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営業担当者推し本『闇の先へ 絶望を乗り越える行動科学』試し読み3

【7月16日予定の更新が遅れまして、申し訳ございません】

旬報社から7月29日に発売する『闇の先へ 絶望を乗り越える行動科学』は、いま営業担当者が一番推したい「推し本」。一部ではありますが、営業担当が読んで面白かったおすすめのページを公開いたします。

【内容紹介】
私はいかにして絶望の淵から生還したのか。
順風満帆な人生が一夜にして暗転悲嘆の中をさまよう私を救ってくれたのは、自らの研究テーマである行動科学だった。
大学教員の著者はコロナ禍で家族に起きた悲劇により、人生の危機に直面する。絶望から抜け出そうともがき、あらゆる方法を試みるが、いずれも効果を得られず、大学も休職することに。
不慮の事故、愛する人との死別など、誰もが経験せざるを得ない人生の危機を乗り越えるにはどうしたらよいのか。
悲嘆の当事者であり、行動科学の研究者である著者にしか書けないリアリティが、読者を「闇の先へ」と導く。

▼2章・note・126頁より「レバレッジポイントを見つけるためのヒント」より

ひとこと解説◆ レバレッジポイントとは?
レバレッジポイントとは「テコの力点」という意味。テコの原理のように、小さな力で大きな変化を生み出せる場所のこと。システムを良い方向に働かせ、それを循環して「いい状態」を継続するために大切なもの。本書で詳しく解説しています。

 レバレッジポイントは人によってさまざまなので、「こうすれば見つかる」というマニュアルはありませんが、読者のみなさんがレバレッジポイントを発見するのに役立つと考えられるヒントを私の経験から紹介します。
 1つ目は、「自分が得意なこと」です。自分を取り巻くシステム(環境)にはさまざまな要素があり、得意なこともあれば、苦手なこともあるでしょう。例えば、私は「娘の育児」よりも「仕事(研究や授業)」の方がはるかに得意です。そのため、娘の育児と比べて研究などは小さなエネルギーでできます。また、研究は社会に役立つことでもあるので、利他的行動として私は認識しています。
 具体的な例を挙げると、復帰後に、ある学会で自分の研究について講演したことがあります。久しぶりの講演であったこともあり、かなり力を入れて準備しました。準備に時間はかかったものの、研究発表は私にとって得意なことなのでまったく苦ではありませんでした。そして、学会で実際に講演した際には、多くの参加者から良い感想をいただいたので、「人の役に立った」と率直に感じました。利他的行動がうまくいったという認識は、私自身のポジティブ感情(自信や希望)をさらに高めることにつながりました†20。

†20
利他的行動とポジティブ感情の関係については、3章「自分が回復するための利他的行動」を参照してください。

 このように研究など「自分が得意なこと」でポジティブ感情を高めた状態であれば、娘の育児など「それほど得意ではないこと」も比較的うまくできるようになります。すると、システム全体が自然と良い循環になります。

UnsplashのTim Mossholderが撮影した写真 

 2つ目に「効率が良いこと」です。レバレッジを効かすということをわかりやすく例えるならば、1のインプット(入力)で10倍のアウトプット(変化)を生み出すようなイメージです。 
 私は復帰するにあたって、学生にとってもっと面白い講義内容にするために、かなりの数の講義資料を作り直しました。大学の講義は、多ければ100人くらいの学生が受講するので、「1つの面白い話」を追加すれば「100人が喜ぶ」ことになり、インプットとアウトプットの効率が非常に高いです。面白い話を5個、10個と増やしていけば、アウトプットも5倍、10倍と大きくなるので、自分のポジティブ感情もどんどん高まっていきます。 
 リソース(時間やエネルギー)が無限にあるのであれば、すべてのタスクに全力を尽くすべきだと思いますが、それは現実的ではありません。限られたリソースをどこに投入(インプット)すれば、より大きなアウトプットが得られるかを考えることは、効率的なレバレッジポイントを発見する上で役に立つでしょう。 

 3つ目は「アウトプットが目に見えること(鮮明であること)」です。私は復帰直後に行動意思決定論の研究をいくつか実施しました。行動意思決定論の研究にはさまざまな方法があります。代表的な方法は「ウェブ調査」と「大学生を対象とした実験」です。例えば、鮮明効果(68ページ)のところで紹介したように「A:300万人のザンビア人」と「B:ザンビアに住む7歳の少女ロキア」のどちらに寄付をしたいか回答してもらうという内容です。 
 一般に、「ウェブ調査」も「大学生を対象とした実験」も回答者にインセンティブを与えます(インセンティブが無ければ協力者が集まりません)。ウェブ調査は、調査会社にお金を支払って、調査会社から回答者に金銭やポイント等が付与されます。一方、大学生を対象とした実験は、大学生に実験協力の謝礼として現金やクオカード、お菓子などを与えます。 
 ウェブ調査の場合は、回答者に金銭やポイントが調査会社経由で間接的に与えられるので、その様子を私が直接目で見ることはできません。それに対して、大学生を対象にした実験の場合は、私が大学生に現金やチョコレートを手渡しするので、学生が喜ぶ顔を直接見ることができます。そうした様子を見ると、私も「学生の役に立った」と感じるので、自然とポジティブ感情が高まります。 
 私にとって大学生を対象にした実験は、社会のためにもなり、学生のためにもなり、自分のためにもなるので、非常に効果的なレバレッジポイントです。もちろん、自分の回復のために公的な研究費を使うことは倫理的に許されません。しかし、社会のためになる研究をして、その副産物として、学生や私にとってプラスの影響があるというのは悪いことではありません。 

 前述のとおり、レバレッジポイントは、「そこに小さな力を加えて、大きな変化を生み出すことができる場所」です。従って、まずは何らかの要素に力を加える必要があります。レバレッジポイントは、頭の中で分析すれば自ずと見えてくるものではありません。自分のシステムを分析することも大切ですが、それよりも「試しに小さな力を加えてみる」ことの方がはるかに重要です。 

UnsplashのDavid Birozyが撮影した写真

 自分のシステム(環境)はさまざまな要素から構成されています(例:家族、仕事、健康、趣味、友好関係など)。それらのうち、いくつかの要素に試しに力を加えてみてください。すると、システム全体に大きな変化を生み出す場合もあれば、ほとんど変化を生み出さない場合もあるでしょう。それは実際に試してみなければ誰にもわかりません。 
 そして、いくつか試してみると、「レバレッジが効きやすい」という感覚を得られる瞬間があるはずです。その感覚を大切にしてください。例えば、私は大学生を対象にした実験を行ない、謝礼としてチョコレートを手渡しすると、予想以上に喜んでくれることがあるので、私もとても嬉しくなります(安いチョコレートにもかかわらず)。そのような反応を実際に経験することで、「実験で謝礼としてチョコレートを渡すのは、効果的なレバレッジポイントになる」ことを発見できるのです。 
 ここで取り上げた「自分が得意」「効率が良い」「アウトプットが目に見える」という3点は、ご自身がレバレッジポイントを見つける上でのヒントになると思いますので、それらを参考にして、是非いろいろと試してみてください。実際に試してみることが何よりも大切です。

UnsplashのHeeren Darjiが撮影した写真

何もしなかったら、何も起こらない。(ウィリアム・シェイクスピア)

次回は、7月22日(月)に更新いたします。


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