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ミーハー少女と呼ばれて [後編]ノルウェーツアー


20代のある日のこと、毎週、観ていた洋楽番組で新人グループが紹介されました。

ノルウェー出身の男性3人組で、A-ha (アーハ)というバンドです。

ボーカルのモートンは美しいファルセットボイスで、デビュー曲の”テイク オン ミー”を歌っていました。

頭のてっぺんに突き抜けるような彼の高音と素敵なスマイルを見たその時、私のミーハー心は燃え上がりました。久々に落ちた瞬間でした。

私はもうとっくに少女の域を脱してはいましたが、気持ちはまだあの頃のミーハー少女のままでした。

A-haのそのデビュー曲は全米1位、全英2位の大ヒットを記録し、その後、彼らは映画007の主題歌まで歌う世界的ビッグアーティストになっていました。

A-haのポップな歌もいいけど、バラードやドアーズの影響をうけた影のある曲がこれまた凄くいいのです。ギターのポールが作る抽象的な詩や切ないメロディは、それを歌いこなすモートンによってマスターピースに生まれ変わります。


それから2年後、私はなんとノルウェーの首都オスロ行きの飛行機に乗っていました。

A-haのワールドツアーの凱旋公演を観るため、ファンのツアーを申し込んだのです。

コンサートはすでに東京で観ていましたが、ノルウェーとデンマークの観光付きで、おまけに前列で観るコンサートチケットが付いていたら、ミーハーの血が騒がずにはいられません。観光付き、というところが追っかけとはちょっと違うところでしょうか......。

2月の極寒スカンジナビア半島のツアーのせいか、費用もそう高いものではありませんでした。

ほとんどの参加者は私と同様、たったおひとり様で参加していました。私が言うのも何ですが皆さん、独立心旺盛というか怖いもの知らずというかスゴいですね。

機内の私の隣には北海道からひとりで参加のMさんが座っていて心強いです。私が成田空港の集合場所に着いて辺りを見回していたら、初対面のMさんは声をかけてくれました。ファン同士はすぐに打ち解けるワザを持っていますね。

2月のノルウェーを飛行機の窓から見下ろした時は、雪の白と森の黒の2色だけで、とても印象的でした。

やっと着いた!遠かった〜!

やれやれと飛行機を降りたら、空港で私たちを待ち構えていた人達がいました。

それはなんと、現地のカメラマンと新聞記者でした。彼らは日本のA-haファンが降り立つのを知ってインタビューをしたがっていましたが、誰もノルウェー語はもちろんのこと英語は話しませんでした。

ここはひとつ私が、とろくに英語もできないのに「ハ〜イ!」と記者に向かって手をふりました。私がミーハーと呼ばれる所以です。

彼らはドヤドヤと私とMさんを囲み聞いてきました。「A-haのどこが好きなの」とか「誰のファン?」とか、ありきたりな質問に私は思い切りのブロークン イングリッシュで返しました。彼らにとっても英語は第2言語ですからね。ひるむことはありません!

カメラマンが、「A-haの写真か何か持ってない?」と聞くのでMさんはモートンの写真のキーホルダーをすかさずバッグからだしました。私としたことが何も見せる物がありません。仕方なくA-haの文字ステッカーが貼ってあるメモ帳を手にもって、とびきりのスマイルをしました。そして、バシャバシャと何度かフラッシュをたかれました。

翌朝、Mさんとホテルのロビーを歩いていたら、フロントのおじさんに呼び止められました。

「君たちの写真が新聞に載ってるよ!」と言われ早速、朝刊を見てみました。

なんと紙面半分に私とMさんの昨日の写真が掲載されていました。OMG!! 私は微笑み過ぎて目がなくなってるではありませんか。よほど興奮していたと見えます。記事の見出しには<From Nippon With Love>と英語で書かれていました。Japanでないところがニクイです!

いよいよコンサートの当日、私たち一行は会場のドラメンホールという体育館に行きました。椅子のないオールスタンディングなので無理をすればステージ前に移動できそうです。

私のまわりにいる遠いバイキングの血をひく、背の高いノルウェー男女も興奮して騒いでいました。A-haはもはや国民のアイドルでした。

ただ、困ったことに椅子がないため外から着てきたオーバーやジャケットを置くところがありません。なので、着たままコンサートが始まりました。

待ちに待ったA-haの登場です。ミーハーでもなんでもいい。この時を待ってました!!大好きなA-haがすぐ目の前で歌っています。自国でのコンサートの為メンバーの語りかけは全てノルウェー語でした。

すると、後ろの観客たちが興奮してドドドーッと私たちを押してくるではありませんか。

押されるたび、ステージに近くなるのはいいけど痛いし苦しいし危ない!  私のまわりのノルウェー人たちも、後ろに向かってなにか叫んでいます。ノルウェー語で ”押すな!”とでも言っているのでしょう。

外は雪が降っているのにホールの中は、それは、それはスゴイ熱気でした。A-haの歌に酔いしれるうち、私は熱気と厚着のせいで汗だくになってきました。まるでサウナの中にいるようです、とその瞬間、ステージから観客に向かって係員が水をまきはじめました。

バシャッとまかれるたびに又、皆はウォーだのギャーだの叫んでいます。

......と、スローな バラード "ハンティング ハイ アンド ロウ" の曲が始まりました。

すると今度、ノルウェー人たちは、なんとポケットからライターを取り出して皆の頭の上で火をシュボッとつけました。しかも、その手を曲に合わせて左右に揺らしはじめたのですー。

「ここはペンライトでしょー 、あぶなーい! 」の思いも虚しくお国変われば...ってとこですね。

水あびのあとは、火あぶりの刑かと思っていたら、また後ろから観客がドドーッと潰しにかかる、とても刺激的な思い出深いコンサートになりました。

これだからミーハーはやめられな〜い!!


[追記]   前編、後編の長文お付き合いくださいまして、本当にありがとうございます。このツアーは当時、米ソ冷戦時代で上空を飛べず今はないアラスカ経由でした。実は今年(2020)の3月、A-haのツアーが10年ぶりに日本で行われる予定だったんです。ハワイから参加予定でしたが残念ながらキャンセルになってしまいました。いつか又見に行きたいです!ちなみにヘッダー画像は私達が載った新聞記事の見出しです。




















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