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奄美から沖縄へと渡ったあの日


 2020年12月21日。忘れもしない。その日は冬至だった。

 奄美大島海峡でセーリングの練習を1ヶ月ほどしていたわたしは、ヨットの師匠、りゅうちゃんの後を追いかけて、沖縄へと南下する決心をした。12月、南にある奄美といえど、とても寒い日々が続いていた。

 まだ夜が明けないうちに、りゅうちゃんがわたしの船をノックする。「行こうか」緊張で寝付けなかった前の夜だったが、すぐに飛び起きた。朝の3時、4時ごろだったと思う。

 暗い中、慣れた港を出港。大島海峡内でメインの帆を上げる。暗いとマジックにかかるのだ。やけに陸が近く感じる。ドキドキ、いつも以上に緊張しながら、帆を上げ、海峡を出る頃にはゆっくり空が白んできていた。

 そこから最初の2、3時間はただ、ただ緊張と不安の嵐。ああなったらどうしよう、こうなったらどうしよう。2メートルも無いであろう波が船に当たる度にびっくりしながらも進んでいた。2、3時間も緊張と不安の中にいるとどうやら人は慣れるらしい。わたしはすっかり慣れて、少し先に見えるりゅうちゃんのあとを追いかけていた。海峡内と違って外洋は常に波がある。その揺れが心地よくなり始めていた。

 順調にセーリングをし、すでに炊いて準備していたご飯をつまみながら、日はだんだん傾いてゆく。夕方、空は早くも暗くなり始め、わたしはまた、緊張と不安の中にいた。真っ黒、遠くに見えるどこかの島の明かり、船の航海灯の明かり。時間を見ると夜22時を回っていたころだった。りゅうちゃんからポーンとメッセージが入る。「無事かい」なんてひとこと。わたしはすかさず「ちょっと怖いよ」なんて送る。

「船は淡々と走っているでしょう。大丈夫だよ」

 心が安心するのは、意外と単純だ。りゅうちゃんからもらったそのメッセージだけで、不思議と緊張と不安が溶けていった。あぁ、確かに船は淡々と走っている。不安などとは打って変わって、不思議な安心感に包まれた。シュラフに包まり、コックピットで空を眺める。360度見渡す限り黒い海。たまに波の影が船を追い越してゆく。空は満点の星だった。あぁ緊張と不安でこの美しさを見逃していたのか、と、ただ目前に広がる星空を眺める。ウトウト。少し緊張感もありつつの安心の中、仮眠を取り、2、3時間に一度起き上がってコースと風向きのチェック。そしてまた星空を眺めながら眠る。りゅうちゃんの船の明かりが、たまに波の影に隠れながら、見えていた。りゅうちゃんが居る安心感は今考えるととてつもなく大きいものだったと思う。

 夜明けは、なんとも神秘的な時間だった。暗く、星の明かりしかなかった空が徐々に藍色に変わり、水平線が薄く光差す。朝が来る。ということが、こんなにも待ち遠しかったことは人生で初めてだったかもしれない。船は淡々と進む。藍色から、暖かい赤へと空の色は変わりながら、水平線から太陽が顔を出した。とても安心する時間だった。波がキラキラと朝日に輝く。満点の星たちは太陽の光に取り込まれ、空はただ淡い色をしていた。太陽が「おはよう」と挨拶をする。

 一夜をかけて海を走る。その経験は、わたしと船の絆を強めたものに感じた。あの不思議な安心感と、一体感を、わたしはこの先ずっと忘れないと思う。

 満点の星空、船を追い越してゆく波の影、船の跡を残す夜光虫、朝日が登る安堵感、遠くを走るりゅうちゃんの船。

 自然を、海を、船を、とてもとても近くに感じた。わたしも自然その中の一部であることを実感した。初めての夜はそれほど大切なものになった。

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なんて書き途中でよく放棄するあたしです。ちゃんと書いていこうとか決意しては三日坊主、決意しては三行坊主。笑

もう早、この文章は一年前のことになりそうです。今は単独で南西諸島の船旅をしています◯ 伊平屋島です。またちゃんと書いていこうと決意です。笑

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