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バガヴァッド・ヨーガー<レッスン①>

ヨガスタジオ。
そこはイケてると思ってる女たちの決闘場。
イケてると思ってる女は生き残り、イケてると思ってない女は去るしかない。
この言葉が大げさとは言い切れない場所に今日も女たちは集まってきた。


(ヨガのレッスン初めてなんだけど、大丈夫かな~)

加奈子は、会社の同僚や地元の友達がヨガにハマっていて、体にも気持ち的にもすごく良いよ~、と激押しされたので、そんなに乗り気じゃなかったけど、あんまりにも目をキラキラさせて言うので、体験入店という形で初めて参加した。

場所選びもよくなかったのかもしれない。ここは、都内の中でも屈指のオシャレスポット。街に繰り出せば芸能人も頻繁に見かけることができる流行を創り出している街だった。

(「開始15分前にはスタジオに入ってください」とスタジオの事務員さんに言われたからちゃんと入ったけど、あぁ~居心地悪い~。
常連というか、スタジオの主みたいな奴がでっかい声で喋ってるし、黙々と柔軟している奴もいるし、何色だよっていう見たことのない色の飲み物を飲んでる奴はいるし、やっぱり来るんじゃなかったかなぁ)

加奈子は帰りたい気持ちが湧いてきていたが、それ以上に痩せなきゃという強い決意を持って足を踏み入れたことを思い出し、なんとか自分を奮い立たせていた。年齢的にも痩せづらくなったのか、夜にお菓子を食べてることが悪いのか(おそらくコレだ)、とにかく徐々にだが、体重が上がってきていることは、目を背けられない現実だった。

(それにしても、みんなオシャレウェア着てるな~。これから運動するのに、そんなにオシャレする必要ある?
私なんて上下ジャージで来ちゃった。運動できる格好で、水とタオルがあれば良いって事務員さんに言われたからこんなんで来ちゃったけど、ちゃんと説明してほしかったなぁ)

スタジオには、30人弱の女性たちが集まっていた。上は40前後から、下は20代前半まで、ここは女性専用のヨガスタジオ。

(とにかく早く先生来てレッスン始まらないかな。なにをしていいか分からない手持ち無沙汰の人の気持ちにもなってよ)

加奈子が、手をどこに置こうか、視線をどこに置こうかと、とりあえず借りたヨガマットの上に座り、いろいろとフワフワさせていたらようやく先生が登場した。

(うわぁ~、これまた先生も完璧に仕上がってる。上下セットのウェアに、何を入れても美味しくなると思われるオシャレなマグボトル、何よりスタイルがヤバい。何頭身? そして何才? 30は超えてると思うけど、肌の輝きが違う)

先生が入ってくるとスタジオの空気が変わった。
さっきまで喋っていたスタジオの主も姿勢を正し、先生におしとやかな笑みを投げ、先生もそれに応えている。


『はい、わたしです』
先生が「ヨガのレッスン受けるの初めての方?」と声を掛けたので、勢いよく手を挙げた。知り合いがいなくてじっとしている時間が長かったせいか、手の上げっぷりは小学生の授業参観日のようなぎこちないものになってしまった。初ヨガはどうやら私だけのようだ。

ヨガ初体験ということを聞かれただけで、特にそこから質問等のやり取りはなかった。
そして始まったレッスンでは、まさに見よう見まね、横の生徒や先生の様子を伺いながらの初ヨガになった。できているのか、できていないのかは分からないが、時々先生が指導に来てくれて、楽しい気持ちで70分の初ヨガを終えることができた。
ありがとうございました~と言って、スタジオを出るころには、スタジオに本登録をおこない、次のレッスンの予約を済ませていた。

というのも、先生からレッスン前に聞いた話が心に響いたからだ。
先生の名前がYumikoという名前だと知ったのは、レッスン終わりで、スタジオの主が猫撫で声で話し掛けに行っていたので、知ることができた。


Yumiko先生はレッスンの前に綺麗な声で丁寧に話し始めた。
「きょうのレッスンのテーマは<比べない>です。
これはとっても難しいテーマでもあります。私ができているかと聞かれたら、できていません、と答えると思います。そして<比べない>にも色んな<比べない>があります。
まずは、他人と<比べない>。あの人のほうがポーズが綺麗、あの人のほうが体が柔らかい、あの人のほうが・・・これは禁止です。
そして、自分と<比べない>。昨日はもっとできたのに、いつもはもっとできるのに、あの頃はもっと・・・これも禁止です。
なんで<比べない>のか。これは何のためにヨガをやっているのか? ということと関係しています。きっとみんな色んな理由があってここに来られたと思います。痩せたい、スタイルを良くしたい、興味があって・・・。理由は人それぞれですが、みんな自分のために来ているのではないでしょうか。お母さんに言われて来たって方いますか?」

Yumiko先生は柔らかい表情で周囲を見回します。

「いなくてよかったです。みなさん自分のために来ているんですよね。今の自分、今日の自分と向き合ってください。そして、今の自分、今日の自分を褒めてあげてください。まず、今日レッスン行くのめんどくさいなぁ~と思ってレッスンに来た方もいるんじゃないですか、今日ここに来た自分を褒めましょう。
今日のレッスン付いていけるかな~て不安な方、居るんじゃないですか、自分のペースでやれば大丈夫です。決して周りと比べないでください。
今日のこの時間を自分へのご褒美だと思って、目一杯楽しんでください。
私は目一杯楽しみます。それではレッスン始めましょう!」


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