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大局観を持つこと〜電力崩壊 戦略なき国家のエネルギー敗戦/竹内純子

自分は、土木関係の業界で働いていることもあり、安全には非常に気を使っています。
発注者という立場上、現場で直接作業をする機会は殆どないので、自分自身が現場で怪我をする可能性というのは、パトロールや現場確認にいった時くらいなのですが、発注者の責任として、特に自分の担当する工事については災害を発生させないよう、緊張感を持って業務に取り組んでいます。

それだけ気を使っていても、現場の作業、労働災害が発生してしまうことがあります。
そうなると、我々は一生懸命その原因・要因の分析を行い、再発防止対策を立案、それを現場に適用してから作業をスタートというの一連の流れです。

で、ここまでの流れを見ると特に問題なさそうに思います。
しかし、上のような個別具体の対策を続けていくと、「再発防止対策の雪だるま」状態となり、対策のために多大な労力を要するというよからぬ状況が生じ得ます。
人の命が関わる安全対策だからこそ、スリムかというか辞めるという決断が非常に困難なのですね。もしその対策をやめて災害が生じたら誰が責任を取るんだ、という話なので、皆なかなか対策をしなくて良い、とは言えない。
勢い、雪だるまがどんどん大きくなっていくという仕組みです。


安全、を考える上で本書に出ていた話が非常に示唆に富んでいたのでシェアしたいと思います。

スキーバスツアーでの事故

何年前でしたでしょうか、スキーバスツアーで交通事故が起き、多数の死者が出たことが大きく報道されました。
事故を契機に、長距離運転のあり方やバス会社に対する規制などが強化され、より安全性の高い体制が構築されました。
ここまでは、自分たちの「再発防止対策」と同じような対応ですね。

で、ここから視野を少し広げてみましょう。

本ケースでの「規制強化」の目的はなんでしょうか?
近視眼的に考えると、

・長距離バスでの事故を減らすこと

というのが回答になるかと思います。
事故が多くて困る人はいないので、これはこれで達成すべき目的かと思います。

しかしながら、規制を強化すると、大概は料金も上がります。
元々一人体制だったのを二人体制とすれば、その分の労務費もかかる。
それを負担するのはユーザー、という訳でバス代の向上につながります。

スキー場までの交通手段としては、バスと自家用車、両方が考えられます。
で、バスを選択する人はなぜバスを選択するか?
一番の動機は安いから、ではないでしょうか。
家からバス停までの移動や、移動の最中の自由度、知らない人の隣で窮屈な思いをしないといけないリスクなどを考えると、おそらく快適度合いであれば自家用車に軍配が上がるでしょう。
それでも、バスを選択する人がいるのは、ガソリン代、高速代、場合によってはレンタカー代を支払うよりもバスの方が安いから、というのが主な理由でしょう。

ここで、バスの料金が大きく上がって自家用車でのコストと同等となった場合。
バスで移動する人と自家用車で移動する人が半々になったとします。

一般に、自家用車は移動手段の中では高い事故率となっています。
一概に事故の確率と死者数だけを比べることはできませんが、仮にバスの規制強化により一部の人が自家用車移動に切り替わってしまったとすると、トータルとして事故により死亡(負傷)する人の数が増えてしまうという結果につながります。
となると、どうでしょう?

バスという個別の安全性だけは向上したけど、トータルとして国民の事故によう死亡(負傷)率を上げてしまった施策を打ってしまった、とも言えるかも知れません。

もしかしたら、自分が仕事で行っている「再発防止対策の雪だるま式の増加」は今回のバスツアーと同じようなことが起きていやしないか、とそう思うのです。

一番は、現場の方が働きやすいように。
視野狭窄に陥ることなく、広い目で安全のことを考えていかねばと思った読書体験となりました。

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