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「ドクター・デスの遺産」と刑事犬養シリーズをおすすめする回

 すごく面白かった。

 中山七里作品は「さよならドビュッシー」を刊行直後に読んで、めためたに泣かされて、「カエル男殺人事件」が怖すぎてなんとなく次の作品を読めていなかった。当時はまあ若かったし多感だったからね。めちゃくちゃ惜しいことをしました。「カエル男〜」も今読むとめちゃくちゃ面白い。人生損してたな〜。まあ文芸文学に遅すぎることはないので、今からでもじっくり読んでいこうと思います。
 で、今回「ドクター・デスの遺産」なんですが、近頃本読んでないしちゃんと刊行順に読むぞ〜と謎の律儀さを発揮して刑事犬養シリーズ「切り裂きジャック」から順番に読んでしまった。とってもよかった。え、なんでこんな面白いの誰も教えてくれなかったの?(八つ当たり)本当好きなものの幅が広い割に情弱だよな、いや寧ろ日常生活に阻害が出るから情報を意図的に遮断してると言った方が正解なのか? 面白かったです。貪るように読んでしまった。個人的には「七色の毒」がめちゃくちゃ好きです。シャーロックホームズの文庫本にハマっていた高校生の頃を思い出しました。短編でしっかりミステリを魅せてくる構成がなんとも言えず好きだし、前の事件が後の事件と一本の糸で微かに繋がっているような演出が小憎い。良い読書体験でした。

 綾野さんがドクター・デスの主演をしているという情報があって手を出したので(現金)、「無駄に男前の犬養」を読みながら綾野補正で脳内変換できるのが大変よかったです。ああ確かに男前だしそれでいてなんか女に騙されてそうな風格ある、「女に騙される役もできる男前な俳優」って実は難しいだろうし、その絶妙にちょうどいいところを綾野さんなら的確に狙い撃てると謎の確信を抱いていました。で、七色よかったわハーメルンは大体そうかなって思ってたけどなかなか難しいトピックついてきますねえコレ、とボーッと読んでたんですが、「ドクター・デスの遺産」がめっちゃよかったんですよ。「七色の毒」もすごく好きなんですが、医療問題に終始しない背景世界の広げ方に唸りましたね。良すぎ。もちろん昨今の医療を取り巻く問題って全然解決されていなくて、なんなら解決の糸口も怪しいわけで、そういう問題提起的な側面もあるのだろうとは理解した上ですが、反面「どうにもならない」事柄も世の中にはたくさんあるわけで、そういう「変えていけること(変えなければならないこと)を考える」要素と「どうにもならないことを受け入れて(組み込んで)その後を考える」要素がバチッとかみ合わさった創作物ってやっぱり人の心を打つんじゃないかな、私は少なくともそういうのが好きだなあ、触れていたいなあと思いました。なので安楽死にまつわるエピソードとして、殺人者の根幹に関わるじゃないですが、局地紛争と戦地医療の題材を盛り込んだのはものすごく心を揺さぶられましたし、ミステリにだけ許される贅沢だなと思いました。実際の事件や犯罪行為の実行主犯にそんな感情移入をしていたら治安の維持が成り立たないので。でもそういう事情を盛り込んで語れるのはフィクションならではだし、人の行動理念に理由をつけるっていうのは大事にしたい行為であるとも思うわけです。すごくよかったよね。あのエピソードがあるかないかで大きく変わりますよね。

 で、映画ですが。
 尺がね……多分そういうことだよね……
 原作があって映画があるものの宿命なんですが、やはり「どこまで触れるか」「どこまで忠実に作るか」っていうのは検討材料なんでしょうね。ホムンクルスの話にも書いたけど、半端に手を出すくらいならもう一切触れない方がよくて、少なくとも雛森の「過去」に関してはそういう性質のものだと理解したので、問題はむしろシンプルになってましたし、「安楽死」と「父娘の愛情」に物語がフォーカスされていて、コレはコレでいい話じゃん迫力もあるしと試聴しながら納得した次第です。役者の揃い方もよかった。
 あと高千穂の描写は映画のほうがぶっちゃけ好きです。単純にああいう女性が好きという話。北川さんも大好き。(ぶっちゃけ)
 犬養と沙耶香の関係も映画のほうが好きだな。原作はこう……犬養の擁護しきれない部分と、そりゃそう言われちゃうわむしろ沙耶香は有情だわっていう諦めのようなものが先行しちゃうので、なんとも言えません。でも原作を段階的に読んでるとちょっとずつ距離が近づいてるのがわかってコレはコレで良い(ちょろい)。諦めの悪い娘、最高ですね。でも父親と娘の真っ直ぐな愛情はなんぼでも見たいし、そういう役を綾野さんがやることが嬉しい(山本・・・)。
 先に原作を読んでたのでネタバレというか真犯人みたいなところはわかった上で見ていましたが、医師も看護師も「どっちが大ボスでも納得だな」という配役で大変素晴らしかったですね。「実は映画オリジナルの展開でおじいちゃんの方が実際にドクター・デスだったりしない? 大どんでんどんでん返し?」とか思っちゃうくらい柄本明先生が悪役ぽくて最高でした。好きです。
 居酒屋で飲むシーンとビンタで「落ち着け犬養!」って怒鳴るシーンの体当たり感がとてもよかったです。メイキングみたけどあれ本当に殴ってんのね。。体はるなあ。大事にしてください。

 5作目「カインの傲慢」が5月末発売という噂を聞き喜んでいます。なんか一個一個西洋のエピソードから踏襲する感じなのかな。いいね! ハーメルンの笛吹男の話もしたかったけど、コレはまあ今回はいいです。阿部謹也先生の著書が面白いのでおすすめです。
 もっと調べてみたら切り裂きジャックと白い原稿は土曜ワイドですでに実写化されてて主演沢村一樹、麻生役渡辺いっけいという情報をつかみました。何それ超みたいんだけど。こっちも無駄に男前だけど女に騙されてそう。謎の説得力があって最高に良いですね。どこかで再放送の機会を待ちたいと思います(意外に真昼に再放送やってたりする)。

 というわけでこちらおすすめです。複数メディア展開ものは複数メディア展開ゆえの楽しみ方があって良いものです。
 次は重い腰を上げて「楽園」のレビューでもするか……死にそうです(私が)
 またよろしくどうぞ。では。
 

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