忘れられないパリ旅行~私のスリ被害体験談
パリ五輪が熱狂のうちに幕を閉じました。
日本人選手の健闘が目立ちましたね。
パリは欧州の中でも屈指の観光都市ですが、この夏はオリンピック観戦も兼ねて、より多くの人がパリを訪れたことでしょう。
私がパリを最後に訪れたのは十数年前になりますが、この時のことは一生忘れられない思い出になりました。
そう、だってこの時パリで、生まれて初めてスリに遭ったんですから!
もうその時の犯行と言ったら、こんなこと言いたくないけど、鮮やかの一言でしたよ。
今回はそのスリ被害事件の一部始終と、その後どう対応したかについてお話したいと思います。
海外旅行中はこういう事態も起こり得るんだなと、頭に入れておいていただければと思います。
パリ東駅にて
十数年前の年末、私はパリを拠点に、フランス周遊旅行に出かけていました。
序盤にパリに滞在した後、パリ近郊や南仏などを巡って、最後にまたパリに戻って来る予定でした。
「その日」はパリ滞在を終え、プロヴァンへ行くつもりでした。
プロヴァンは、パリ近郊の中世の街です。
プロヴァン方面へ行くには、パリ東駅から電車に乗ることになります。
私はパリ東駅に来て、鉄道インフォメーションの列に並んでいました。
クリスマス前の駅構内は、華やかなツリーや装飾が施されています。
私はスーツケースを横に置き、手荷物を肩に掛けたまま、周囲の装飾を眺めていました。
列が進まず、ほんの数分ぼーっとしてしまったでしょうか。
手荷物のリュックを片側の肩に斜め掛けしていたのですが、そのリュックを引き寄せてふと目をやると、ファスナーがガラ開きになっていることに気が付きました。
「……?!」
私は真っ青になって、急いでリュックの中を確認します。
すると、中から財布だけが消えていたのです!
「いやあああああ〜〜〜、財布を盗まれた〜〜〜!」
駅構内だということも忘れて大パニックになり、そこら辺を走り回りました。
しかし、犯人が見つかるはずもありません。
それにしても、いつの間に抜き取られたんでしょう?
リュックに手が延びるくらい近寄れば人の気配がするし、ファスナーを開ける時は音がするはずです。
何より、列前後にも人が並んでいて、駅構内には無数の「人の目」があるもの。
私にも周りにも覚られることなく、気配も音も完璧に消して犯行に及んだということです。
ある意味、神業です。
私は動揺を抑えきれぬまま、駅のポリスステーションに駆け込みました。
「すみません、財布をスられました」
私は、オフィスのカウンターに通されました。
これから事情聴取が始まるようです。
警官はあまり英語が得意ではありませんでしたが、その時たまたま居合わせた黒人女性が、動揺しながら話す私を見るに見かねたのかサポートしてくれました。
女性の英語通訳を挟みながら聴取が始まり、その時の状況や、犯人の顔を見たかどうかを訊かれました。
警官はそれを元に書類に記入していきます。
盗難の証明書を作成しているようです。
淡々と事務的に証明書を作成していく警官を見て、ああ、ここではスリは珍しくないんだな、こういうことは日常茶飯事なんだな、と思いました。
(どこの国でも役人は淡々と作業するものかもしれませんが)
警官は作成した証明書を私にくれると、メモ用紙にフランス語で何かを書いて見せました。
私が意味がわからずにいると、通訳してくれていた女性が説明してくれました。
「今からここに行くのよ。日本大使館よ。最寄り駅はここよ」
メモにはフランス語で日本大使館と書かれていたようです。
彼女は、メトロの最寄り駅を教えてくれました。
私はその前に、中身は仕方ないとして、財布そのものだけでも取り返したいと言いました。
女性は
「(財布は)ブランド?」
と尋ねたので、私はそうだと答えました。
そう、盗られた財布はプラダだったのです。
しかも、ミラノのプラダで購入したミラノ限定デザイン!
中の現金は60ユーロ程度でしたが、財布の方が被害額が大きかったのです。
女性は難しい顔をして
「じゃあ取り返すのはムリね。彼らの戦利品になってしまっているわ」
と答えました。
それを聞いた私は、一層激しく落胆しました。
女性は私を力づけるようにメモを力強く渡してくれ、
「早く大使館に行きなさい。あなたの助けになるわ」
と励ましてくれました。
私は女性と警官にお礼を言いました。
そして警官に尋ねました。
「あのう、財布を盗られたので、切符を買うお金がないんですけど…」
すると警官はついてくるよう促し、メトロのホームへ降りる裏口の鍵を開けてくれ、ここから行けとジェスチャーしました。
これで改札を潜らずホームへ行くことができます。
私は再度礼を言い、警官と別れました。
ホームでメトロを待つ間、私は失意と絶望に打ちひしがれていました。
もう、旅行のワクワク感なんてどこにもありません。
むざむざとスリに遭ったという事実が、こうも人の精神に大きなダメージを与えるとは。
このまま死にたいと思いました。
メトロが事故って、自分に突っ込んできてくれればいいのに……
数分後、メトロは無事ホームに到着し、私は他の乗客にまぎれて乗車しました。
パリ日本大使館
この時、メトロに乗ってから日本大使館に到着するまでのことはよく覚えていません。
最寄り駅名も記憶にありません。
当時と場所が変わっているかわかりませんが、現在のパリ日本大使館の住所は下記の通りです。
Ambassade du Japon en France
7 Av. Hoche, 75008 Paris, フランス
私は大使館を訪ね、何があったかと、警察でここに来るよう言われたことを話しました。
すると、奥の個室に通されました。
対応してくれたのは、年配の男性職員でした。
私は職員さんに詳しく話しました。
駅で財布をスられ、現金は60ユーロ程だったがクレジットカードが入っていたこと、別に持っていた日本円現金の1万円は無事だったこと…
「じゃあ、まずカードを止めなきゃいかんな」
職員さんはそれぞれのカード会社の番号を調べて電話してくれ、私がカード会社のスタッフと話して手続きが完了しました。
新しいカードを受け取れるのは帰国後となりますが、私が持っていたゴールドカードのサービスで、旅行中に使える臨時カードを発行してもらえることがわかりました。
ただ、臨時カードの発行にも3〜4日かかります。
旅程を逆算すると、その頃はカルカッソンヌに滞在する予定です。
そこでカルカッソンヌで泊まる予定のホテル名と住所を伝え、ホテル気付でカードを送ってもらうことになりました。
これで少し安心しました。
臨時カードさえ手に入れば、旅行中の出費はそれで賄うことができます。
あとはそれまでどう凌ぐかです。
「大使館では旅行者にお金は貸せないんですよ。いちいち貸していたら大変だから」
と、男性職員。
まあ、そりゃそうだ(笑)
手元の現金が残り1万円。
交通費は、鉄道パスを持っていたのでなんとかなる。
宿泊は、事前に予約して料金前払いしているところとそうでないところがある。
(十数年前の話なのでスマホや電子決済はありません)
「じゃあ、明日からニースヘ行く予定だったけど、1日早めて今から行きます。TGVには鉄道パスで乗れるので」
物価の高いパリに留まっているより、早く地方へ移動した方がいいでしょう。
私はお礼を行って大使館を立ち去ろうとしました。
職員「もう盗られないよう気をつけなさいよ」
JUNJUN「これ以上盗られるものもありませんけど」
職員「いやいや、命取られちゃ大変だ。僕もモンマルトルでやられたよ。後ろからバッグ引ったくられてね。10代のガキだったけど。逃げられたけど、追いかけたらこっちの心臓がもたない」
JUNJUN「いえいえ、そんな(笑)
ところで、リヨン駅(TGV発着駅)までの切符を買うお金がなくて…」
(メトロには鉄道パスは使えません)
職員「じゃあ回数券1枚あげるよ。乗り掛かった船だ」
JUNJUN「ありがとうございます!」
私は深々と頭を下げました。
男性職員がいい人だったので、少し救われた思いでした。
一難去ってまた一難
大使館を出た私は、TGVに乗るべくリヨン駅ヘ向かいました。
本当なら、今日はプロヴァンヘ行っていたはずですが取りやめです。
ところがリヨン駅ヘ行くと、困ったことになりました。
TGVに乗る場合、鉄道パスを持っていても、事前に座席予約する必要があります。
ところが駅の窓口で、
「今日のニース行の席はもうないね」
と言われたのです。
JUNJUN「ええっ、どうしても今日乗りたいんです!」
駅員「いいよ。だったら追加料金払いな」
おそらくアップグレード料金のことでしょう。
それがいくらだったか正確に覚えていませんが、日本円で1万を超えるような額だったと思います。
私は断念せざるを得ませんでした。
しかも駅の両替所でなけなしの1万円を両替したら、レートが悪く、手数料引かれて(当時のレートで)五十数ユーロにしかならなかったのです。
私は途方に暮れ、先の大使館ヘ電話しました。
電話で事情を話すと、もう一度来るよう言われました。
大使館再び
外へ出ると既に夕暮れで、大使館は閉館時刻を過ぎていました。
が、門前で呼び鈴を押すと、事情はわかっていたようで、窓口スタッフが「お待ちしてました」と招き入れてくれました。
再び個室へ通されましたが、先の年配の男性職員と別に、もう一人若い男性職員が出てきました。
既に話は聞いていたであろう若い職員さんは、
「仕方ないので、今回だけ個人的に貸します」
と言いました。
なんと、職員さんのポケットマネーから特別に貸してくれるというのです!
まさに、神が出現した瞬間でした。
まずは借金をするにあたっての説明を受けました。
日本に帰国したらすぐその金額を送金してほしいということ、その際の口座番号、そして借用書の記入…
そして、現金300ユーロを職員さんから拝借したのでした。
「ありがとうございます…これで助かります…」
同時に、ここまでしてもらって申し訳ないとの思いが溢れてきました。
若い職員「現金を持ち歩く時は、万が一の時のためにいくつかに分散して持っていた方がいいですよ」
JUNJUN「そうします。それにしても、あんなに簡単にスられちゃうもんでしょうか」
若い職員「あいつらプロですからね」
その日は大使館と付き合いのあるパリ市内の安宿を取ってもらい、結局ニースへは翌日移動することになりました。
私は何度もお礼を言い、大使館を後にしました。
年配の職員さんと若い職員さん、双方が玄関の外まで見送ってくれました。
その夜、安宿の寝室でいろんな思いが交錯してきました。
大事な財布をスられたことによる落胆、ほんの少しの間油断してしまったことへの後悔、助けてくれたパリ東駅の黒人女性や日本大使館職員さんたちへの感謝の思い…
さあ、今夜の宿泊費で借りた300ユーロのうち50ユーロちょっと使ってしまった。
明日からどうやりくりしよう……
臨時カードを入手するまで
翌日は追加料金も発生することなく、無事鉄道パスでニース行のTGVに乗車することができました。
ニースからモナコを巡り、その後フランス南西部のカルカッソンヌを訪れる予定です。
そしてカルカッソンヌで、臨時に発行してもらったカードを受け取ることになります。
それまで日本大使館の職員さんに借りた現金を厳重に保管すると同時に、旅費を上手くやりくりしなければなりません。
ニース~モナコで過ごす間は、なるべくお金を遣わず過ごすことを心がけました。
そのように心がけていると、お金をかけずに楽しむ方法はけっこうあると気付きました。
街の教会では、無料で聴けるクリスマスコンサートが行われていました。
カフェでは、10ユーロ以内で充分美味しいものが食べられました。
夜のミニマートでクロワッサンを買ったら、もう一つオマケしてくれました。
おそらく在庫処分でしょうがラッキーでした(笑)
何よりも南仏の美しい街は、ただ見て歩くだけで最高の満足感をもたらしてくれました。
そして、遂にカルカッソンヌ到着。
カードが届く予定の日、ホテルのフロントに私宛の郵便が届いてないか訪ねると、ちょうどカード会社から送られてきた封筒がありました!
無事に臨時カードゲットです!
正直現物を手にするまでは、何らかの手違いやアクシデントで届かなかったらどうしようかと心配していましたが、これで一安心。
あくまで新しいカードができるまでの仮カードですが、普通のカードと同様に使用することができます。
やっと所持金の残金を気にせずお金を遣うことができる。
ようやく残りの旅行を楽しもうという気分になれました。
新しい財布を手に入れる
カルカッソンヌの後はアヴィニヨンを訪れ、そこからTGVで北上し、最後またパリで過ごして、いよいよ旅行を終えることになります。
今回カードの海外旅行付帯保険で、財布を盗まれた場合、中の現金は対象外だが、財布自体が保証の対象になることがわかりました。
保証額は購入金額から、経過年数に応じた減価償却費を引いた額になるということです。
ならば盗まれた財布は下取りしてもらったと思うことにして、パリで新しい財布を買って行こうと思いました。
そして、パリで新しい財布を買うならここしかない!
スリに遭っておいて能天気な、と思われるかもしれませんが、この機会にもっといい財布を手に入れてやる!くらいに思わないと、滅入ってやっていられなかったのです。
ルイヴィトンでは、あの臨時カードで長財布を購入し、免税手続きも忘れず行いました。
これで古い財布の保険金が入れば、実質40~50%引きで買えたも同然ではないでしょうか。
帰りのパリの街を歩くときは、かなり警戒していました。
荷物から目を離すなんてもっての他ですが、街中では常にリュックを前に抱えて歩いていました。
この時の教訓で、その後旅行時はショルダーバッグを襷掛けにして持ち歩くようになりました。
これなら荷物が常に視界に入るし、ひったくりも防げるからです。
こうしてなんとか旅行を終え、シャルル・ド・ゴール空港から日本へ帰ったのでした。
その後のこと
帰国したら、やることが山積みでした。
まずは、日本大使館の職員さんに借りた300ユーロを返さなくてはなりません。
年末だったので、銀行が休みに入る前に早急に送金手続きを済ませました。
手数料だけで4,000円くらいかかった記憶があります(汗)
そして、盗まれた財布の保険金請求です。
申請書に、警察で作成してもらった証明書の写しと、現物を購入した時のレシートを添えてカード会社に送付しました。
結局、16,000円くらい振り込まれたと思います。
こうしてバタバタしているうちに年が明けました。
スリ被害の予防と対策
この旅行の出来事は、私の中で長い間トラウマになっていました。
パリは見所が多く魅力的な観光地である反面、ヨーロッパの中でも特に犯罪が発生しやすい街です。
私もあの旅行以降、トラウマでパリには行っていません。
数年前フランス・アルザスへ行った時もパリの方へは行かず、とっとと隣国ドイツへ逃げてきました(笑)
そんな私があの事件で得た教訓は次の通りです。
街を歩く時は決して荷物から目を離さない。先述の通りショルダーバッグを前に抱え、常に目に入るよう持ち歩く。
海外ではブランドのバッグ・財布は持ち歩かない。窃盗犯に目をつけられやすくなる可能性がある。私はあれ以来、海外旅行時は一見財布に見えないポーチのようなもので現金を持ち歩き、カードは別に保管している。
盗難被害に遭った時のためにも、海外旅行保険には加入しておこう。現金は対象外だがバッグ・財布・PC等のモノは保証の対象となる。(いずれも紛失の場合は対象外)
カードの海外旅行付帯保険の場合は内容を見直しておこう。また、カードによって緊急時のサポートが違うので、それも併せて確認を。やはりサポートが手厚いのはゴールドカードです。
万が一被害に遭ってしまったら、必ず警察に届けて証明書を作成してもらおう。証明書がないと保険の請求ができない。
やはり海外で万が一の時に頼れるのは同胞。一人旅で現地に知り合いがいなければ、大使館を訪ねよう。
ヨーロッパでは、大都会ほどこのような犯罪は起こりやすい。駅、公共交通機関の中、人通りの多い場所では特に注意して行動しよう。
以前職場のおばちゃんは、フランス革命記念の式典を見に行った時にスリに遭ったと言っていました。
イベント等に出かける時も要注意ですね。
今回、当時の様子をなるべく詳細に振り返りながら書いたので長くなりましたが、敢えてバカンスシーズンに注意喚起の意味も込めて、私のスリ被害体験談をお話させていただきました。
これから窃盗事件が多いと言われる国・地域に行かれる方は、充分ご注意ください。
スリ・窃盗被害の大半は、自分が注意することで防げると言われています。
そしてどんな時も、自分自身の身の安全を最優先に考えた行動をとってください。
昨今大都市では、人の多い場所には警官を常に配置して治安維持に努める街も増えてきました。
注意事項を念頭に入れた上、最高のバカンスを過ごしましょう。
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