【85.水曜映画れびゅ~】"ATHENA"~冒頭10分、目を離すな~
"ATHENA"は、今年9月からNetflixで公開されているフランス映画です。
簡単なあらすじ
※日本語字幕の無いトレーラーです。
”歪んだ兄弟”の葛藤と対立
一人の少年が、警官による暴行で命を落とした…
そんな既視感の事件から始まる本作。
殺された少年イディールの兄であるカリムは、報復のために警察署を襲撃。
その後、弟を殺した警官の身元公表を求めながらアテナ団地で籠城を続け、暴動を扇動します。
しかし、イディールにはもう二人の兄がいました。
元軍人であるアブデルは、警察と連携しながらアテナ団地から住民を避難させ、事態の鎮静化のためにカリムを説得。
平和的な解決を模索するアブデルと、破壊でしか答えを見出せないカリムが対峙します。
もう一人の兄モクタールは、弟の死やアテナでの暴動などお構いなしの、自分の利益しか考えない最低な男。
そんな”歪んだ兄弟”の間で生まれる、葛藤と対立が描かれます。
ギリシャ悲劇をモチーフに
本作の舞台となるアテナ団地。
その存在自体は架空のものですが、作品に映し出されるその光景はフランス郊外の実際の状況と重なり合う部分があります。
フランスやパリと聞けば上流階級的な華やかさを印象に持ちがちですが、実はパリ郊外には中東やアフリカ系の移民や難民が住んでいます。
そしてこの作品で描かれているような、郊外に住む子どもたちが警察官に殺されるという事件が起こり、2005年には大きな暴動に発展しました。
そんな民衆と警官の対立を題材にした作品として『レ・ミゼラブル』(2019)という映画もあります。
そして本作の監督ロマン・ガブラスは、この『レ・ミゼラブル』で監督を務めたラジ・リとともに『アテナ』の脚本を作り上げました。
ガブラス監督曰く、本作のテーマは"ギリシャ悲劇"。
社会問題を背景としながらも、写実性を重視するわけではなく、多少現実離れした世界観のなかで、時代を超えた人間の対立や葛藤を表わしました。
それ故の、”アテナ”団地、そして『アテナ』というタイトルなのかもしれません。
"緊迫" "疾走" "美"
すべてが詰まった冒頭シーン
"ギリシャ悲劇"というモチーフの下、重要なシーンでは"絶望の中での詩的な美しさ"を追求したガブラス監督。
その中でも特に凄いのが、冒頭シーン。
カリム一味が警察署を襲撃し、アテナ団地まで車で疾走するシーンなのですが、その一連の流れ、時間にしておよそ10分がワンカットなんです!
カットが入らないため、実際に自分がその場で現場を追っているかのようなリアリティが感じられ、緊迫感と疾走感が半端ないです。
そしてなにより、映像が美しすぎる…。
その冒頭10分だけでも何度も何度も観たくなる凄まじい映像で、極端な話、「別に映画全編まで見なくてもいいので、その冒頭部分だけでも観てください」って言っちゃうくらい凄いです!
映画と合わせて
『アテナ:制作の舞台裏』
ということで今回は、フランスの社会的背景を描くとともに、映画史に残るような凄まじい映像を作り出しているNetflix映画『アテナ』を紹介しました。
また『アテナ』制作のメイキングも公開されており、NetflixだけでなくYouTubeでも観ることができます。
※YouTubeで公開されている動画には日本語字幕がありません。
今回の記事で触れた内容以外にも、ワンカット映像を可能にしたアクションスターばりの撮影監督の苦労や、ロケ地となった団地の住民たちとの絆、サンプリングを駆使した独特の作曲、三兄弟演じた俳優たちそれぞれの逸話など、映画鑑賞後より一層映画を楽しめる内容です。
ぜひこちらも合わせてご覧になられれば、と思います。
前回記事と、次回記事
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来週は、今話題沸騰のホラー映画"The MENU"を紹介させていただきます。
お楽しみに!