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ジュウ・ショのサブカル美術マガジン

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美術についてサブカルチャー的な視点から紹介・解説。 学術書とか解説本みたいに小難しくなく、 極めてやさしく、おもしろく、深ーく書きまーす。
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#とは

北方ルネサンス美術とは|ルネサンスとの違い、特色・特徴、画家と代表作で徹底解説

「サブカルチャー(sub-culture)」というと、マンガやアニメ、アイドル、プラモ、フィギュアなどなど、ちょっとオタクチックなものを連想する方も多い。 ただ本来はもっと広義だ。アメリカのヒッピー文化の過程で生まれた「サブカルチャー」という言葉が日本に輸入された際に、アニメやマンガがマイノリティだったがゆえにオタクとサブカルが混ざったんですな。 いつの時代もメインストリームがあり、その隣でひっそりと個性を放ちまくっているのが、サブカルチャーなのである。この辺りのお話は以

グスタフ・クリムトとは|ウィーンの芸術をアップデートした「優等生の反撃」について

オーストリア・ウィーンの画家、グスタフ・クリムト。彼の絵に取り憑かれる国内美術ファンは、日本でもめっちゃ多い。個人的にも大好きな画家で、彼の作品のエコバッグ持ってます。かわいくない? クリムトの絵を観ると、妙な感覚になる。「めっちゃ綺麗〜♪」と思う一方で「怖いな〜、なんやこの妖しさは」と不安になったり「杉本彩越えのエロさやな」と見惚れたりする。 それほどまでに、1枚の絵から写実、幻想、耽美、抽象、ロマンなど、あらゆる影響を感じるのがクリムトの絵だ。それらが合わさって、完全

「アカデミー」とは|200年以上も西洋絵画のメインストリームだった美術学校

西洋美術史を語るうえで、やたらと登場するのが「アカデミー」という存在。歴史上の画家たちは、この組織に良くも悪くも振り回されてきた。 このマガジンでも画家の人生を振り返るうえで何度か触れたが、よく考えると「そもそもアカデミーってなんだ」については詳しく書いていませんでした。しかしアカデミーという存在は西洋美術史において、200年以上もメインストリームとして君臨し続けてきた存在。「美術のルール」を定めて画家を選定し続けてきた機関である。 今回はそんな「アカデミー」について一緒

アンリ・ルソーとは|40歳を超えて独学で画家になった天然の才能

画家とは絵に魂を捧げなければいけないのか。血や骨を削って、必死に一枚の絵と向き合う必要があるのか。画業をやるうえで絵だけに集中をするべきなのか? 私はそんなスポコンはいらないと思う。noteというプラットフォームの登場はまさに自由な世の中を表している。誰でも作品を自由に投稿でき、不意に発見されてアーティストとして世間に認知される。才能が埋もれない心底素晴らしい世界だ。 作品を投稿している皆さんのなかにも、普段は会社員や公務員として厚生年金を支払いながらも、休日は作品づくり

オディロン・ルドンとは|「突然変異の幻想的画家」の76年の生涯

オディロン・ルドンの世界は明らかに異様だ。完全にまともではない。草花に眼があったり、クモの顔が人だったり、一つ目の化け物を笑わせてみたり……。 ちょっと頭がおかしい世界観ゆえ、アングラ・サブカル界隈から、しこたま愛されている画家だ。私も大大大ファンで、画集をいくつか持っている。 キャラクターが強いので、ルドンの作品は日本でも人気が高く、特に若い人にファンが多いイメージだ。その分かりやすいモチーフは、鑑賞者として見やすい。ルドンから絵画鑑賞の世界に入る人もいるんじゃないかし

ワシリー・カンディンスキーとは|「純粋な芸術」を生んだ真のアーティスト

ふとnoteを見てイラスト、二次創作の多さに驚いた。もちろんnoteだけではない。Twitterでもインスタでも、とんでもない絵師さんの数がいて、素敵な作品をあげてくれる。素敵な世の中だ。 いっぽうで、抽象絵画を見ることはあまりなくなった。もしかしたら抽象絵画は、キャッチーなキャラクター文化が主流の日本において、最も日陰に追いやられている存在なのかもしれない。 人物画や静物画のような「モチーフ」があることで、見やすくなるのは確かだ。例えば荒々しい波の上に船を一艘置くだけで

遠近法の歴史|誰にでも分かりそうなのに1000年も発明されなかった技法

遠くの人は小さく、近くの人は大きく見える。 今となっては、当たり前に成立している遠近法。しかし1200〜1300年以前、つまりルネサンス期より前の絵画には、遠近法はほとんど存在しない。つまりのっぺりした2Dの絵であり、3Dの概念はなかった。 「え? なんで?」と思う方もいるかもしれない。正直なことを言うと、私もその1人だった。だって風景画も人物画も、観たまま描けば遠近法になるじゃん……。しかし、実際に描いた経験がある人なら分かると思うが、見たまま描いても正確な遠近法にはな

マン・レイとは|最期まで"アーティスト"を貫いた前衛写真家の「バズ」にない魅力

マン・レイの写真は決して「ただ綺麗なだけ」ではない。カラーリングもほぼないので、どこか不穏な空気すら感じる。それは昨今から続くSNSブームとは一線を画している。 「原宿でカラフル綿菓子を食らう女子高生」や「コントラスト爆上げで海辺を散歩してるカップル」などは日常的に見るでしょう。 ただマン・レイのようなアングラ表現主義の写真家は母数が少ないですよね。特にコンプライアンスがっちがちの現在では、こうした作品群に接する機会がないんじゃなかろうか。 そんな現代で「映え」はもう8

バルビゾン派とは|風景画の基礎を築いた「バルビゾンの七星」の"豊かな心"

「バルビゾン派」をご存知だろうか。断っておくが決してウルトラ怪獣ではない。「ゼットン派?レッドキング派?」「いや、俺バルビゾン派」ではないので注意してください。 バルビゾン派とは1830年代から1870年代くらいまで、フランスで隆盛した美術派閥だ。「自然をあるがままに描く」という考えが特徴。フランス・フォンテーヌブローの森の近くにある「バルビゾン村」が舞台になったのでバルビゾン派という。 西洋美術史のなかでも「バルビゾン派」というグループは見ていて楽しい。 17世紀からず

ファム・ファタールとは|起源や言葉の意味、キャラクター紹介など

ファム・ファタール……それは美術、マンガ、アニメなどの世界で「男を惑わせる魅惑の女性」を指す言葉だ。本来の意味は「赤い糸で結ばれた運命の女性」となる。 「赤い糸」と書くとロマンチックに聞こえるが、いやいや、そんなに良いものでもない。もっと妖しくてキケンな存在であり、男はいつだってファム・ファタールの虜になって破滅してしまうものだ。 ではファム・ファタールとは具体的にどんな女性を指すのか。そしてなぜ長い間、クリエイターから愛され続けているテーマとなったのだろうか。 今回は

パブロ・ピカソの一生をプレイバック! 世界一作品を作った男の91年

「世界一たくさんの絵を描いた画家」があのピカソであることは意外と知られていない。本名は「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」。念仏か。 ピカソといえば「ゲルニカ」に代表されるキュビズムが有名だ。あの「顔も身体もあべこべになってる」描き方である。しかし彼はもちろん、普通に上手い写実デッサンも描ける。また幻想的な作品も作ってきた

「人はなぜ絵を描くのか」を人類最初の洞窟壁画から考える

「ねぇ、なんで人ってさ、絵を描き始めたんだろうか」 こんな悪臭漂うセリフを真っ直ぐな目で言う奴には気をつけてほしい。おそらくそいつは重度の厨二病に犯されているか、自己啓発のあまり前後不覚に陥っている。もしポケモンよろしく、目が合って質問された際は食い気味に「知らないです」と答えてください。 ただ相手のレベルが高くて「ねぇなんで? ねぇなんでだと思う?」と食い下がってくるかもしれない。あなたがもし「人類初の絵」を知っていれば「ねぇなんで人は絵を描くのか星人」を撃退できるはず

西洋美術史を年表でまとめ!画家と作品で紀元前3000年から1990年代まで紹介

さて美術館で絵を観るとき、あなたは何を思うだろうか。「キレイだな~」と思う方もいるだろうし「え?なんでこれ描いたんだろ」と思うこともあるだろう。美術の楽しみ方は人それぞれだ。正解なんてない。 ただ後者の場合、その作品を作った背景が分かると、いつもの美術体験がより分かりやすくなる。そこで「西洋美術史」が大事になるわけだ。今回は以前、紹介した文学史やマンガ史と同じような形式で代表的な美術家や作品とともに西洋美術史をまとめてみたいと思う。 なお、この記事は私が今後長年にわたって

ルネ・マグリットをまとめ!0〜67歳までの経歴・作品紹介など

ルネ・マグリットは、シュルレアリストのなかでもダリの次くらいに人気が高い画家だ。そのキャッチーなモチーフは私たちを一気に不思議な世界へ誘ってくれる。そして「共感」する。 この「共感」という感覚はシュルレアリスムにおいて稀有な感情だろう。例えばダリの作品を見て「ああ〜、なんか分かる〜」と思うことは、ほとんどない。ダリに共感する人は今すぐ絵筆を持ったほうがいい。あなたは天才だ。基本はみんな「なに考えてんだろこの人」と思うはずである。 他のシュルレアリスト作品も同じだ。「意味が