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バガヴァッド・ヨーガー<レッスン②>

弓子はヨガをやって半年、週2回ヨガスタジオに通うという自分との約束をなんとかここまで守れている。
レッスンが始まるまであと10分。ヨガマットの上で、なんとなく身体を動かしながら、ここで友達になった隣に居るさくらと喋っていた。

弓子「さくら、あんたまたウェア買ったでしょ、それ初めて見たんだけど」

さくら「えっ、分かる。うん、また買っちゃった。でも最近ランチを手作り弁当にして節約してるからいいの」

弓子「そう言って前もヨガマット買ってなかった?」

さくら「えっ、そうだっけ。弓ちゃんはよく覚えてるね」

弓子「私も新しいウェアもマットも欲しいなぁ」

さくら「買えばいいじゃん。安くて良いのいっぱいあるよ」

弓子「簡単に言わないでよ。ちょっとした買い物でも、一応家族に相談しないとケンカになっちゃうんだから、さくらもその内分かるわよ」

さくら「分かりたくな~い。私は永遠にお独り様で暮らすんだもん」

3カ月ほど前、レッスン終わりにロッカーで着替えていたら、たまたま隣にいたのがさくらだった。
バッグからチラッと見えたヨガの雑誌が、わたしがずっと探していたものだったので、ついテンションが上がってしまい、気付いた時には声を掛けていた。
たまたま同い年で、たまたま帰る方向が一緒だったことも、2人の距離を縮める要因となった。


さくら「もしかして、本当に買いたいウェアあるけど買えなくて悩んでる?」

弓子「本気では悩んでません。安心しなさい」

さくら「そっか、よかった。なんか浮かない顔してるかもって思ったから」

弓子「ホント? もしかしたら最近レッスンで上達を感じられないからかもしれない。なんか柔軟性も筋力も、伸び悩んでる気がしちゃって」

さくら「贅沢な悩みね~。弓ちゃんは私のできないポーズいくつもできるんだから、今の私の前で言ったら嫌味だよ」

弓子「ごめ~ん、ホントにそんなつもりなかった」

そんな話しをしていたら、背筋がぴ~んと伸びた先生がスタジオに入ってきた。

弓子「初めて見る先生だね」

さくら「私も初めて」

Keiko「みなさん、こんにちは。Keikoです。きょうはよろしくお願いいたします」
合掌しながら、Keiko先生は静かに、そして優雅にあいさつをした。

Keiko「ヨガをやっているときょうの自分を知ることができます。
例えばぐぅ~と深く前屈した時に、肩が凝っているとか、首が重いとか、腰が詰まってるとか、自分の今の体調が出ます。その時に、どうするのか? そこできょうの自分の精神状態が出ます。頑張るの? 緩めるの? それとも…」

Keiko先生は、水を一口飲んでまた話し始める。

Keiko「どの選択をしても正解です。間違えはありません。人間はつい…、特に日本人は、頑張らなかった自分を責めてしまうことがあります。自分自身としっかり対話をして、どれを選択するのか決めてみてください。
そしてどの選択をしたとしても、そのチョイスをした自分を褒めてあげてください。その選択をした自分を好きになってあげてください。
きょうのレッスンのテーマは<自分を好きになる>です。
今、自分がどんな状態であろうとも、今の自分を好きになる、これを意識してきょうのレッスン、始めていきましょう」

野鳥の鳴き声のようなメロディが流れ出し、レッスンも静かに、そして優雅に始まった。


70分後、生徒たちが静かに、そして優雅にKeiko先生にあいさつをして、きょうのレッスンは終わった。「ありがとうございました」

誰もがKeiko先生の虜になってしまったことは、レッスン後の先生へのあいさつで分かる。何より、弓子とさくらがKeiko先生の虜になってしまっていた。

弓子「きょうのKeiko先生良かったね」

さくら「最高~。早く次のレッスン予約しないとすぐに埋まっちゃうわよ」

弓子「ホントね。ちょっとさくら予約すんの早過ぎ~、私の分もお願い!」

弓子はスタジオに来る時よりも、ヨガを、そして自分を好きになっていた。


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