見出し画像

(レビュー)52ヘルツのクジラたち〜LGBTとDVとヤングケアラーと

ちょっと時間ができたので、映画館で見てきました。
ネタバレ含むので、未読・未鑑賞の方でこれから楽しみたいという方はここまでで止めておくのが吉でございます。

(結論)
・インプット情報を全くなく映画を見たら、LGBTやDVを取り上げた現代社会のダークサドを描いた作品だった。(タイトルから、ちょっとメルヘンな話を勝手に期待していた)
・目を引くタイトルの意味は、「仲間の聞き取れない周波数の声で歌うクジラ」。LGBTやDVを含めた社会的マジョリティの人たちが声を上げても、周囲の理解がえられ辛い状況を暗喩してるものと思われる。
・映画だけを素直にみると、LGBTやDVの実態を映像やストーリーを持って解像度高く理解ができた一方、それらが都合よく使われているようにも見えてしまい、ちょっと冷めてしまうとともに当事者たちはどう思うのかな、ということも考えてしまった。


あらすじ

主たる登場人物は4名。

三島キコ:主人公。女性。高校卒業以降、父の介助者(ヤングケアラー)として3年ほど世間との関わりなく生活していたところ、父が誤嚥により肺炎に。そのことを母親に強く責められ、自殺しかけたところ、岡田安吾に救われる。
無事、社会復帰を果たし勤務先の常務(新名)と恋仲になり、誰もが羨むような生活を手にいれる。しかし、新名には家族が決めた婚約者がいた。

岡田安吾:準主役。キコを自殺から救うだけではなく、その社会復帰を含め全面的にサポートする。だが、彼には母親や周囲の人に伝えていない「元女性」という過去があった。キコを大事に思うがあまり、新名と婚約者、そしてキコのことをリークし、関係破壊を試みる。無事、新名は一族から破門されたが、その仕返しとして、男性になっていることを知らない母親に、心の準備なく”事実を突きつける”という暴挙にでる。母親に全てを伝えた翌日、自殺する。

新名主税:三島の勤務先の常務。三島に惚れ込み、一緒になるべく高級マンションを準備する。岡田にキコとは別に婚約者がいることをリークされた腹いせに、岡田が「男性」になったことを知らない母親とサプライズで再開させるという暴挙に出る。三島と岡田が男女の仲だったのではないかとの疑いの目を持ち、常に岡田を敵対。

愛(いとし):岡田を自殺で失い、自らも自殺を試みた三島は一命を取り留めたのち、離島での生活を始める。その離島で出会った言葉が喋れない男の子。彼もまた親からネグレクトされていて、母親から舌にタバコの火を押し付けられたことから言葉を発せなくなった。髪の毛が長いのは、母親の代わりに育ててくれた「ちほ」さんががん患者であり、カツラをプレゼントしたいからという設定。

高校卒業後、父親のヤングケアラーとして世間とは隔絶した生活を送っていたキコ。介護を始めて3年目のある日、父親が誤嚥で肺炎を発症し、それをひどく母親に責められます。
「おまえが死ねばよかった」と。
外部情報に触れることなく生活の全てを父親にささげ、かつ母親の収入で生活していたキコにとって、そのセリフは自分の生存している価値をも否定されるもの。

病院からの帰り、我を失いトラックに轢かれそうになったところを旧友と岡田に救われます。
旧友と岡田はキコを救うべく、父親の介護の公的サポートを得るべく役所を一緒に周り、ついにキコは家を出て自立する道を選びます。

勤務する工場の常務である新名に見初められたキコ。
二人の中は深まり、いつしか高級マンションで2人暮らしをするようになります。
そんな幸せな生活も束の間、新名と取引先の会社の令嬢とが婚約とのニュースが入ってきます。

新名が「キコのお世話になった人たちに挨拶がしたい」と岡田とも顔見知りの関係でしたが、初対面から岡田への不快感をあらわにする新名。その雰囲気から、岡田はキコに対し新名との別れを勧めます。
しかし、不遇を抜け出し幸せを掴んだキコ。なぜ岡田がそんなことを言うのか理解できませんでした。

キコに幸せになってもらいたい岡田は、強硬策にでます。
新名が婚約者がいるにもかかわらずキコとの関係を続けていることをリークし、婚約の話は破棄、取引先も失った責任から新名自身もクビとなります。

目には目を。
岡田は今でこそ男性の身なりをしていますが、トランスジェンダーであり以前は女性だったことを突き止めた新名。
心の準備すらできていない母親を呼び寄せ、男になった我が娘と無理やりに対面させます。
いっときは状況を受け入れられず、パニックになった母親でしたが徐々に落ち着きを取り戻し、岡田のことを受け入れる決意をし、2人で田舎に帰ることに。
しかし、その決意の翌日、岡田は遺書を残し、変わり果てた姿で見つかるのでした。

遺書の1つは新名宛であり、キコと別れるようにお願いするもの。
それを手にした新名は、中身を見ることもなく遺書を燃やします。
それで糸が切れたキコは、包丁で自らの腹部を刺し命を絶とうとしました。

一命を取り留めたキコは、ヤングケアラー時代の第一の人生、岡田に救われてからの第二の人生、そして自殺未遂をしてからの第三の人生として、福岡の離島を選びます。
そこで出会ったのが、DVを受けて言葉を発することのできない愛(いとし)という男の子でした。

記憶をたよりに勢いで打ちましたが、こんな流れ。

所感

キコがヤングケアラーを脱して幸せを手に入れ、同じく辛い過去をもつ愛(いとし)を助けるという構図は、ちょっとフィクション感が漂うストーリーではありますが、希望と勇気を我々に与えてくれます。
また、志尊さん(岡田役)の役作りも素晴らしかった。
実は自分にもトランスジェンダーの友人がいるのですが、言語化が難しい特徴をよくとらえているなと多いました。

でも、1映画作品としては不満の残る内容でした。
その一つは、話ができすぎている感があるところ。
岡田がキコと出会ってから、また、キコが愛とであってからそれぞれが助ける役〜助けられる役というふうな役割を担うのですが、「なぜそこまでする!?」というくらい助ける側が親切。
もちろん世の中には素晴らしい方もたくさんいて、孤児のサポートに寄付されているような殊勝な取り組みをなされている方がいることは存じています。
にしても、たまたまトラックに轢かれかけるシーンに出会してから、自分の労働時間をけずったり会社を辞めてまで寄り添ってくれようする岡田や旧友の姿はちょっと違和感がありました。

また、特にキコと愛の周囲の人間の描き方にちょっとわざとらしさが透けて見えてしまい、なんとなく、2人とも頑張れ!と視聴している側に思わせるようにつくってるなぁと冷めた目で見てしまいました。
愛の母親が、DVを疑い問い詰めてきたキコに突然飲んでいたビールをかけるあたりなんか、そんな印象でした。
って、自分の勤務する飲食店の目の前でビールを飲んでいる時点で「ダメ親」
感を出しすぎなような。そして、それを顔面にかけるって。


と、一部気になる部分はあったものの、2時間半飽きることなく見ることができましたし、DVやヤングケアラーやLGBTに対する啓蒙にもなる作品だなと思いました。
自分は書籍の方は読んでませんが、レビューを見る限り、本屋大賞受賞も納得の出来だそう。手に取ってみたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?