見出し画像

「ResearchOps」UXリサーチ文化の拡大に不可欠な職種の実態と、組織導入の手法について解説します。

みなさんこんにちは。株式会社ニジボックス執行役員の丸山潤です。以前の投稿で、海外のUXリサーチチームにおける重要な職種に「ResearchOpsManager(リサーチオプスマネージャー)」という職業があるというお話をしました。
2022年の『State of User Research Report』によると、5人のUXリサーチャーに対し、リサーチ業務をサポートする「ResearchOpsManager」という職業の人材が1人いるという結果が出ています。会社のUX成熟度段階でいうところの4から5段階あたりになるとチームにアサインされることが多く、UXリサーチをよりスムーズに進めていくために必要な存在として認識が高まってきていると言えるでしょう。
今回は、日本ではまだあまり聞きなれない「ResearchOps」というプロセスについて、その実態や業務内容、重要性などをuser interviewsの記事を参考に解説していきたいと思います。また、このプロセスを組織内に導入する方法についても触れていきます。

参考記事:

「ResearchOps」とは

参考記事によると「ResearchOps」は、UXリサーチをサポートするための人材、プロセス、ツール、および戦略を指し、ある意味UXリサーチのマネジメント的な役割にも近く、組織設計をしている人物を指しているとあります。インタビュー者の調達をしたり、UX業務のプロセスを作ったり、ツールを選定したり。組織がUXをどのような戦略で進めていくのかを考える役割であると言えるでしょう。
少し難しい話になりますが、この「ResearchOps」は「DesignOps」の中にあると言われていて、その中でも特にユーザーリサーチに特化した分野になります。企業によってはUXを進めるために専任のResearchOpsManagerを雇う企業もあれば、UXリサーチチーム内のメンバーにこの業務を分担させる企業もあるなど、企業によって対応は異なるようです。

「ResearchOps」誕生のきっかけ

記事によると、UXリサーチャーは一連のリサーチプロセスの中でインタビュー対象者を募集したり、個人情報などに関わる法的文書を作成したりと、リサーチ以外のたくさんの付随業務に頭を悩ませてきたそうです。
そして2018年にKate Towsey氏が、この難しい業務について話し合う場としてReserchOps Communityを立ち上げ、Twitterで参加を呼びかけたところたくさんの関心を集めました。
コミュニティーの活性化に伴いUXリサーチがデザインに与える価値とその実施の難しさが認識されはじめ、この「ResearchOps」という概念もポピュラーになっていったそうです。
以来、コミュニティーのメンバーは増え続けていて、私もこのコミュニティーに参加していますが、今では1万4千人を超えるほどの規模となっています。

ResearchOpsManagerの役割と責任

ユーザーインタビュー社の記事より
https://www.userinterviews.com/blog/research-ops-what-it-is-and-why-its-so-important

ここでは「ResearchOps」がどのような業務を行うのかについて紹介されています。

1つ目は、リサーチ対象者の管理業務です。具体的には、リサーチ対象者が本当に今回の目的に合っているかどうかのスクリーニングをはじめ、インタビューを行う日程を調整したり、対象者に渡すインセンティブを用意したりなどの業務です。

2つ目は、ガバナンス業務です。リサーチ業務では、リサーチ対象者に対してセンシティブな内容をインタビューする場合も多いため、個人情報の取り扱いなどに関するガイドラインを作成し、そのガイドラインにそってユーザーリサーチを進めるためのサポート業務を行います。

3つ目は、ナレッジマネジメント業務です。UXリサーチによって収集した情報やナレッジをチームや組織に共有するための管理を行います。また、プロセスやプラットフォームの作成も含まれています。UXリサーチをスムーズ進める上では、組織内でインタビュー結果を共有しておく必要があるので、情報を誰もが参照できるようにリポジトリとしておくことはとても大切です。

4つ目は、UXリサーチで使用するツールの管理業務です。ニジボックスでもUXリサーチを進める上でさまざまなツールやサービスを使っていますが、これらをいかに効果的に活用するかの戦略もふまえ、管理するようにしています。

5つ目は、UXリサーチチーム以外のメンバーの教育業務です。専任のUXリサーチャーが組織内にいれば良いといったわけではなく、デザイナーやプロダクトマネージャー、マーケターなどにUXリサーチの方法を理解してもらうことも大切です。教育の仕組み作りを行い、他のメンバーでも簡単なUXリサーチであればできる状況が作り出せれば理想的です。

6つ目は、UXリサーチの価値の伝道です。UXリサーチの大切さや目的を組織内に広める役割も担います。

効果的なユーザーリサーチにとって「ResearchOps」が重要な理由

「ResearchOps」は、UXリサーチのサポートをすることで、組織の意思決定スピードを上げてくれるところに一番の価値があると言われています。しかし、予算的な理由で専門家を受け入れるレベルのUXリサーチを行っていない場合もあり、まだ専門家の採用に至っていないケースも多いと思います。その場合は、UXリサーチチーム内の誰かが「ResearchOps」の業務を担うことが良いとされ、そのためにすべき5つの項目があるようです。

1つ目は、組織がUXリサーチを進める上で最適なフレームワークやツールを選定することです。
組織の状況やチーム体制に合わせてデザインツールやプロジェクト管理ツールを選び、UXリサーチの手法を選ぶところまで含まれます。

2つ目は、チームを巻き込むことです。
これはUXリサーチを進める上で一番重要な項目だと思います。
UXリサーチチームに在籍するメンバーだけが理解していれば良いというわけではなく、デザイナーやエンジニア、マーケターなどUXリサーチの結果が影響する可能性のある全てのメンバーにUXリサーチの価値を実感してもらう必要もあります。そのために、例えば社内報で発信したり、ワークショップを社内で開催したり、定期的にチーム全員にUXリサーチの結果やその価値を共有していくことが大切です。

3つ目は、UXリサーチを行う対象者の確保です。
対象者を確保することは、世界中のUXリサーチャーにとって課題とされていることの一つです。適切な対象者を選定し、日程調整を行い、適した方法でUXリサーチを行い、インセンティブや個人情報の管理といったところまで配慮する必要があるためです。パネル管理ツールなどをうまく活用し、適切な対象者をシステマティックに確保する仕組みを確立すれば効率が上がると考えられます。

4つ目は、UXリサーチを習慣的に行うことです。
なぜUXリサーチを習慣化することが大切なのかというと、UXリサーチは定期的に実施することで効果が表れてくるものだからです。プロダクトを作る場合だけでなく、UXリサーチをすることで組織内のさまざまな意思決定がしやすくなります。デザインを変更する時、製品の仕様を変更する時などにも影響するため、日頃からUXリサーチを行う癖をいつけておいた方が良いでしょう。

5つ目は、UXリサーチの結果を共有しやすい環境を作ることです。
記事の中でも言及されていますが、UXリサーチの結果をチームメンバー以外のデザイナーやエンジニア、マーケターなど、チーム全員が認識しないことにはプロダクト開発に良い影響を与えることはできません。そのため、UXリサーチの結果を共有し、アクセスしやすいリポジトリを作成することが大切です。

UXリサーチを進めるために大切なこと

これまで「ResearchOps」の具体的な業務内容やその始め方についてお話してきました。これらの業務や役割は、UXリサーチで適切な結果を得るためにとても重要なものになってきます。UXリサーチを進める上で基本の業務は「ResearchOps」なしでも行うことは可能だと思います。しかし、「ResearchOps」が加わることでこれらの業務を円滑に行うことができるようになると思います。
日本ではマネージャーの役割をしている人物が、この「ResearchOps」を兼任している場合が多いと思います。その役割を専門家に振り分けることで、UXリサーチをより効果的に進めることができますが、その時に大切なのは、UXをしっかりと理解している人物が担わなければならないということです。
「ResearchOps」のコミュニティーに参加すれば、日本の最先端あるいは世界中のUXリサーチの今を知ることができます。しかし個人的に残念に思うことは、ほとんどといっていいほどにこのようなコミュニティーに日本人のメンバーが参加していないことです。
最後に、コミュニティーや「ResearchOps」をスムーズに進めるための記事などを紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

参考にしたい記事URL・コミュニティー

◎日本のコミュニティーが開催したイベントの資料

https://github.com/researchops/research-skills/blob/master/materials/japanese/researcherskills-workshop_guide_deck-JA.pdf

→実際に「ResearchOps」がどのような業務を行っているのかなどを見ることができます。日本の組織がUXリサーチを始める際に、最初に重要になってくる「UX成熟度」のどの段階にいるかを判別するノウハウなどもあるため、参考にすると良いでしょう。


◎海外の「ResearchOps」のコミュニティー

https://researchops.community/

→グローバルな「ResearchOps」のコミュニティーです。世界中のUXリサーチに関する記事をメンバーが投稿しているため、世界中のUXに関するニュースをリアルタイムに見ることができます。

◎UXリサーチの結果をリポジトリする方法

→UXリサーチにおいて大切なリポジトリを実施する方法の紹介や、リポジトリするサービスが紹介されているため、組織内のチーム全体に共有するのに役立ちます。

◎UXリサーチに関するツールの紹介マップ2022

→UXリサーチを便利に進めるための最新版のツールが200ほど紹介されています。自分たちに合うツールをこの中からぜひ探してみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?