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本の紹介文 ~多様性の尊重と向き合い方~ 『スター』朝井リョウ

朝井リョウさんの小説の魅力は、登場人物の配置を含めた物語の流れの美しさ(意味のあるタイミングで意味のあることを語らせる構成の妙)と、時代を反映した主題に著者なりの答えを思いきって、書き切るところにあると思います。(えらそう。)

デビュー10周年を記念した本作は、大学時代に共同作品により映画祭でグランプリを受賞した尚吾と紘のその後を描く。尚吾は卒業後に日本を代表する映画監督である鐘ケ江氏のもとで、細部にこだわる本格派の作品づくりに携わるが、時代のニーズにマッチしにくく、収益に暗雲が立ち込め…。一方の紘は、YouTubeチャンネルを手掛けるが、出来が悪くともとにかくアップし続けることに違和感を感じて…。主人公の二人の自分のやりたいことと社会が求めることの解離を埋めようともがく過程が、尚吾のパートナーである千紗、鐘ケ江作品に長年関わる浅沼、大学時代の後輩で映画にまつわる会員制サロンを運営する泉などの示唆的な登場人物とともに描かれる。

本作の時代を反映した主題は、おそらく多様性の尊重と向き合い方のように思われる。そしてたぶん朝井リョウさんの答えは、(以下、ネタバレがあるのでご注意ください。)

「全部、自分がいる空間とは違うルールで成立してるんだもん。」

「誰かにとっての質と価値は、もう、その人以外には判断できないんだよ。それがどれだけ自分にとって認められないものだとしても」

「私は、誰かのしてることの悪いところよりも、自分がしてることの良いところを言えるようにしておこうかなって思う」

「はなから小さな空間に向けて差し出したものだとしても、それがどんな1点から生まれたものだとしても、素晴らしいものは、自然と越境していく。だからどんな相手に差し出すときでも、想定していた相手じゃない人にまで届いたときに、胸を張ったままでいられるかどうか」

ラストに行き着くまでの登場人物の心の変遷を楽しみつつ、著者の主張を受け止めたい。他者の価値観にあわせすぎてもいけないし、もちろん土足で踏み込んではいけないが、自分の納得感も持ちつつ、心を調律していきたいと思えた一冊。

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