVCスタッフがオリーブ収穫のボランティアに参加した際の記事は以下からご覧になれます)
「パレスチナ人を守る、オリーブ摘みボランティア体験記」

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[1] イスラエルの法律で認められた公式な入植地の数であり、これ以外に不法な入植地が147あるとされています。(Peace now organization)  しかし、国際法上は、占領地におけるいかなる入植地の建設も違法です。


シリーズでは『Trial&Error(JVC会報誌)で振り返るパレスチナ事業30年の歩み』として、各note記事当時の事業を紹介した会報誌の一部を掲載しています。事業開始から1年後の1993年当時の様子が書かれた記事です。ぜひご覧ください。写真をクリックすると記事が拡大されます。 

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JVCのパレスチナ事業では、現地に暮らす人びとの意思を応援する形での支援を行なっています。また、パレスチナの問題を日本社会にも伝えることで、一人ひとりが取り組むための橋渡し役を担うことも試みています。 サポートしていただいた分は全額、JVCのパレスチナ事業に寄付いたします。