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【風景も情報です】風景を読み解く力@司馬遼太郎

司馬遼太郎は風景を読み解く力が
実に高かった人でした。
「奥三河の山のなかの坂をのぼって、
松平郷という、これ以上は山径もない
という行きどまりの小天地に
行ったときの夏の陽ざかりの印象は、
筆者にとってわすれがたい思い出に
なっている。
(ここがあの徳川家の発祥の地か)
とおもえば、幕末まで意味ありげに
おもえてはくるのだが、
なににしても山が深く、地がせまく、
しかも気づいてまわりを見まわしてみると、
みぞほどの流れもない。
水がないというのは、
米がとれないということである。
徳川家の祖である松平氏は、
ここでひえやあわを食べ、
日常はキコリとして山を駆け、
木を伐っていた強悍なグループ
であることは、地形をみれば
たれにでも推察がつく。」


これは司馬遼太郎が徳川家康を
描いた『覇王の家』の冒頭です。

奥深い山林に出かけ、
川もない土地だったことから、
徳川家はもともとは
どれだけ貧しい一党だったか、
そうしてまた、
どれだけ逞しい肉体を
自然と持っていたか、
つまりは屈強な兵士だったか、
見事に読み解いていきます。

徳川家康を書こうとして
まず先祖の棲みかにおもむき、
その風景から松平一族の原形を
いともあっさりと一筆書きのように
イメージする司馬遼太郎の鋭さ。

この後、松平家は川と米を求め、
下流へ下流へと侵略を開始し、
徐々に領地を増やしていきました。
それが後に日本を統一して
200年以上支配していったことを
思うと、最初の先祖が
山間部の貧しいキコリだったことは
感慨深いものがあります。

司馬さんは『街頭をゆく』
シリーズでも、
旅先で、風景や建物を見ては
見事にそこの風土や文化を
読み解いていきました。
まるでシャーロックホームズ
みたいですね。

巧みな作家とは
文字だけではなく、
風景や自然からも
大切な情報を引き出せるらしい。

情報過多社会は
文字に頼りがちですが、
司馬遼太郎のような力も
養っていきたいものです。

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