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『世に棲む日日』司馬遼太郎を読んで

毎年夏はできるだけ下田に行っている。ある人に会いに行くためだ。下田は幕末の最強教育家と言われた吉田松陰が外国船への密航を企てた場所である。海沿いには幾つかの史跡と蓮台寺温泉の近くには松陰先生をかくまってくれていたという「吉田松陰寓寄処」もある。ここの語り部の方が非常に情熱を持ってお話してくださるのでお近くに行かれた際は是非立ち寄っていただきたい。

さて、読書感想文に至る前に余談が多かったが、なぜこの本を手に取ろうと思ったかというと、ある人と吉田松陰の話になり、吉田松陰が生涯童貞だったのは知ってるか?と聞かれて、知らないと答えるとこの小説に載っていたよ、ということであった。元々吉田松陰が好きだと言っておきながらそんなことも知らなかったのはよくない、と思い電子書籍(kobo)で単語本4巻をダウンロードし、早速読んだのであった。

 物語は前半が吉田松陰、後半は幕末が生んだ天才・鬼才高杉晋作を主人公に描かれる。ともに長州藩を代表する志士であるため、物語は全て長州を基軸に晋作が亡くなるまでを描いている。筆者は吉田松陰に憧れ、下田のいくつかの史跡や、萩にも訪れ、松陰神社(松下村塾)、野山獄、明倫館などにも行った。世田谷の松陰神社にお墓参りに行ったこともある。いくつかの文献や名言などにも触れていた。

 今回小説という形で吉田松陰や高杉晋作に触れることにより、小説家としての司馬遼太郎の想像力、すごさを改めて認識した。感情を移入することにより物事を理解したり、ストーリーがどれだけ他人に分かりやすくなるのか、すごく当たり前のことだが、偉大なことだなと感じた。また俗っぽい話は歴史館や碑などでは書かれないことが多いと思うが(余談ということで)そういうところにこそ人間味であったり一角というものが現れるのだろうと思った。私が今まで見たり聞いてきた松陰先生とは全く別の、何者かになりたいがゆえに、何者ではなくなってしまう自分を恐れて生きていた青年としての彼を垣間見たようなそんな気持ちになった。偉人も人であり、生きていた人なのである。

 またこたびの小説では長州藩という風土、環境、お国柄、それらが全て幕末の志士を生むための土壌となりえたのか、という視点も改めて学ぶことができた。当時であれば当たり前であったことも時代と共に、知らなければ理解できない事柄になる。知識は当然のものとしてあるが、それを再認識させてくれる、それは後世に生きるものだからこそ分かることでもあるだろう。

 幕末の天才 高杉晋作は今の尖閣諸島との隣国との問題にこそ必要な人材だと感じた。彦島を要求してきたイギリスとの交渉時である。藩の代表として伊藤博文らと相手国と対峙していた晋作はいきなり、古事記を演じ始めたとのことである。もちろん晋作の心の中には、中国のようになってはいけない、植民地化されることを恐れて行ったことではあったが、圧倒されたイギリスの方はその話を結局受け入れさせることができなかったのだそうです。天才であり、鬼才であった高杉晋作、はかなくも美しい彼の人生が味わえる作品になっています。その後初代総理大臣になった伊藤博文の邂逅シーンも涙を誘う描写でした。歴史の偉人たちのバトンのうえに成り立っているこの国を感じることができる歴史小説って素晴らしい。そんなことを感じさせてくれました。

#読書感想文 #司馬遼太郎 #高杉晋作 #吉田松陰 #世に棲む日日


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