韓国映画『破墓/パミョ』を見てきました
パミョ見てくる、と娘に言ったら「ポニョ?」と聞き返されたじゅんぷうです、こんにちは。
韓国語のレッスン後の回を予約したので、レッスン中、先生とのフリートークで「授業が終わったら何をしますか?」と聞かれて「ごはんを食べて、映画を見に行きます。『パミョ』を見ます」と言ったら先生も「ぱみょ?」な反応。ポスタービジュアルも見せたけど、初めて知る言葉だそう。
破=파 パ
墓=묘 ミョ
確かに、先月韓国に行く前に調べた「お墓」の韓国語とは違います(パク・ヨンハのお墓参りするから調べた)。私が覚えて行ったのは「무덤」ムドム。
それでミョとの違いについてさらに調べてみると、묘 ミョは漢字語のお墓で、日本の音読みで言うところのボ。ムドムは固有語。さらにお墓の尊敬語で「산소」サンソという言い方もありました。公式インスタからお借りしたヘッダー画像の字幕にもあるように、墓を開ける、パミョするときはミョでしたが…もっと言葉の聞き分けを意識して見ればよかった。
物語の中心になる4人の人物
強い霊力を持つ巫堂ファリム:キム・ゴウン
ファリムの弟子ボンギル:イ・ドヒョン
地相を見る風水師サンドク:チェ・ミンシク
改葬を仕切る納棺師ヨングン:ユ・ヘジン
ファリムとボンギルは祈祷やお祓いを、サンドクとヨングンは風水による埋葬・改葬をそれぞれ生業にしていて、この2組はビジネス的にも旧知の間柄。いずれも依頼主は現在の生活に何か問題があるのを先祖供養に求めるというケース。その4人が法外な報酬につられて前代未聞のヤバい案件にチームで挑むお話です。
以下、ネタバレあり感想
前半の不穏な気配の演出抜群!後半はオカルト血祭!!
序盤のキャラ紹介的なつかみのエピソードで、チェ・ミンシクが墓地の土食べた時点で勝ちでしょ!!つい最近デジタルリマスターの『シュリ』で若くギラギラしたチェ・ミンシクに再会したばかりですが、いまやお腹の出具合といい、いやあいい初老ぶり。その大御所が土食べたわよー。
ともすればB級になってしまいそうなオカルト展開も、チェ・ミンシクの圧倒的な説得力で大真面目な「未来のための」映画になったんじゃないですか?韓国に根付く民俗・土俗的な部分をシリアスに描きつつ、チェ・ミンシクが「江原道の北のほうか…いやな予感がするな」と言うだけで見ているほうも不穏に包まれますもの。うんうん、江原道の北のほう、不穏!
そして巫堂のお祓い儀式の魔術的な舞踏の高揚感!迫力でした。またキム・ゴウンの声がいい。別のシーンですがキム・ゴウンが「トッケビ」と言ったのがちょっとうれしかった。イ・ドヒョンは『ザ・グローリー』以来推しのひとりになりましたが、ここでは経文の刺青を全身に施しているスーパークールな役で、ビジュアルはアニメキャラみたい。ジャンボ鬼武者とのあのシーンでは「ドヒョンが、私のドヒョンがあ~~~!!」と心の叫び漏れそうでした。
これ、土葬文化ベースのお話です。納骨ではなく、お清めしたご遺体の棺を風水的に最適な土地〈明堂〉に埋葬する。儒教文化ではこうした土葬がスタンダードだったようですが、現代ものの韓国ドラマでお目にかかるお墓はロッカータイプの納骨堂。日本と同じ事情で国土も狭いし、今では火葬が一般的。つまりこの改葬おじさんコンビは、このご時世に土葬できるような土地を持ってる・山を持ってる、または買える人たちがお客さんなわけです。だからまさに山師のようでもあるけど、いたってプロフェッショナル。それは巫堂コンビも同様です。人間の死に限りなく近い部分で生きてきたこの4人のチームが淡々と、けれど真摯に仕事をこなすのがよかった。だから胡散臭く描こうと思えばいくらでもできる風水やお祓いというものが科学やシステムとして機能していましたし、チェ・ミンシクが土食べたりキム・ゴウンの儀式のシーンのトランス感でゆるぎないものになっていました。
けど正直長いなとは感じたし、日本の陰陽師が術を施した時期と使われたモノの年代が合わないことを考えると無理やり感もありました。分断したのは米ソだしな。本当に韓国で『パラサイト』を越えたの?という疑問もさることながら、言われているような反日的な意図は私はそこまで感じませんでした。エンタメのために詰め込んだ要素のひとつが日本との歴史のあれこれであって、その史実や結果についてはユ・ヘジンに「関係ないだろ」と言わせていますので。それにこの監督さん、耳なし芳一といい日本のオカルトフェチなのでは?その辺のミクスチャー具合が面白かったです。
前半は見えない何かへの恐怖の心霊ホラー、後半は血塗られた歴史の闇を紐解く呪いとのバトル。パミョして出てきた棺を遺族が「清めなくていい」と言ったのは鬼で鬼を封じる仕掛けだったということ。「日本の陰陽師」というピースが登場したとき、私はてっきり朝鮮半島で『帝都物語』が始まると思いました。「江原道の北のほう」と聞いた時点で38度線関係か、つづいて第一の棺の主はまさか大韓帝国の高宗か純宗?待って抗日運動とか義兵も関係ある?とかいろいろ想像はめぐりましたが、思っていたのとは違った。おいおい『八つ墓村』か?〈殿〉は恨む相手が違うのでは?というような日本人が見て抱く違和感を打ち消すためにぶっ込まれたのが、あの飛び道具…ジャンボ鬼武者ということですかね。うん、韓国映画らしい。
巫堂のふたりが日本人に間違われるオープニングも伏線だったのですね。それにしても怨霊はカリフォルニアまで飛ぶし、チェ・ミンシク演じるサンドクの娘はドイツ人と結婚するしユ・ヘジン演じるヨングンはクリスチャンだし、これもサンドクが半島を分断していた杭を命がけで抜くという行為に集約されているのではないでしょうか。
血族の繁栄のための墓であり、そのための地相を見る風水師。そしてラストの結婚式のシーンでパミョチームもみんな家族のように描かれたけど、一族の跡取りにだけ祟る怨霊が発端だったと思うと、ほっこりなようでいてちょっと不気味でした。それも韓国映画らしい。
それに日常にもどった巫堂ふたりが、呪いのトラウマを植えつけられてしまったのはせつないです。ちなみに私は名称を文字で見るのも聞くのも苦手なぐらい、足のない爬虫類のアレが本当に無理なので、劇場で3回ほど反射的に目をつぶっていました。土掘るんですもの、そりゃ出てきますよね。それもあるので、もう一回見ることはない、かな…。幼き日から数えきれない恐怖のトラウマを与えてくれた楳図かずお先生の訃報が流れたのはこの前日でした。楳図先生の「へ〇少女」、確実にトラウマ。
キム・ソニョンオンニと一緒に出てきた若い巫堂、杉咲花ちゃんみたいでかわいかったなー。
そしてこのnoteを書いているとき、突然天井の照明のカバーがカパッと外れて「うわあっ!!」と叫んでしまったことをお伝えしておきます。
ユ・ヘジンについて
日本の土葬について