見出し画像

ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと/伊藤雄馬

一時期、ミニマリストという単語がよく聞かれる時期があった。
モノがありあまる時代に対するアンチテーゼという位置付けで語られることの多いこの言葉。2015年には流行語大賞にもノミネートされたので聞いたことのある方も多いかと。
もともとは1960年代にアメリカで起こった芸術の傾向「ミニマリズム」から生まれた言葉だそうです。

コトバンクの定義は以下の通り

持ち物をできるだけ減らし、必要最小限の物だけで暮らす人。自分にとって本当に必要な物だけを持つことでかえって豊かに生きられるという考え方で、大量生産・大量消費の現代社会において、新しく生まれたライフスタイルである。「最小限の」という意味のミニマル(minimal)から派生した造語。

流行語に合わせてか、ニュース番組などでも取り上げられていた記憶があります。
本当に必要最低限のもの以外何もない、生活感のない部屋。
たまたま自分が見かけた番組では、ミニマリストの男性が、椅子もテーブルもないので、床に直に座って(もちろん座布団もない)ご飯を食べている姿が流れていました。
思想もわかるし、モノを持たないのもわかるけど、そこまでやると不便では・・・というのが第一印象でした。

何となく言葉を聞いたことがある、断捨離もしなきゃなと思っている。
でも忙しくてなかなか・・・と現状を維持してしまっている方。
ミニマリスト指南本ではなく、本書を読むことを強くおすすめします(?)

シェアはシェアでも、ちょっと寒いからといって普通はふんどし一丁なのに何故か娘のセーラー服を着ているおっさんが出現し、吹いてしまった・・・w

本書では、著者の言語学者である伊藤雄馬さんがタイ〜ラオスに住むムラブリという狩猟採取民を研究していく過程が平易な言葉で綴られています。
学者さんというと頭もよく、きれきれな印象を持ってしまいますが、本書では失敗したことを含め記述されていて、学術界の人を身近に感じられるような作品に仕上がっています(て、伊藤さんは本当に大学を辞め、在野の研究者になっているわけですが)

伊藤さんのミニマリスト具合

(ムラブリ語を学んで)ものを持たなくなった。服は基本的に外着と寝巻きを一着ずつ、下着のふんどしを2枚持ち、毎日簡単に洗って着回している。夏服も冬服もない。寒かったら暖かい地域に移動する。暑かったら脱げばいい。靴下が苦手になったため靴が履けなくなり、代わりに雪駄や下駄を年中履くようになった。だから、一年中ほとんど外見が変わらない。
日用品はリュックに収まる量しか持たない。爪切りと歯ブラシと手拭いがあれば生活できるとわかった。食事の量も減り、自炊も増え、ご飯を炊く飯盒とアルコールランプを持ち運ぶようになった。
このように、僕の生活はシンプルにない、風通しの良いものになった。僕はこの生き方が気に入っている。

現代のものが豊富な生活から徐々に、というのを飛び越えて一気に別な境地に至ってしまった感が半端ありません。服の量は置いておいて、寒くなったら着る物ではなくて、場所で調整するという徹底ぶりw
時間とお金だけ考えると、衣服で調整というのが合理的な気もしますがこれぞムラブリ語学習の効果。自分と手元にある最低限のもので、自分を環境にフィットさせていくというのが基本姿勢なんですね。
食事の件も、それと同じことかと。

人間はどれだけ当たり前に毒されていて、それに気が付かないか

色々と勉強していくと、自分たちの価値観というものがいかに社会なり周いの環境い影響されているかがよくわかります。
お金をたくさん稼げる人に対し抱いてしまうすごいという感情や自分も金持ちになりたい!という思いなんかもその一例で、自分は深井龍之介さんという方の著作を読んで、頭をぶん殴られるような思いをしました。

言われれば、当たり前の話でお金がない時代もあったわけですもんね。
お金をいっぱい稼ぎたい!現代人でそれに文句を言ったり疑義を唱える人はまずいないでしょうが、それくらい、当たり前のことになってしまっている。

ムラブリの人たちは、”感情表現”という面でも、日本人とは大きく異なる性質を持っているそう。

現代人の感性として、一緒に笑い、騒ぎ、抱き合って、ポジティブな感情を表現して認め合うことが幸せであり、感情は外に出してこそ、誰かに知られてこそ、より幸福を感じられると信じられているようだ。人々のSNSに対する情熱を見れば、そえは明らかだ、仲間とはしゃいだ時に感じる楽しさは僕も知っている。けれど、それは一つの信仰でしかない。感情のあり方や表現の仕方に、絶対の正解はない。僕らが「幸福」だとありがたがるものは、ごく最近に始まった一時的な流行りにすぎないかもしれないのだ。

ある時、著者の知人がムラブリの人から「Aさんに会いたい」と言われ、車で連れて行ってあげたそう。で、実際に会ってみると、話をするでも、抱き合ったり喜んだりするわけでもなかった。あげくの果てには、「いつ帰るんだ?」と言われる始末。
詳しくは本書に譲るとして、ムラブリの感情は”下がる”が幸せだそう。上がるが幸せだと思っている(思わされている)自分たちとしては理解し難い部分がありますが、日本風にいうと「心が下がる」ことが幸せなのだそう。その時の気持ちをわざわざ他人にもわかるように表に出す必要を感じない、とのことのようだ。


当たり前と思っていたことが当たり前じゃなかったと知る。
これまで自分がどんな狭い考えの中でもがき、苦しんできたかを知る。
それで、ほんの少しだけ気持ちが楽になる(知的好奇心が満たされる)。

そんなことも、読書の素敵な効用ですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?