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藤子不二雄A展「Aの変コレクション」レビュー@六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー

日本を代表する漫画家・藤子不二雄A。
「忍者ハットリくん」や「笑ゥせぇるすまん」「プロゴルファー猿」などの名作を世に送り出し今なお愛され続けている。
彼のポートレートを集めたのが今回の展示だ。
いやはやまず驚いたのは展示品の数。各コーナー別に彼の全作品を見事に網羅している。

当日レポート

仕事を終えて19:00に六本木ヒルズへ。あたりは真っ暗。すっかり秋だねえと思いながら巨大なクモのオブジェの股をくぐり、映画館前を横切って、東京シティビューに向かう。
途中、白人のカップルが上映ラインナップを指差してやかましく口論していた。観たい映画が食い違ったんかもしれん。身振りが半端ない。もしその辺に食卓があったらカトラリーとか燭台とか投げまくってただろう。

美術館は52階にある。
よく訓練された若い女性の誘導員が「藤子不二雄A展はこちらのエレベーターからどうぞ」とゆっくりお辞儀をする。もうなんか達人の所作。逆に残像が見える。さっきのカップルとは反対で文化の差を感じたけど、この女性もキレたら分からんなと。「ひゃひゃひゃ」と不敵な笑みを浮かべて自分のロングヘア喰いながら、青酸カリつくるんかもしれんなと、要らぬ想像をしながらエレベーターに。
15人ほどと一緒に乗ったがもう多国籍。六本木ではいつも世界が凝縮されている。いろんな言語が背後で飛び交う。ボタンの前にいたので「開く」を押して、みんなを先に通した。「アリガト」「アリガト」「アリガト」と微笑みを浮かべてお礼が聞こえる。私も「イエイエ」となぜか片言でお辞儀を返したが「yeah,yeah」に聞こえたかもしれん。「こいつ盛り上がってんな」と誤解された可能性がある。

金曜の夜だったが混んではいなかった。途中、コミュケーションがうまくいかないのか、韓国の方が受付でまごつき、渋滞しかけるも他のスタッフが即座に窓口を増やすというファインプレーを見せる。
チケットを買って、いざ入場。暗くておどろおどろしいルートを辿ると、いきなりドーン!

「笑ゥせぇるすまん」の舞台「バー 魔の巣」が再現されている。喪黒福造がこっち向いて酒をあおっている。足短え。
これはファン垂涎だろう。隣で一緒に酒を飲めるのだ。まぁ同席したら不幸が待っているのだが……。

進む。進むとなんと「トキワ荘」時代の部屋が再現されていた。「トキワ荘」は言わずと知れた名漫画家の巣窟だ。手塚治虫を始め藤子不二雄AとF藤子不二雄、石ノ森章太郎などの天才が生活をともにした場所である。しかも靴を脱いで畳に上がれるとのことで、お邪魔してみた。あぐらをかいて筆に向かってみる。う〜ん、レプリカ〜。超絶怒涛のレプリカ感〜。言わずもがな感動などはしない。しかしトキワ荘の壁を見たときはワッと思った。思わず興奮した。

ニヤニヤしながら先に向かうと「ポップコーナー」突入。あらゆるジャンルを手がけてきたAのなかでも比較的ポップな作品がわんさかわんさかてんこ盛り。「忍者ハットリくん」「怪物くん」「プロゴルファー猿」。名作ぞろいである。あらためてすんげえなこの人と。マジ驚嘆する。原画やグッズはもちろん、ハットリくんのゲームまであった。

誰かプレイしないかなぁと待ってたけど、だ〜れもコントローラーに手をつけない。ずっとハットリくんが待機してるんです。

ゲームを横までにテクテクテク、テクテクテクと歩くとテクテクテクなんて足音、さっきまでしたかしらなんて、心なしか足音が響くなぁなんて、そういえば微風を感じるし、どこかから薄く赤子が泣く声がすると思ったら「ブラックユーモアゾーン」にいた。

ここもやはり名作ぞろい。「魔太郎がくる!!」や「黒ベエ」「ブラック商会変奇郎」など、「黒藤子」の異名は伊達じゃない。本当に怖い。明らかに画風が違う。突如劇画。このギャップだけで、Aの才が分かる。
展示として面白かったのは、撮影用に設置された「不思議な額縁」だ。通常時は真っ黒で何も見えない。

しかしフラッシュを焚くと……

いや、これホントどうなってんの? 魔太郎バァーーン!なんだけどコレなに? AI追いつけないんだけどコレ、と思いながら歩いていると「笑ゥせぇるすまんゾーン」に入った。

やっぱり数々の名作のなかでもこの作品は別格なんですな。いきなり現れたのは、どこから見ても目が合ってしまうドーン!!中の錯視絵の喪黒福造だ。さらに進むと、なんと1話まるごとのストーリーが壁に貼ってある。しかも地上44階から望遠鏡をのぞき、喪黒福造と知り合ったあげく不幸になってしまう男の話だ。ここは地上52階。思わず自己置換してしまう。

もちろんそのほかにも原画や貴重な資料などもろもろ喪黒福造を攻略した気になる。もう怖いものはないハハハ。ハハハハハハハハハハとひとりごちながら退場。窓の向こうから東京のビルあかりがビガーって光ってて、なんか不安になる。

エレベーターで急ぎ3階まで降りて、帰り際、自動ドアで六本木ヒルズから出ていく際に一匹のゴキブリがするするっと館内に入っていった。

あのゴキブリはもともと人間だったのではないか。いや、きっとそうだろう。あれは絶対に六本木でなにか悪いことをしたあげく、大金を稼ぎ、豪遊していたら喪黒福造と出会い、ドーン!!で、ゴキブリにされてそれでも過去の栄光にすがりつき、未だヒルズを忘れられない何者かだ。と割と本気で考えてしまった。

私はまんまと喪黒福造に取り憑かれてしまったのである。こんなおそろしいキャラクターを考えた藤子不二雄Aはやっぱり「変」だ。敬意を表したい。

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