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劇場版アニメ「ルックバック」のススメ

 小学3年生の時に、アニメ版「スラムダンク」を初めて観た時の衝撃は今でも忘れない。その後、僕はミニバスを初めて、中学・高校とバスケで青春を過ごすことになった。併せて、当時高校バスケット界で無敵を誇った能代工業の看板選手である「田臥勇太」というスーパースターに憧れ、当時田臥選手のプレーをテレビで観れる貴重な機会であったウインターカップの試合のVTRを、本当に毎日毎日飽きもせずに繰り返し観続けて、少しでも田臥選手に近づきたいと夢見たものだ。NBAもマイケルジョーダンが全盛期でバスケットマン大澤にとって、これ以上ない最高の年代に青春時代を過ごせたことを、振り返ると幸運なことだと思っている。

 田臥勇太選手を超える日本人プレイヤーなど、過去も未来も、ずっとこの先現れないと心底思っていた。現れてほしくない、というのが本音かもしれない。しかし、最近ついに田臥選手を超える逸材に出会ってしまい、心が震えた。彼の名前は、「河村勇輝」選手だ。初めて田臥選手を超える日本人ポイントガードに出会った気がした。それも全盛期の田臥選手を超えている。

 記憶は過去を美化する。だからこそ、全盛期の田臥選手を超える日本人プレイヤーなど存在しないし、これからも現れるはずもないのだ。しかし、河村選手の出現により、僕の脳内には革新が起きた。過去から未来へと、アップデートされたと言っていいかもしれない。悔しいけれど、河村選手は全盛期の田臥をも上回るスーパープレイヤーとして僕の中にしっかりと位置づいた。

 同じような感覚は漫画やアニメ界でも起きた。上記のようにバスケットマン桜木に憧れていた僕にとって「SLAM DUNK」を超える作品など現れるはずもないし、現れてほしくないのだ。過去も未来も、ずっとずっとSLAM DUNKがNO.1なはずだった。

しかし、その時は唐突に訪れた。「ルックバック」の出現だ。

 「ルックバック」は、藤本タツキさん原作の漫画で、現在は劇場アニメ「ルックバック」として公開されている。先日、僕はこの作品を本当に偶然出会い、心が震えた。「漫画に魅せられ、漫画に熱狂する」二人の主人公に心を打たれた。なんでも器用にこなす藤野と、不器用ながらも誰よりも努力を続ける京本。学級通信の紙面で二人は出会い、両者はお互いの才能に嫉妬し、負けじとひたすら努力を重ね、いつしか一緒に漫画を描く関係性になっていく。二人は「ライバル」であり、「同僚」であり、「友達」であった。二人が共にした時間はとても尊く、観ている者の心を熱くする。しかし、ある時を境に二人を取り巻く状況は大きく変わっていく。。。

 「ルックバック」のおもしろさは、「熱狂」にあると僕は考えている。主人公である藤野は、「漫画ばっかり書いているとオタクだっていじめられるよ」と仲のいい友達に言われても、とにかく漫画を描き続けた。朝も昼も夜も。春も夏も秋も冬も。藤野と京本の家にある参考書やスケッチブックの山積みをみて、涙が出た。少年時代、スラムダンクを観てひたすら「左手は添えるだけ」とシュート練習に熱狂したバスケットマン大澤を思い出したのだ。また、現在は障がい者支援オタクとして、毎日に仕事に没頭する自分に矜持を感じたのかもしれない。とにかく、息を吸うように努力することが当たり前になった二人の姿を見て、尊いと感じた。

 そんな藤野の熱狂の背後には、いつも「ライバル」としての京本がいた。また、「同僚」として一緒に仕事をする藤野のイラストの背景を描くのは、いつも京本だった。さらに、漫画を描く時以外のプライベートでも、藤野の後ろにはいつも「友達」としての京本がいた。

 漫画オタクがひたすら漫画だけを描き続けるこの作品に、僕はなぜ、そこまで心を打ち抜かれてしまったのか。非常に難しい問いだ。「ライバル」として。「同僚」として。「友達」として。私のうしろには、いつもあなたがいる。それこそが私の幸せ。あなたがいるから私は頑張れる。そう思える人に出会えたことの幸せ。それを得た主人公の藤野に対して、僕は「嫉妬」のような感情を抱いたのかもしれないと思った。この作品は決して明るい題材とは言い難い部分もあるが、何かに熱狂して生きること、人間の業を肯定してくれる清らかさがあるのだ。おそらく、僕も子どもの頃から何かに熱狂してきたし、これからも熱狂しながら生きていきたいのだろう。この作品を観て、そうした僕自身の中にある無意識の幸福観に気がつくことができた気がした。(向上心がないというわけではないが)必ずしもNO.1になりたいわけでもなく、ただ熱狂し続ける何かがあること。それを維持するために切磋琢磨する仲間がいること。それこそ僕が幸福に生きるための要件だったのだ。

 田臥選手から河村選手へ。スラムダンクからルックバックへ。ただ目の前のことに熱狂し続けているだけで、いつしか時代とともに、自分自身も必ずアップデートしていける。これからも自分を信じて、常に熱狂し続ける自分でありたい。

 過去に熱狂したことがある人、これから熱狂したい人、現在熱狂している人にぜひ、劇場で観ていただきたい。



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