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本当の家庭料理とは

今、出版界やテレビなどのメディアで取り上げられる料理テーマの中心は、「時短」。または「手抜き」。もしくは「インパクト」。おうちごはんの時間が多くなってからそれらはますます加速気味だ。ここだけの話、大変失礼なテレビ出演の依頼もけっこういただく。私は、時短を看板に掲げている料理家ではないということでお察しいただきたい。要は、ほぼ「悪役」としての出演依頼である。

家庭料理をずっと愛してきて、家庭料理研究家として活動している私としてはなかなか複雑な思いだ。依頼者は、とりあえず顔が売れますよと言う。いやいや、そんな悪役ポジションで顔を売るのはどうかと。そもそも私は、顔を売りたくて料理家をしているのではない。本当の家庭料理の意味とは何なのか、いまこんな時代だからこそ伝えたい!という一心で料理家を続けているのだ。その趣旨を理解してくれた上で顔を売ってくれるのであれば、話は別であるが(笑)。

本来の家庭料理には、わざわざ「時短」とうたわなくても、おいしくて簡単にできる料理はたくさんある。「手抜き」とわざわざうたわなくても、家庭料理の根本や流れを知っていれば、しなくていい工程とそうじゃない工程の見分けがつくようになる。

今世の中にあふれているレシピは、動画にしても文章にしても、どれも刹那主義というか、それ1つで完結させることにこだわりすぎているため、作ってくださる方のベースになりにくいものが多い。また、インパクトを重視するため、新しい技法や荒技が次々と出てくるので、受ける側は情報過多にならざるを得ない。いずれにしてもそれらを観たら(読んだら)、その料理1品は、時に斬新な方法でおいしくできあがる。でも他にどう活かすのかはわからないし、他に何の料理を組み合わせていいのかも見えにくい。結局、日々の献立に困るようになるのだ。結果として今多くのみなさんが、献立難民となってしまっている。

本来、家庭料理とは、同じことの繰り返しで実は全然かまわない。斬新さもいらないし、大きなインパクトもいらないのだ。そのかわりに、「繰り返し方」というものがしっかり存在している。そして、それを日々積み重ねていく中で、あ、あれはあの料理のあそこの工程でいかせるなとか、この味付けは素材をかえれば、別の料理になるなということを知っていくのである。

それが自然と「早くできる料理」を知るすべとなり、知恵となり、家庭料理を雨の日も風の日も晴れの日もまわしていけるようになるのだ。

残念ながら、今のメディアでそれを伝えてくれる媒体はないといってもいい。料理は面倒なもの、嫌なもの、誰かが自分を犠牲にしてしなくてはならないもの、といったイメージをむしろ植え付けにいっている。家庭にまつわるCMでは、こぞって男性が料理を作っている。もちろん、必ずしも女性だけが料理をするものではないが、少し不自然すぎやしないだろうか。しかも、一生懸命密かにずっとがんばリ続けている「主婦」は、今世の中におきざりにされつつある。実際今家庭で料理を作っている人は、まだまだ女性が多くを占めているのにもかかわらず、どんどん隅に追いやられる感が半端ない。主婦である私が実際感じていることだ。そこには、認識の「ねじれ」がどんどん生じていると感じている。

このままだと、これからの日本の「食卓」に危機感すら感じる私である。何より、子どもたちの未来が心配だ。

だれが料理するにせよ、

料理は命に直結する。

大切な人の命をはぐくむ、とてもとても大切な人生の大仕事である。こんなに素敵でやりがいのある大仕事はない。大仕事ゆえ、大変さや苦労が実際にはかなり伴う。終わりも見えないから尚更だ。だから、料理に対して「苦手」や「嫌い」という感情が生まれるのであろう。しかし、料理が好きであっても嫌いであっても、ちょっとしたコツや知恵、何よりベースを知る機会を得られたら、その大仕事も段々と要領よくこなせるようになる。どこに手を加えて、どこで手を抜けばいいのかがわかるようになる。要は正しい手の抜き方が見えてくるのだ。そうなると、料理を「好き」にはなれなくとも自然と負担は減り、少し「楽」(らく)が見える。「好き」じゃなくても「楽」が見えたらもうこっちのもの。自分で新しい知恵を持つことも可能になっていく。

あとは市販のものやお惣菜、デリバリーももうまく組み合わせながら息抜きをしっかりとし、家庭料理をまわしていけばいい。

※家庭料理=必ず、絶対に、毎食作るということではない、ということも知っておいてほしいと思う。

本来はこういった家庭料理の流れこそ、後生にどんどん伝えていくことが大事だと考えているのは私だけなのだろうか。もちろん、時短料理も手抜き料理もその中の「流れ」の一つとして存在するのは大いに大歓迎である。でもやはりまずは、土台、ベース作りが先決ではないかと常々思っている。なるべく早いうちに。

また、こんな殺伐とした世の中になったからこそ、自分の大切な人が「卵焼き」が食べたいと言ったなら、作る人が誰であれ、あたたかいできたての卵焼きをすっと出せる世の中になってほしいとも思っている。それが2日後でも1週間後でもいいから、その小さい「食べたい」という夢を叶えられるようになっていけば、もっと世の中好転してくのではないだろうか。

たかが卵焼き、されど卵焼きなのである。

特に子どもが望むその小さな夢は、可能な限り大人は叶えていく必要がある。子どもたちの心は、今この状況の中で思ったよりも想像がつかない場所にいってしまっていることを、私は大変危惧している。

それを救うことのできる一つの手段が、家庭料理であるとも考えている。

とにかく家庭料理とは、本来プラスの世界に直結するものであり、簡単に誰かを幸せにするこのできる、実に身近な方法のひとつであるのだ。もうこれ以上マイナスの世界に陥れてはいけない。人は一生食べていくからこそ、もっと建設的な気持ちで料理を見てほしい、知ってほしいと心から願う。


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家庭料理研究家 JUNA(神田智美)

レシピブログ殿堂入りブロガー、日本ハンバーグ協会スペシャリスト

2021年5月1日 オンライン料理レッスンのECサイトをオープン!

https://junaok.official.ec/

続けることで「線」となる家庭料理の定額コースをご提供させていただいています。本来の家庭料理を知りたい方、ご興味のある方は一度ご覧ください。知らないうちにはめられてしまった料理の「足かせ」をとっていきますhttps://junaok.official.ec/items/43059201

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