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ジュウ・ショのサブカル美術マガジン

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美術についてサブカルチャー的な視点から紹介・解説。 学術書とか解説本みたいに小難しくなく、 極めてやさしく、おもしろく、深ーく書きまーす。
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#漫画

「フランダースの犬」でルーベンスのキリスト画が描かれた理由とは

『フランダースの犬』と『火垂るの墓』は、ちょっとマジで発禁にしてほしい。いや子どものころは「なにこれ、かわいそう……」って、そんだけだった。しかし大人になってから観ると、救いがなすぎてバウンスビートくらい動悸がしてオロオロ泣く。18才以上禁止とかにしてほしい。O-18。オーバー18歳だこんな作品は、やめろ。観せるなもう(泣)。 そんなフランダースの犬といえば、やっぱり最終回。主人公のネロと愛犬のパトラッシュが寄り添ってルーベンスの「キリスト昇架」と「キリスト降架」を観て「な

線と色彩論争とは|プッサンvsルーベンス、アングルvsドラクロワの話

昨日、友だちの友だちを紹介してもらって、民俗学でいう「境界」についてのお話を伺った。いや、これがめちゃんこおもろおもろ祭りだった。精神的にはもうハッピ着て太鼓打ちまくってた。どんどこどんどん。 「あちらとこちらの境目」って、あらためて認識すると、すごい。白い紙に黒い線を一本すーっと引くと、あちら側とこちら側に分かれる。あの世とこの世とか、男と女とか。そんな区分けが生まれる。区分けがはっきりしていると安定するが、その境目は不安定であり、よく怪異が出てくる、と。 いや、これマ

「ペスト下の死神」と「コロナ下のアマビエ」|シンボルで比較する人の思考

全国的に緊急事態宣言も明けて、ようやく日常が戻ってきたのを感じる。まだまだ油断はできないけれど。ワクチンもようやく完成した。 しかしまぁ長かった……。2020年の1月からもう15ヶ月以上になる。治療法のない病がこんなに怖いものだとは思わんよ。去年の1月は、こんなことになるなんて誰も思ってなかったでしょう。 そういえば西洋美術において「不治の病」といえば「ペスト」だろう。ペストは全部で3回のパンデミックがあったが、ヨーロッパでは14世紀ごろに流行り、人口の約1/3が亡くなっ

アンリ・ルソーとは|40歳を超えて独学で画家になった天然の才能

画家とは絵に魂を捧げなければいけないのか。血や骨を削って、必死に一枚の絵と向き合う必要があるのか。画業をやるうえで絵だけに集中をするべきなのか? 私はそんなスポコンはいらないと思う。noteというプラットフォームの登場はまさに自由な世の中を表している。誰でも作品を自由に投稿でき、不意に発見されてアーティストとして世間に認知される。才能が埋もれない心底素晴らしい世界だ。 作品を投稿している皆さんのなかにも、普段は会社員や公務員として厚生年金を支払いながらも、休日は作品づくり

ワシリー・カンディンスキーとは|「純粋な芸術」を生んだ真のアーティスト

ふとnoteを見てイラスト、二次創作の多さに驚いた。もちろんnoteだけではない。Twitterでもインスタでも、とんでもない絵師さんの数がいて、素敵な作品をあげてくれる。素敵な世の中だ。 いっぽうで、抽象絵画を見ることはあまりなくなった。もしかしたら抽象絵画は、キャッチーなキャラクター文化が主流の日本において、最も日陰に追いやられている存在なのかもしれない。 人物画や静物画のような「モチーフ」があることで、見やすくなるのは確かだ。例えば荒々しい波の上に船を一艘置くだけで

遠近法の歴史|誰にでも分かりそうなのに1000年も発明されなかった技法

遠くの人は小さく、近くの人は大きく見える。 今となっては、当たり前に成立している遠近法。しかし1200〜1300年以前、つまりルネサンス期より前の絵画には、遠近法はほとんど存在しない。つまりのっぺりした2Dの絵であり、3Dの概念はなかった。 「え? なんで?」と思う方もいるかもしれない。正直なことを言うと、私もその1人だった。だって風景画も人物画も、観たまま描けば遠近法になるじゃん……。しかし、実際に描いた経験がある人なら分かると思うが、見たまま描いても正確な遠近法にはな

2021年の美術展をずらっと紹介! コロナ明けは生でアートを見つめよう

2020年は新型コロナウイルスの影響によって、予定されていたあらゆる美術展が中止・延期になった。皆さま楽しみにしていた展示もありましたよね。しかし絵より命のほうが大事なので致し方なかろう。 特に2020年の夏ごろは東京五輪での海外客到来を見込んで「ジャパン・アートの素晴らしさ」「バンクシーのやばさ」を訴えたイベントを予定していたが、見事にずっこけたのが同情を通り越してちょっとおもしろかった。 2021年、まだまだ油断はできないが、ワクチンの接種もいよいよ始まりかけており、

バルビゾン派とは|風景画の基礎を築いた「バルビゾンの七星」の"豊かな心"

「バルビゾン派」をご存知だろうか。断っておくが決してウルトラ怪獣ではない。「ゼットン派?レッドキング派?」「いや、俺バルビゾン派」ではないので注意してください。 バルビゾン派とは1830年代から1870年代くらいまで、フランスで隆盛した美術派閥だ。「自然をあるがままに描く」という考えが特徴。フランス・フォンテーヌブローの森の近くにある「バルビゾン村」が舞台になったのでバルビゾン派という。 西洋美術史のなかでも「バルビゾン派」というグループは見ていて楽しい。 17世紀からず

カリカチュアとは|日本漫画の原点となった「いじり」の芸術

旅行先で似顔絵を描いてもらったことがある方は多いだろう。そして「できました〜♪」と化け物のような絵を手渡された人もいるでしょう。「おいできたじゃねえよ」と怒っちゃった方もいるかもしれない。 似顔絵屋は基本的に写実では描かない。デッサンではなくエンタメである。なので忠実に似せる気なんてさらさらなく、超笑わせる気でふざけて描くのが彼らの仕事だ。 こうした表現を「カリカチュア」という。つまり対象の容姿の特徴や性格などを、これでもかと誇張して描いた表現のことだ。 カリカチュアは

ファム・ファタールとは|起源や言葉の意味、キャラクター紹介など

ファム・ファタール……それは美術、マンガ、アニメなどの世界で「男を惑わせる魅惑の女性」を指す言葉だ。本来の意味は「赤い糸で結ばれた運命の女性」となる。 「赤い糸」と書くとロマンチックに聞こえるが、いやいや、そんなに良いものでもない。もっと妖しくてキケンな存在であり、男はいつだってファム・ファタールの虜になって破滅してしまうものだ。 ではファム・ファタールとは具体的にどんな女性を指すのか。そしてなぜ長い間、クリエイターから愛され続けているテーマとなったのだろうか。 今回は

カラヴァッジョについて|西洋美術史に革命を起こした生涯・代表作品を紹介

「画家」にどんなイメージをお持ちだろうか。天才、破天荒、繊細、やばい奴、変わり者、気まぐれ……ぜんぶ正解だ。画家の感性はやはりマイノリティなので他人にはあまり理解されないことが多い。一言で言うと奇人なのである。 今回、取り上げるバロック期の画家、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョは、まさにそんな「ヤバい画家」の代表格だ。とにかく天才すぎて当時のパトロンですら彼には「へへ……いつもお世話になってますへへへ」ゴマをすった。私生活は荒くれ者で暴力的だったが、作品は非常に

パブロ・ピカソの一生をプレイバック! 世界一作品を作った男の91年

「世界一たくさんの絵を描いた画家」があのピカソであることは意外と知られていない。本名は「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」。念仏か。 ピカソといえば「ゲルニカ」に代表されるキュビズムが有名だ。あの「顔も身体もあべこべになってる」描き方である。しかし彼はもちろん、普通に上手い写実デッサンも描ける。また幻想的な作品も作ってきた

葛飾北斎とは|富嶽三十六景などの作品紹介! 引っ越し・改名などのエピソードなど

「Japanese Ukiyoe」として世界に日本の絵画を知らしめた立役者の1人が葛飾北斎だ。葛飾北斎の絵画は印象派以降の西洋美術にも大きな影響を与えた。 また彼は「First Manga Master」と、世界から「日本初のマンガ家」として認知されている。 そんな葛飾北斎の生涯やエピソードはおもしろい。「ザ・変態」だ。やばい奴ぞろいの日本浮世師のなかでも抜群に変な人だ。遠目で見ている分にはおもしろいが、友達にはなりたくない。マジでやばい。絶対、集合時間に遅れるタイプの人

ルネ・マグリットをまとめ!0〜67歳までの経歴・作品紹介など

ルネ・マグリットは、シュルレアリストのなかでもダリの次くらいに人気が高い画家だ。そのキャッチーなモチーフは私たちを一気に不思議な世界へ誘ってくれる。そして「共感」する。 この「共感」という感覚はシュルレアリスムにおいて稀有な感情だろう。例えばダリの作品を見て「ああ〜、なんか分かる〜」と思うことは、ほとんどない。ダリに共感する人は今すぐ絵筆を持ったほうがいい。あなたは天才だ。基本はみんな「なに考えてんだろこの人」と思うはずである。 他のシュルレアリスト作品も同じだ。「意味が