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モテるやつの回答

「会社に5分遅刻しただけなのに、20分くらい●●上司に説教されちゃってー。時間の大切さを教えるなら、その20分を仕事に当てたほうが絶対良くないですか? 超ムダじゃないですか? その20分」

部下の女性にこんなことを言われたことがあります。そのとき僕は「そりゃあね……」と言いかけて、口ごもってしまいました。

みなさんならどのように返答するでしょうか。

そのとき、僕の脳みそはギュルギュルと音を立てて高速回転していました。今日は、僕がそのとき口ごもった数秒間、頭の中で起こっていたことを書いてみます。

まず、ノータイムで言ってしまいそうになったことは
「そりゃあね、アナタ。そもそも遅刻しなきゃそのムダな20分も嫌な思いもせずに済んだはずでしょう?」

これです。多分、この話を聞いた多くの人が感じることなのではないでしょうか。しかし、これは罠なのです。これを僕が言うことで「あーたしかに! その発想はありませんでした」と彼女は膝を打つでしょうか。

そんなことはないのです。彼女は、そんなことは承知のうえで、僕に話しかけてきているはずなのです。僕はその発言をする前に踏みとどまったのですが、きっと口にしていたら

「あ、あー、ですよねー。以後気をつけまーす」

的な反応になり、僕と彼女の心理的距離はちょっと遠くなることとなるのです。つまり、多分なんにも悪いことをしていないのに、ちょっと彼女の評価が下がり、あまつさえ仕事がちょっとやりづらくなってしまっては、僕にとってマイナスです。それは避けたいところなのです。

ゆえに、別の返事を用意しなくてはなりません。次に思ったのが、中立的発言はどうか、という発想です。彼女を気遣いながら、しっかりキミにも責任があるんだよ、ということを匂わせ反省を促す、という高等テクニック。

「そりゃあ災難だったね。その上司も虫の居所が悪かったのかもね。じゃあ、ちゃっちゃと仕事してその失われた20分も取り返して、定時で帰ってやろうぜ、そんで早く寝よう。そしたら明日は遅刻せずに済むし、上司にも怒られないし、みんなハッピーだね!」

いやいや長い長い。嘘くさい。これじゃない。
考え方を変えます。女性取扱の公式文献で、女性は誰かに相談をするときに、言ってほしい「答え」はすでに知っていると書いてあります。正解はすでに決まっているのです。それを探るべきなのです。

彼女が欲しがっている言葉は何か。答えはすでにわかっています。ヒントは「●●の方が良くないですか?」「ムダじゃないですか?」。そう、付加疑問文。求められているのは「ほんとそうだよねー」という同調です。

しかし、素直にこの波に乗るのは、それはそれでどうかと思うのです。遅刻してもいいよ、と言っているようにも捉えられてしまうからです。今度から彼女が遅刻したり、ヘマをしても、ちょっとやそっとでは注意できなくなってしまいます。

「あのとき“そうだよね”って言ったじゃないですか!」

それは上司としてまずい。個人的には、彼女が何時間遅刻しようが関係ないのですが、そういうのが積み重なって僕が振った仕事をいい加減にこなしちゃったり、僕の仕事が遅れたりするのは大変迷惑。

いよいよ困ってしまった僕は

「ハハハ、そりゃあドンマイだったね。それで昨日のさー・・・」

軽く流して次の話題! というエスケープ回答。それによって彼女がどんな反応をしていたのかはわかりませんが、満足はしていないでしょう。ただし、マイナスな印象も与えなかったと思います。その後も若干ドライに、程よい距離感を保って仕事をすることができました。

その日の夕方。外回りから帰ってきた若い男性社員(彼女の同期)に今朝僕にした話をしているのが聞こえてきました。僕は男性社員がどんな回答をするのか、興味津々。ただし、顔面は書籍のゲラに落とし、あたかも校正作業をしている風を装います。右耳だけ、どんな微弱な電波も逃さない巨大なパラボラアンテナの如く神経を集中させました。

彼は即答でした。

「ていうかあの上司、口臭くない?」

以降、彼女と彼は賑々しく談笑を続けました。彼女はとても満足した表情に見えました。


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