先生は、優しい目をした破天荒じいちゃんだった。
私が小学校2年生の時の担任の先生は、定年退職を間近に控えた
おじいちゃん先生だった。
痩せていて、白髪で、二重で細い目の奥にある黒目の光が優しかった。
きっと、怖いことも、怒られたこともあったのだと思うけれど、
なぜかそういう記憶が全部ない。
白髪と、ちょっとそこから透けて見える頭皮と、
あの優しい目と横にそっと添えられた皺だけを覚えてる。
給食の時間の先生の膝の上は、みんなに大人気だった。
子どもたちの机に来て、並んで給食を食べる先生。
先生は椅子に座ったまま、子どもたちを膝に乗せて抱っこしてくれた。
なんと、先生の前に順番待ちが出来るくらい。
先生の膝に座ってみるのは、みんなの憧れだった。
暖かくて、ちょっとゴツゴツした膝。
子どもたちをその膝に乗せ、
自分のスプーンで子どもにご飯を食べさせちゃうような先生。
今の時代にやったらいかんヤツだと思う笑。
口にご飯を入れては、もぐもぐってやっているのに、
膝の上に抱きかかえたままの子どもを後ろからくすぐってくる先生。
「やめてよ~」
口からあふれ出そうなご飯を、手で押さえては
そそくさと逃げていく子どもたち。
そんなやり取りにも、また心が沸いていた。
まるで孫たちを見るように、みんな可愛いね~と言わんばかり。
図工で絵を描かせれば、勝手に書き換えちゃうし、
問題を解けば、全部に花丸しちゃうし。
自由奔放で愛情深くて、なかなか今の時代では生きにくいかもしれない
破天荒なおじいちゃん先生だった。
私は先生のことが大好きだった。
膝の上も好きだった。
時間がかかってもいいから、順番に並びたかった。
一生懸命描いて、「力作だ!」と喜んでいた絵を
大胆に先生に描きかえられた事があった。
「勝手に変えないで」と泣いたりした記憶もある。
先生と生徒という関係以上に、
何かいろいろな想いを感じていたのかもしれないな。
だから、たぶん。
こうして今も胸に残っている。
あの優しい目が胸に残っている。
先生が退職されてから、一度だけ。
先生が暮らされているお宅に、同級生と一緒に泊まりで遊びに行った事があった。
周囲にはほとんど民家のない先生の家。
田舎にあって、田畑や林に囲まれた先生の家。
ぽつんと民家から離れていたその家に、
先生は奥さんと二人で暮らしていた。
先生の生活の香りがした。
最寄りの駅からは、友達と一緒にトラックの荷台に乗せられて移動したことだけうっすらと覚えている。
初めての体験だった。
普段は車の窓の内側から、景色を見るのが当たり前なのに、トラックの荷台は、スピードも風も景色も隣で起きている事だった。
木々も風も顔にあたり、息をするために、顔を後ろに向けた。
風を切っていた。
そのスリルとともに、スピードにのるなんて初めてのことだった。
あの時の、ちょっと悪いことをしているような
でもドキドキするような興奮。
当時だから出来たこと。
夜は、みんなで肝試しをした。
それから、先生はテントで怖い話をして
みんなをさらに怖がらせた。
いたずらっ子みたいな先生だったけれど、
目が優しかった。
トラックの荷台に乗せられたことは、なんとなくだけれど、親には伏せておいた。
「また来てね」
先生は優しい目でそう言ってくれた。
そんな体験と、先生の破天荒っぷりを今も覚えていて、それが今も、先生の温かさとして感じられる。
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