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ジュウ・ショのサブカルマンガマガジン

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マンガについてサブカルチャー的な視点から紹介・解説。 学術書とか解説本みたいに小難しくなく、 極めてやさしく、おもしろく、深ーく書きまーす。
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#サブカル

なぜ「スポ根漫画」は滅びた? 1960年代〜70年代の価値観の変化を紐とく

マンガは世につれ、世はマンガにつれ……。マンガというのは、それぞれの時代で特有のブームが起こる。で、マンガのおもしろいのは、小説や映画といったエンタメ創作物に比べて「社会トレンド」とリンクしやすいのである。めちゃくちゃタイムリーなメディアなのだ。 なぜか。シンプルに「1本の話を作る時間が短いから」だ。例えば映画、長編小説、音楽、演劇といった総合芸術は、一作をつくるのに早くても数カ月、長いと数年かかる。最近は技術の発達、ナレッジの蓄積もあって、高速化している気がするが、それで

ヤンキーマンガ(不良マンガ)の歴史|1960〜2020年代までのマンガを「ヤンキー像」とともに振り返る

「私の中学には窓が1つもなかった。理由は単純で「割られるから」である。冬休みに入るころに生物のおじいちゃん先生が、手を擦りながら「あぁ寒い……」とこぼしたのを見て「無理すな。もう防弾ガラスでもつけろ」と思ったのをめちゃめちゃ覚えている。 福岡市博多区の我が学び舎は、地元でも有名なヤンキー校で、出席率が異様に低く、私服率が異様に高かった。バイクに2人乗りでやってくる輩もいれば、万引きした文房具などを学校で売り捌いている利益率100%の商売をしてる奴もいた。卒業式には警察が張っ

丸尾末広とは|経歴から「美しさ」と「エログロ」の源泉を探してみる

江戸川乱歩が好きな人は、おそらく夢野久作が好きだろう。そして夢野久作が好きな人は、ほぼ100%丸尾末広にハマる。「芋虫」と「瓶詰めの地獄」が並ぶ本棚には「少女椿」もあるはずだ。 きゃりーぱみゅぱみゅが5年ほど前に、お目目モチーフのアクセサリーを流行らせた。のを見て「眼球はかわいいよね〜(にっこり)」とプラスチックのおもちゃじゃ我慢できなくなる系の人種が、この方程式に当てはまる。ポップなエログロより本物のエログロのほうが好きなのだからしょうがない。 平成〜令和の今観ると、彼

佐々木マキとは|手塚に狂人と、村上に天才と呼ばれた前衛漫画家

20歳のころ、旅行先の岡山・倉敷市で古本屋に入った。そこで手に取ったのが佐々木マキ作品の集成「うみべのまち」だった。「なんかどっかで見たことある絵やな」と思って、手に取ったのを覚えている。後から「あ〜村上春樹の『羊男のクリスマス』だわ」と気づいたんですが、当時は思い出せなかったんです。 なかを読んで、あまりの衝撃にひっくり返った。開脚後転2回かました後に華麗にロンダートを決めました。まさに「マンガ」に対する概念が変わった瞬間で「あ、こういうマンガがあってもいいんだ」と思った

「うる星やつらが萌えの元祖」といわれる理由を語らせてくれ

「高橋留美子の『うる星やつら』が、萌えの元祖らしい」と聞いたとき、正直ピンとこなかった。「うる星やつら」の発表は1978〜1987年。しかしそれ以前にもいわゆる「萌えキャラ」は生まれている。 例えば日本初の少女マンガ・リボンの騎士は1953年に出ている。主人公のサファイアは両性具有であるがゆえに、かなりツンデレ。しかも女性兵士というコスプレ感も、今の萌えに近い。 セクシー系ドタバタコメディでは、1968年の永井豪「ハレンチ学園」がすでに存在し、PTAのおばさま方をめちゃめ

サブカルとアングラの違いとは|ヤバい世界について本気で考えてみる

「アングラとサブカルの違い」は一般のメインカルチャーで生きている人には理解し難いものがある。「いやいや、どっちも絡みにくいでしょ」とまとめてしまいがちだ。 しかし気をつけてほしい。アングラ畑で"毒"を撒布している人と、サブカル畑で"無駄"を耕している人は違う生き物だ。当人からすると「一緒にしないでくれ」と思っているパターンは結構ある。 アングラの人に「お前、ほんっとにサブカルだな」と安易に声をかけるのはマズい。「ちげぇよ。俺はアングラだよ」と血走った眼で返されるだろう。な

今敏について|46年の生涯、パプリカ・パーフェクトブルーなどの作品解説

今敏(こん さとし)の作品は、アニメ史のなかでも明らかに異質なものだ。ジャパニメーションブームが去った後に颯爽と現れて、海外に日本アニメの価値を再認識させたのは、今敏の功績が大きいでしょう。 このメディアでも何度か記事を書いてきました。 そんな今敏の作品には、いまだに熱狂的なファンが多いんです。サブカルオタクのなかで勝手に神格化され、崇め奉られているんですね。「パプリカしか観ていない」けど「今敏はすごい」と言いたくなるサブカル諸君もいるだろう。アレは「NEVER MIND

トキワ荘とは|天才漫画家が一緒に暮らした伝説のアパートについて

日本マンガの基盤は、東京都豊島区椎名町のあるアパートで作られた。それがトキワ荘だ。手塚治虫が居住を始めてから、藤子不二雄、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、水野英子、寺田ヒロオなど、とんでもないメンツが手塚に憧れて入居。切磋琢磨しながら、作品を作っていた。 トキワ荘はまさに「マンガ家の梁山泊」としていち時代を築いた聖地中の聖地である。 日本のマンガカルチャーはまさにこの場所で生まれた。こんなスターたちが、この一箇所に集まってマンガを描いていたのは信じられない。レアル・マドリードば

「私を構成する5つのマンガ」を超いまさらやってみる

「いや、いまさらやな!」と思うだろう。そうです。いまさらやりますこのハッシュタグ。「#私を構成する5つのマンガ」が流行ったのが2020年の4月。約7カ月遅れて流行りに乗ります。もうほぼ波ないです。凪です。 だって「構成する」って! 緊張するじゃない!「私の好きな」じゃウケないのは分かる。でも構成するって、もう人間性が決まるみたいな言葉で怖いじゃないか。もうなんか、その人の生き方とか考え方が決まるじゃないですかマンガの趣味って。でも今年は毎日更新を決めたので、これはもう、私の

漫画雑誌・ガロを徹底解説!おすすめマンガ、代表的な作者一覧など

いわゆる「サブカルマンガ好き」のペルソナとは誰なのか。例えば諸星大二郎、伊藤潤二、大橋裕之、などなどのマンガを好む層は、どこが厚いのだろう。 さすがに中学生はまだ早い。高校生もまだ沼に浸かる人は少ないだろう。とはいえ就職すると、クリエイターなどの特殊な仕事じゃない限りは、みんな丸くなって、自分から情報を探らなくなる。 そう。サブカルマンガの濃いターゲットは大学生(青年層)だ。そして「青年がサブカルマンガを好むこと」を発見したのが雑誌・月刊漫画ガロである。前後の文脈は以下の

【鳥獣戯画展も!】鳥獣戯画の解説文!作者不詳・日本初の漫画が意味することとは?

漫画とは日本の重要なカルチャーであり、私のような日陰で生きる民族としては、特に生活に深く関わってくるクリエイティブの1つだ。 毎週のように漫画を読んで爆笑し、漫画を読んで号泣する。漫画によって誰かとつながって、漫画について話しながら生きてゆく。我々はもはや漫画を単なるエンタメとは見ていない。漫画がない世界なんて考えられない。息を吸って吐くようにページをめくって絵とセリフを味わいたい。 そんな、つい人を熱くさせる漫画の世界だが、皆さんは日本で初めて描かれた漫画をご存知だろう

カルチャーとは?メイン・ハイ・サブ・カウンターの4つの意味を事例で紹介

さてさて、私は「サブカルマガジン」と銘打って、マンガ・アニメ・映画・音楽・映画・美術などなどについて日々記事を更新しています。 ただ「そもそもカルチャーってなに?」という前提を書いておかないと、このマガジンがなんのこっちゃ分からない。いやこれホント全力で自省の念が爆発したわけでございます。今年はマジで毎日、記事を更新していく姿勢ですので、ここでバァーンとはじめての方に向けて、カルチャーの概要について大紹介します。 そもそも文化(カルチャー)には4種類あるまず「カルチャー」

諸星大二郎について|経歴・暗黒神話・妖怪ハンターなどおすすめ作品・2021年新作レビュー

「諸星大二郎が好き」 もう、この言葉は私の周りでは100%言われるものだ。「100%」ってなかなか書けないよ? 超ハイリスクな言葉だが、いやでも本当に100%なのだから、胸を張って書ける。 「いくえみ綾のデリケートな人間関係が好き」という友人や「コナンの巧妙すぎるトリックが好き」という、まったく趣味の違う友人におすすめしても「すげえ面白かった」と興奮気味に感想を教えてくれて自発的に2冊目を買っていたりする。 もしかしたら「ワンピースの仲間観ってはんぱねぇよな!」とZIM

浅野いにおという「サブカルメンヘラ生産工場」について

浅野いにお先生の漫画の世界には、ありとあらゆるコンプレックスが飽和している。さらに強烈な入子構造がある。最終的に「結局、私は何者なのだ」と謎の哲学的な感覚を覚えさせるのが特徴だ。 基本的に浅野先生は斜に構えて人を描くので、主人公はみな自己承認欲求が足りない。なので、周りの普通の人をなんか危ない人のように見ている。 例えばジャニーズオタクは「盲目的なミーハー女」だし、公園の営業マンは「暑いのに仕事で辛い思いをする男」だ。主人公はそれを俯瞰的に見るわけだが、実は主人公こそが最