見出し画像

【60.水曜映画れびゅ~】"The French Dispatch"~主人公は、雑誌の記事!?~

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(原題 “The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun")は、1月28日より劇場公開されているウェス・アンダーソン監督最新作。

昨年のカンヌ国際映画祭で発表された際にスタンディングオベーションが9分間続いたとされる、大人気監督による今注目の作品です。

作品情報

国際問題からアート、ファッション、グルメに至るまで深く切り込んだ記事で人気を集めるフレンチ・ディスパッチ誌。編集長アーサー・ハウイッツァー・Jr.のもとには、向こう見ずな自転車レポーターのサゼラック、批評家で編年史家のベレンセン、孤高のエッセイストのクレメンツら、ひと癖もふた癖もある才能豊かなジャーナリストたちがそろう。
フランスの架空の街にで働く個性豊かな編集者たちの活躍を描く。

映画.comより一部抜粋

映画を観ながら、フレンチ・ディスパッチ誌を読む。

本作の舞台は、フランスに拠点を置く雑誌編集部が発刊するフレンチ・ディスパッチ誌。そこで働く一癖も二癖もあるジャーナリストたちの記事が、本作の主人公といえます。

確認のため繰り返しますが、本作の舞台はフレンチ・ディスパッチ誌という雑誌そのもので、主人公はそのフレンチ・ディスパッチ誌に掲載されている記事です。

フランスが舞台ではなく、記事を書くジャーナリストたちが主人公であるとも(少なくとも私にとっては、)いえません。

どういうこと?って思われるかもしれませんが、そうとしかこの映画を形容できないのです。

というのも、この映画は実際にその雑誌を読んでいるかのように進められるからです。前書きがあって、ある記事の内容がはじまって、その次には別の記事がはじまって、また次に…というように、いわばオムニバス的な構成で作られています。

その一つ一つの記事には、もちろん書き手がいて、その書き手もそれぞれの記事の内容に登場しますが、彼らは主人公とはいえません。彼らが伝えたかったもの、つまりそのそれぞれ記事において紡がれた物語こそが、本作の主人公なのです。

また、オムニバス的といっても、単純な短編作品集とは言えません。

フレンチ・ディスパッチ誌という雑誌自体が本作の大枠の舞台となっていることにより、新聞や雑誌が様々な記事を掲載しつつもそれぞれが独自の理念の下で作られているのと同じように、『フレンチ・ディスパッチ』という映画においても、一見バラバラのように感じる物語の中で一貫した理念のようなものが見えてきます。

7年ぶりとなる待望のウェス・アンダーソン実写映画監督作品

そんな本作の監督は、ウェス・アンダーソン。今や超人気監督ですね。

『ムーンライズ・キングダム』(2012)など実写作品に加え、『ファンタスティック Mr.FOX』(2009)といったストップモーションアニメーション映画でも監督を務める方です。

そんな彼の作品は、全体的にとてもポップな娯楽映画といえ、その世界観は子供向け映画を想起させます。

その一方で、その世界観を構築するために、他のフィルムメーカーとは一線を画す様々な技巧が盛り込まれています。シンメトリーを意識した画角作りや、ヴィヴィッドな色づかい、ミニチュアジオラマを生かしたプロダクションデザインなどなど、一つ一つ挙げればキリがありません。

そのように精緻に作りこまれたアンダーソン映画は、もはや芸術作品の域に達していると評さるほどです。

一見子供向け映画のように思えるそんなアンダーソンの芸術的映画は、実際のところは、世界中の大人たちを魅了しているといえますね。

なかでも、2014年公開の『グランド・ブダペスト・ホテル』は、これまでの映画の常識を覆すほど作りこまれた作品であり、アンダーソン映画として最高峰の作品であるといわれました。

そんな『グランド・ブダペスト・ホテル』から7年の時を経て、満を持して公開された彼の新作実写作品『フレンチ・ディスパッチ』。
(アニメ映画として2018年に『犬が島』が公開。)

『グランド・ブダペスト・ホテル』であそこまでやりきったウェス・アンダーソンによるこの最新作で垣間見えたのは、彼の映画に対する飽くなき探究心でした。

というのも、本作ではシンメトリーをはじめとするこれまでの技法はもちろん、白黒映像とカラー映像を頻繁にスイッチするという新たな試みがなされています。

それは、まるで雑誌の活字部分(白黒)を辿りながら、掲載されている写真(カラー)に目を向けるかの如く。このモノクロとカラーの行き来を通して『フレンチ・ディスパッチ』は、映画であるとともに雑誌であると感じましたね。

そして、ウェス・アンダーソンはまだまだ進化することが、この作品により証明されたとも思えました。

やっぱりキャストが豪華だよね~

そしてアンダーソン映画で忘れてはならないのが、彼の作品のために集った俳優陣。

この作品は前述した通り記事が主役でありますが、その一つ一つの物語に登場するキャラクターたちは、普通の映画なら主役級を務める超豪華俳優陣達です。

ティモシー・シャラメやビル・マーレイ、ティルダ・スウィントン、エイドリアン・ブロディ、ベニチオ・デル・トロ、etc…。

彼らだけでも、映画が2~3本作れそうな俳優陣ですが、これはほんの一部。

そのほかフランシス・マクドーマンドはじめ、映画の至る所に超有名俳優たちが所狭しの如く出てきます。なかには、こんなちょい役なのにこの人起用していいの?と思ってしまう人も…(笑)。

オスカーウィナーやノミニーも犇めく実力派俳優陣とも言えますが、そんな彼らがウェス・アンダーソン作品ではちょっと変わった演技をしているところにも注目です。

アンダーソン作品のキャラクターというのは、基本的に無表情で淡白なんですね。なので極端なことを言ってしまえば、みんな同じような演技をします。ただむしろそれが良いわけで、そういった演技がウェス・アンダーソンの世界観を構築しているといえます。

そして、普段ゴリゴリに演技がうまい俳優達が、あえてそういう演技をすることで、またユニークさも感じれるんですよね。

何はともあれ、これだけのキャストを集められる監督は、ウェス・アンダーソンくらいしかいませんね。

ウェス・アンダーソンの新作、これから続々…

ということで、今回は現在劇場公開中の映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』と、その監督を務めたウェス・アンダーソンの魅力を紹介しました。

そんなアンダーソン監督の次回作、そして次々回作に関する報道が昨年からドンドン出てきていますね。

次回作のタイトルは"Asteroid City"

昨夏にスペインにて撮影が行われていたようです。ちなみに、出演者のティルダ・スウィントンによれば、「スペインについての映画ではありません」とのこと。

さらに、ベネディクト・カンバーバッチを主演としたウェス・アンダーソン監督作品のプロジェクトもすでに進められているらしいです。

Netflix製作の下、『ファンタスティック Mr.FOX』の原作『父さんギツネバンザイ』の作者ロアルド・ダールの『ヘンリー・シュガーの素晴らしい物語』を基にしたストーリーとなるようです。

今後もウェス・アンダーソンに目が離せませんね!


前回記事と、次回記事

前回投稿した記事はこちらから!

これまでの【水曜映画れびゅ~】の記事はこちらから!

来週は、今週末ついに公開されるスティーブン・スピルバーグによる名作ミュージカルのリメイク"West Side Story"ウエスト・サイド・ストーリーについての記事を投稿する予定です。
お楽しみに!


この記事が参加している募集