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(本)それで君の声はどこにあるんだ

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沖縄県で育った著者が、アメリカのユニオン神学校でコーンという黒人神学者から学び、考えたことを記した一冊。


南北戦争なりアパルトヘイト政策という歴史の教科書での単語を見、もちろん黒人差別というのは知ってはいましたが、その理解がいかに浅かったか、そして、その張本人である黒人たちはどれほど大変な思いをして、差別に立ち向かってきたか(という過去形にはできない)が命の吹き込まれた本人の言葉で述べられています。
アメリカにて白人の警察官が黒人に暴力を振るって(場合によっては正当防衛の名の下に殺し)、それに物申す形で黒人が中心となってデモを起こすという構図は残念ながら最近になってもニュースで目にします。
ジョージ・フロイド氏が白人警察の不当とも言える拘束方法により命を落としたことに端を発して全米での抗議活動へと発展し、大阪なおみ選手が全米オープンでも人種差別抗議を表現したことで話題になったため、記憶に残っている方もいらっしゃるかと。

といっても、多くの日本人にとっては実感の伴わない「対岸の火事」のような感覚で見守っていた人が多かったのではないか。
恥ずかしながら、かくいう私も歴史的な知識の欠如から、黒人差別という400年の歴史において、今のBLM(Black lives matter)運動がどういった意味を持っているのか、キング牧師やマルコムXらの時代と比較してどのような違いがあるのか、といったことを評価する術を持ってはいません。

そんな、ほぼ白紙状態で出会った本書。
一部、専門用語については辞書を弾きながらの読書になりましたが、黒人差別・黒人神学だけではなく、未だ持って世界に蔓延る、「差別」について考えさせられる1冊になりました。
(クー・クラックス・クラン、とかジム・クロウ、ウーマニスト・・・)

黒人を明示的に差別するような法律はなくなり、オバマが大統領になったアメリカにおいても消えぬことのない黒人差別。本書では自分の知らなかった事例も紹介されており、胸が痛くなりました。
自宅のソファーで寝ていた7歳の女の子が銃で撃ち殺されたり(アイヤナ・ジョーンズ)、タバコを売っていたら警察官に首を絞められ、11回にわたって「息ができない」と搾り出したのに息絶えてしまった青年(エリック・ガーナー)。
数人とか、数字で示されるとピンときませんが、1つの事例をストーリーとして見ていくと、なんとも言えない重さを纏って、脳裏にこびりつき、離れない。
そんな、目の前で自分達の仲間が差別的に命を落とす中で、神により救われると解くキリスト教の神学は一体何の意味があるのか、事実、目の前で多くの人が苦しみ、命を落としている中で、何も救ってないじゃないか。
コーンは、そんな状況にて黒人と神学と関係とを論じた。その困難さとリスクは想像にすら難くない。世間で保たれているキリスト教のイメージや理解と、現実問題のギャップ。キリスト教が救ってるのは白人だけじゃないのか?そんな疑念を持たれても仕方ない状況にあり、どんな理論をどんな形で示していけば、神学としての役割が全うできるのか。さらに、コーン自身はキング牧師やマルコムXのような力がないから恐怖は感じなかったとはいうものの、一歩間違えば、白人の利益を害する情報を公表し(煽動し)黒人を「いうこと聞かないやつ」にしてる、と自分の身すら危険に晒す可能性があったわけですから。

Find Your Voice
自分の声を見つけなさい

ジェイムズ・コーンに学んだが中で著者が一番印象に残っているのがこの言葉だとか。自分の意見でもなく、自分の考えでもない。説教や霊歌と密接に結びついた黒人神学らしい言葉のようにも聞こえます。上述のような彼の置かれた状況を考えると、この言葉の意味がよくわかる気がします。

という一方で、彼は日本人の著者に対して、
「黒人以外の人間が、黒人の背負ってきた苦しみや痛みを理解するの難しい」と釘を刺します。
ジョージ・フロイドの死とそれに伴って起きたBLM運動を、実感を伴って自分が動かなければ、とならなかったのは単に知識不足から来る部分があります。ただ、いくら知識不足を解消したとしても、400年間という長期に苦しみに耐えてきた流れを踏まえて、危機感を感じ、行動に移さないとという衝動にかられること。コーンのいう通り、イコールでは結びつかない気がします。

では、日本人という立場にとって、差別について学ぶことは無意味なのか?
日本は差別と関係ないから、他人事で良いのか?
そんなことがNoであることは、書くまでもないですね。
日本人が戦後植民地としてきた各地に対してとってきた行動。バカチョンカメラなんて言い方までしていた、と聞きます。最近でも、アメリカではコロナをチャイニーズウイルスだとし、中国に限らずアジア人に対する差別的言動・行動は枚挙にいとまがないほど見られたとか。これに関しては、某大統領が中国を名指して批判しまくっていことも関係するでしょうが。

構造は変われど、人間と差別との関係は根深いものがありそうです。
大局的に見れば、多くの遺伝子を残し、外部環境の変化に強くなっていこうという圧力が働いても良いきがする一方、身近に目を向けると、差別が蔓延っている。本当に根深い問題です。

そんないろんなことを考えさせられた1冊でした。









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